外れスキル【畑耕し】で辺境追放された俺、実は作物が無限に採れるチート能力だったと判明し、気ままなスローライフを送っていたら、いつの間にか最強国家の食糧事情を掌握していた件

旅する書斎(☆ほしい)

第1話

「アルス、お前は今日限りでパーティー追放だ」


玉座の間。国王陛下や大臣たちが並ぶ前で、勇者ライオスが冷たく言い放った。

彼の言葉に、俺は特に驚きもせず、ただ静かに頭を下げた。まあ、いつかはこうなると思っていた。


「理由はわかるな? お前のスキル【畑耕し】は、魔王討伐を目指す我々にとって何一つ役に立たない。足手まといなんだよ」

ライオスの隣に立つ魔法使いのセシルが、扇子で口元を隠しながら嘲笑う。

金髪縦ロールのいかにもお嬢様然とした彼女は、最初から俺のことを見下していた。


「本当にそうですね。アルスさんがいるだけで、全体の士気が下がりますわ」

女神官のオリヴィアも、困ったような顔をしながら追従する。

聖母のような微笑みを浮かべてはいるが、その瞳の奥には侮蔑の色が隠しきれていない。俺は知っている。


「まあ、そういうことだ。異論はあるまい?」

ライオスが最終通告のように言った。

こいつらはいつもそうだ。自分たちの都合のいいように物事を進め、俺の意見など最初から聞く気もない。


「ありません。今までお世話になりました」

俺は表情を変えずに答えた。内心では「やっとか」という安堵感すらあった。

こいつらとくだらない魔王討伐ごっこに付き合うのは、もううんざりだったんだ。


「ふん、物分かりが良くて助かる。餞別代わりに、これを持っていくといい。辺境の土地の権利書だ。痩せた土地だが、お前のスキルなら何かしら役に立つかもしれんぞ? まあ、期待はしていないがな!」

ライオスが放り投げてきた羊皮紙を、俺は静かに拾い上げる。

辺境の土地か。魔物も多く、人も寄り付かない不毛の地と聞いている。

ある意味、俺にはお似合いの場所なのかもしれない。


「ありがとうございます。それでは、失礼いたします」

一礼し、俺は玉座の間を後にした。

背後でライオスたちの高笑いが聞こえたが、もうどうでもよかった。


王都を出て、街道をひたすら西へ。

追放されたとはいえ、不思議と気分は晴れやかだった。

勇者パーティーでの日々は、息苦しいだけだったからな。

朝から晩まで訓練に明け暮れ、少しでもミスをすれば罵倒される。

【畑耕し】という農業系のスキルしか持たない俺は、常にパーティーの劣等生扱いだった。


もっとも、俺自身はこのスキルを気に入っている。

元々、田舎の農家の生まれだ。土をいじり、作物を育てることは性に合っていた。

ただ、この世界では攻撃魔法や剣術スキルこそが至高とされ、生産系のスキルは軽んじられる傾向にある。

特に勇者パーティーとなれば、その風潮はより顕著だった。


(まあ、これからは誰にも気兼ねなく畑仕事ができるな)

