第14話 『ふろしきエプロンと、小さなモデルさん』



火曜日の午前中。

洗濯機の音を聞きながら、結月はそっと白い本を開いた。


ページは《衣服製作場》。

ふろしき用の布を広げ、端を縫いながら、ふと思い立つ。


(ふろしきって、ただ包むだけじゃもったいない。

バッグにもなるし、エプロンにしてもきっと可愛い……)


和柄とシンプルな形――

海外の人にも、日常の中で使ってもらえるようなものがいい。


選んだ布は、柔らかな生成りに、藍で描かれた梅の模様。

結月は慎重に布を折り、縫い、

腰に回す紐の部分は、しっかりめの綾織りのリネンを合わせた。


タグには、小さな刺繍糸で「Yuzu Handmade」の文字。


(よし……)



その日の午後。

幼稚園バスから降りてきた陽菜が、目をきらきらさせて家に駆け込んできた。


「ママ~、“しょうかいしていい?”っておともだちに言われたの!」


「えっ?」


「この前のクッキーの包み、あやちゃんが“すごいおしゃれ”って言ってくれて、

それを見たゆりちゃんが“ママがつくったの?”って聞いてたって!」


「うれしいねぇ……!でも、内緒のお話だから、“ママが作った”ってだけにしてね」


「うんっ!」



「じゃあ、ごほうびに……モデルさんしてくれる?」


「えっ、なに?」


「今日つくったエプロン……陽菜のサイズでもつけられるようにしてみたの。

フリマに出す前に、写真を撮ってみたいなって思って」


「やるやるっ!」


リビングの明るい窓辺で、陽菜がくるりと一回転する。

ふろしき風のエプロンが、ふわりと揺れて、とても可愛らしい。


「はい、こっち向いて、笑って~」


パシャッ。


スマホに映ったのは、やさしい光に包まれた、小さな“和の魔法”。


(……これ、外国の人にも届くかな)


陽菜が「これ、かわいいって言ってくれるかなー?」と聞くと、

結月はにっこり笑って答えた。


「うん、きっと“初めて見るのに、なつかしい気がする”って思ってくれるよ」



夜。

エプロンの写真と説明文を、丁寧に英語で入力する。


“Inspired by Japanese furoshiki, this apron wraps your days gently.

Easy to fold, easy to wear. For cooking, crafting, or just being cozy.”

(日本の風呂敷からインスピレーションを得たこのエプロンは、あなたの毎日を優しく包みます。

折り畳みやすく、着脱も簡単。お料理や工作、あるいはただくつろぐ時など、どんなシーンにも活躍します。)


(さあ、どうか“必要としてくれている人”に届きますように……)


心の中でそっとつぶやいて、出品ボタンを押した。



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