第3話


「警部、ステーシーには兄がいるようです。名前はジョージ。アリシア公爵令嬢の騎士をしていたそうです」

「おぉ、兄も関係者か。それは怪しいな」


 キールの説明にダフマンはにやりと顔を変えると説明の続きを促した。


 ジョージはアリシア公爵令嬢が10歳頃から騎士をしているようだった。平民上がりではあったが、180センチを超えるたくましい体躯に恵まれて16歳の頃には騎士学校でその年の最優秀騎士に選ばれている。


 それもあってテレスタフィア公爵家はジョージに興味を持っていた。公爵はジョージと面接をして、アリシアも会った末、ジョージはアリシアの護衛として雇われることになった。


 今は8年ほどアリシアの騎士をしているようだ。


 ステーシーは5年ほど前からこの屋敷で働いている。もちろん兄のジョージがきっかけ。


 2人が仕えたアリシアはロイ王子の婚約者候補として最有力候補だった。アリシアは活発な性格と聞くが、育ちがよくさらに頭もよく回る方で立居振る舞いは一目置かれていた。


 礼儀正しく華があると噂の令嬢だった。


「その騎士であるジョージは2ヶ月前に突然解雇されたようです。そして今は実家の近くに戻っていると聞きました。午後に取り調べに馬車で行く予定です」


 騎士学校を卒業してからずっと仕えてきた公爵家からの突然の解雇。


 一体何があったのだろうか――。


「もしかしてステーシーと兄の2人で犯行に及んだのでしょうか?」

「それもあり得るな。人生の多くを費やしてきた公爵家から解雇されるなんて何か大きな理由があるに違いない。その忠誠心から殺したいほどの憎さに変わることだってあるだろうからな」


 ダフマンは人の非情さを思いため息をついた。


「この前もありましたよね。伯爵子息がメイドに手を出していて、手を出していたメイド全員に“君だけだよ”なんて甘い言葉を零していたけど、それを本気に思っていたあるメイドがそれが嘘だと分かって、愛していたはずの子息の頭も身体も金槌で何度も⋯⋯」


 キールは思い出したのか口元に手を当てて言葉を飲み込んだ。キールは一息ついてメモ帳にジョージと書くとぐるぐると丸を書いた。


 午後になるとジョージとステーシーの実家のある小さな町へダフマンとキールは訪れていた。


 時間までジョージとステーシーのことを町の人に聞いてみると仲の良い兄弟だと口々に言っていた。


 家族で出掛けることもよく見かけられた。ジョージはこの町の人からも人気があるようで、好青年だと話す人が多い。


 ダフマンは人気ひとけのない路地へ入るとキールに顔を近づけた。


「好青年と周りから言われるような人物の方が何かあった時にやらかすことが多いんだ。令嬢と共にした8年の間に憎悪を育ててきたのか、はたまた8年間分の忠誠心をひっくり返す劇的なことがあったのか⋯⋯」

「ステーシーとの関係も良かったみたいですし、2人が共犯の可能性は大きいですよね」


 ダフマンとキールは兄妹にかかる疑いの目をお互い交差させた。

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