そんなことを考えながら、俺は歩き続けた。

食料は道中の村で少し分けてもらった干し肉とパンだけ。

野宿を繰り返しながら、数週間かけてようやく目的の土地にたどり着いた。


そこは、噂に違わぬ荒れ果てた場所だった。

見渡す限り広がるのは、茶色く枯れた大地と、まばらに生える痩せた木々。

人の住んでいる気配は全くない。

近くに小さな川が流れているのが、唯一の救いか。


「さて、どうしたものか……」

途方に暮れる、というよりは、むしろ少しワクワクしていた。

こんな何もない土地だからこそ、俺のスキルが活きるかもしれない。


とりあえず、川の近くに小さな小屋を建てることにした。

幸い、周囲には手頃な太さの木がいくつか生えている。

斧はないので、パーティー時代に荷物持ちとして使っていた頑丈なナイフで、少しずつ木を切り倒していく。

数日かけて、雨風をしのげる程度の粗末な小屋が完成した。


次に、食料の確保だ。

持って来た干し肉も底をつき始めている。

狩りをするにも、まともな武器も技術もない。

やはり、俺にできることといえば……。


「【畑耕し】、か」

俺は小屋の前に広がる荒れた土地を見つめた。

このスキルは、土を耕し、種を蒔き、作物を育てるという、ただそれだけのものだ。

パーティーにいた頃は、せいぜい野営地で小さな家庭菜園を作る程度の役しか果たせなかった。

しかも、育つ作物は普通の品質で、量も大したことはない。

ライオスたちに「役立たず」と罵られるのも無理はないと思っていた。


だが、今は違う。

誰にも文句を言われる筋合いはないし、自分のために畑を耕すのだ。

俺は懐から、故郷の村で手に入れた野菜の種を取り出した。

カブとジャガイモの種だ。保存が利きやすく、比較的育てやすい。


「よし、やるか」

俺は意を決して、荒れた地面に手をかざした。

「スキル発動、【畑耕し】!」


瞬間、俺の手のひらから淡い緑色の光が溢れ出し、地面へと吸い込まれていく。

光が広がった範囲の土が、まるで意思を持っているかのようにひとりでに耕され始めた。

硬く乾燥していた土が、見る見るうちにふかふかと柔らかくなっていく。

これは……いつもと同じ効果のはずだ。


俺は耕された畑に、カブとジャガイモの種を丁寧に蒔いていった。

最後に、川から汲んできた水をたっぷりと与える。

「さて、あとは数日待つだけだな」

普通の野菜なら、収穫まで数週間から数ヶ月はかかるだろう。

気長に待つしかない。


そう思って、俺は小屋に戻り、少し早い夕食の準備を始めた。

残りの干し肉を齧りながら、明日からのことを考える。

まずは畑の周りに柵を作って、野生動物から作物を守らないといけないな。

それから、もっとしっかりとした住居も必要だ。


そんなことを考えていると、ふと外の様子が気になった。

まさかとは思うが、もう動物が寄ってきたのだろうか。

俺は用心深く小屋の扉を少しだけ開け、外を覗いた。


「なっ……!?」

思わず声が出た。

目の前に広がる光景が信じられなかった。


さっき種を蒔いたばかりの畑が、青々とした葉で埋め尽くされている。

カブもジャガイモも、もう収穫できそうなほどに大きく育っているのだ。

しかも、そのどれもが瑞々しく、見るからに美味そうだ。


「嘘だろ……?」

俺は慌てて畑に駆け寄った。

カブを一つ引き抜いてみる。ずっしりと重く、丸々と太っている。

ジャガイモも掘り起こしてみると、ゴロゴロと大ぶりの芋が出てくる。

しかも、だ。

種を蒔いた覚えのない場所にまで、びっしりと作物が実っている。

まるで、一つの種から何十もの作物が無限に湧き出ているかのようだ。


「なんだこれ……【畑耕し】って、こんなスキルだったか?」

俺は呆然と呟いた。

パーティーにいた頃は、こんな現象は一度も起こらなかった。

せいぜい、種を蒔いた分だけ、普通の作物が育つ程度だったはずだ。


もしかして、追放されたことで何かが変わったのか?

あるいは、この辺境の土地が特殊なのだろうか?

いや、それよりも……。


俺は試しに、収穫したカブの隣に、また新しいカブの種を一つ蒔いてみた。

そして、再びスキルを発動する。

「【畑耕し】!」


緑色の光が地面を走り、種を包み込む。

すると、次の瞬間。

蒔いた種から勢いよく芽が吹き出し、ぐんぐんと成長していく。

数分もしないうちに、それは立派なカブになり、さらにその周囲にも次々と新しいカブが出現し始めた。

あっという間に、そこはカブだらけの一角になってしまった。


「……マジか」

開いた口が塞がらない。

これは、どう考えても普通の【畑耕し】じゃない。

一度種をまけば、無限に作物が収穫できる? しかも、超高速で?

品質も、見ただけでわかる。これは最高級品だ。


(もしかして、俺のスキル、とんでもないチート能力だったんじゃ……?)

今まで役立たずだと思っていたスキルが、実は規格外の可能性を秘めていた。

その事実に、俺は打ち震えた。

これは、人生大逆転のチャンスかもしれない。


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