いつも理不尽な目に遭っている陰キャの僕が、クラスの明るい巨乳ギャルを助けたら、彼女と仲良くなりました。

フィステリアタナカ

第1話 巨乳ギャルを助けたのは骨折り損?

 体が痛い。体が痛いし心も辛い。


「何だよその目。陰キャのくせに生意気なんだよ!」


 高校一年生の六月初め。僕はクラスの二人組の標的ターゲットになっていた。最初は揶揄われるだけだったが、今や殴る蹴るは当たり前、僕が反撃しないことをいいことに徐々に彼らの理不尽さが増していった。


優介ゆうすけ、俺らに精神的ダメージを与えた慰謝料として昼飯奢ってもらおうぜ」

和貴かずき、そんなの当然だろ。どうせなら小遣いも貰おうぜ」


 今日、彼らは僕に金銭的な要求をするつもりらしい。僕はそれが悔しくて、彼らの嘲笑を目に焼き付けた。いつか。いつか復讐してやる。


「優介それやり過ぎ。さすがにダメだって」


 優介君を止めたのはクラスの巨乳ギャル高橋怜香れいかさん。彼女は学年でもトップクラスの美人で、優介君の彼女でもある。そんな彼女が優介君をやり過ぎだと止めた。彼女を含めクラスのみんなはいつも、僕がやられているのを見て見ぬふりをするのに、そんな中珍しく彼女が止めたことに驚いた。


「怜香なんだよ。こいつには何してもいいんだよ」

「流石にお金絡みは良くないって。先生にバレたら大変なことになるよ」


 僕は自分の力で何もできないのが悔しい。優介君は止められてムカついたのか、彼は僕に蹴りを入れた。


「痛っ」

「何だその顔。早くあっちへ行け」


 十か月だ。十か月我慢すればクラス替えがある。勉強して進学クラスへ行けば、おそらく彼と離れることができる。それまでの辛抱だ。


「和貴、行こうぜ」

「ああ」


 この日はこれで終わったが、次の日、僕の教科書は濡れていて使える状態ではなかった。誰がやったか? それは火を見るよりも明らかだ。


 ◆


 土曜日、僕は新作ゲームのパッケージ版を買うため街へ出かける。「帰ったら目茶苦茶やり込もう」と浮足立った気分でいると、会いたくない連中が見えた。そうあの二人組と高橋さんを含めた三人の女子だ。彼らの楽しそうな姿を見て、「やられた方は一生嫌な思いとして残るのに、やった方の彼らは平気で忘れるんだな」と思いつつ、彼らに気づかれないように注意をした。そんな中優介君は通りすがる人にぶつかる。


「痛っえな――どこ見て歩いて……」


 調子に乗っている優介君はいかにも悪そうな雰囲気の三人組の大人にいちゃもんを付ける。あーあ、あれはやってしまったな。


「おう、兄ちゃん。それはコッチのセリフだ。礼儀がなってないからちょっとつら貸せや」


 彼らはドスの効いた声でそう言われ、明らかにビビっている。返事をすることさえできない様子だ。


「おい、黙ってんじゃねぇよ」

「あれ? この子おっぱい大きくてカワイイじゃん。野郎じゃなくコイツ借りようぜ」

「なあ、この子をちょっと二、三時間貸してくれたら許してやってもいいぞ」

「なんなら、三人貸してくれてもいいんだぞ。どうする?」


 ざまぁ見ろ。これで逃げたら彼らの評価もガタ落ちで、おそらく優介君は彼女と別れることになるだろう。日頃の行いが悪いから、跳ね返ってくるんだよ。因果応報だよ。


「わ、わかりました」

「ちょっと! 何言っているのよ優介!」


「おう、じゃあ借りてくな。ありがとさん――関係ないのはさっさと行け!」


 高橋さんを置いて、女子二人を含めた四人はその場から去った。僕は「これで別れるの確定だな」と思いつつ、ゲームを買いに――、ん? 待てよ。高橋さんはどうなるんだ? きっとどこかに連れて行かれ酷い目に遭うよな。「やられた方は一生嫌な思いとして残る」彼女の心の傷は測りしれない。それでも僕は何もできない。あんな怖い大人じゃ何も――。そうだよ、僕は傷付くことには慣れている。彼女が傷つかないで済むなら、ダメもとで交渉しよう。結果はどうなるかわからないが、路地裏へ連れて行かれる彼女を追いかけた。


 ◆


「す、すみません!」


 僕は路地裏で声を振り絞って、三人の男に話しかけた。男の一人は僕に用件を尋ねる。


「何だ、てめえ。何か俺らに用でもあるんか?」


 声が出ない。僕は男の傍にいる高橋さんを見ると、彼女は怯えていた。僕は彼女を何とか助けたい、その思いで言葉を出した。


「さっきのやり取りを見てました。彼女は何もしていないのに何で連れて行くんですか?」


 男達はお互いの顔を見た後、余裕な表情で僕に言った。


「ハッハッハッ、こいつ面白ぇえじゃん。あのなガキ。こいつの連れが粗相そそうをしたんだよ――」

「それが何だって言うんですか! 彼女自身には関係ないことですよね?」

「文句があるならヤルか?」


 痛いのは慣れている。痛いのは慣れている。僕は意思を伝える。


「はい。文句があります」

「そうか――」


 一人の男が僕に近づいて来る。手を掴まれ、腕をひねられる。あっ、これずっと痛いヤツだ。


「高橋さん、逃げて……」


 痛みに耐えながら彼女にそう伝える。彼女は一瞬戸惑ったあと、この場から逃げようとした。


「おっと、姉ちゃん。あんたは逃げなくていいの」

「いや! やめて! ください!」

「おいおい、そんな大きな声を出すなよ」


「うわぁぁぁ! 誰かぁぁぁ!」


 僕はこの日一番の大声を出す。もしかしたら異常に気付いて誰か来てくれるかもしれない。


「ちっ、面倒くせぇな」

「なぁ、これ人来るぞ」

「仕方ねぇなぁ」


 腕を掴んでいた男は不機嫌さを表に出し、僕をそのまま投げ飛ばした。地面に倒れ込んだとき、右腕のジンジンする痛みに気づき「ああ、これは折れたかも」しばらく動けなかった。男達は立ち去り、高橋さんが寄って来る。


「大丈夫?」

「ダメかも。救急車呼べる?」

「わかった」


 このあと僕は救急車に運ばれ、レントゲン検査を受ける。結果は全治二か月の骨折。「あんなことで骨折とは――弱いなぁ、自分」僕は月曜日から学校へ行けるか、少し不安だった。


 ◆


「今日のHRは席替えやるぞ」


 月曜日。この日は四時限目のHRで席替えが行われた。「別にどこでもいいや。それよりも教科書が無い方が不便だ」とそんなことを考えながらクジを引くと、一番後ろの窓際の席。隣の席にはあの高橋さんが座った。


「ウッソ隣じゃん。慎次しんじ、土曜日はありがとうね」


 驚いた。隣に高橋さんがいることもそうだが、彼女が僕の名前を知っていたからだ。


「うちのせいで骨折しちゃったんだよね?」

「ん? 高橋さんのせいじゃないよ。あの怖い男の人のせいだよ」

「違うよ。うちのせいだよ」

「高橋さんのせいじゃないと思うんだけどなぁ」


 僕は優介と和貴を見る。ん? そう言えば高橋さん、いつもいる友達と今日は喋っていなかったような――まあ、そうだよね。あの状況で見捨てられたようなもんだから。


「慎次ってこの後のお昼って暇?」

「いつも暇だよ」

「じゃあさ。一緒にご飯食べようよ」

「へっ?」

「いつもいる友達とは今日はお昼一緒に食べたくなくて、慎次となら食べてもいいかなって」


 状況を整理しよう。常日頃、理不尽な目に遭っている陰キャの僕が、クラスの明るい巨乳ギャルを助けた結果、一緒にお昼を食べる。そういうことだよね?


「どう?」

「うん、喜んで。一緒に食べよ」

「ふふふ。決まり」


 彼女の微笑みを見て「こんな風に笑うんだ」そんなことを思いつつ、HRは彼女のことをずっと意識していた。

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