津軽海峡フェリー
十和田湖・八甲田ゴールドラインは、十和田湖側から走れば、国道一〇二号で奥入瀬渓谷を走り抜け、国道一〇三号で八甲田山を越えるルートなんだ。青森市まで下りて来ればこのコースを完走したことになる。
「アスピーテラインとゴールドラインを走ったんは自慢になるで」
自慢するために走ってるのじゃない、と格好を付けたいけど、バイク乗り同士の会話となると、どうしたって、
『どこを走ったことがあるか』
これが話題になるもの。見知らぬ人同士だから共通の話題がそこになるのは不可避でもあるし必然でもあるぐらいかな。
「同じコースでもモンキーで走ったんは価値あるで」
そ、それはあるはず。どんなバイクで走っても勝手ではあるけど、これまたどうしたってモンキー乗りはどこかで軽く見られるのよね。ここも言い切ってしまえば、
『そんなバイクじゃ、たかが知れてる』
そういう目でみるのはいるもの。これもしょうがいないと言えばしょうがないとは思うよ。モンキーも含めた小型バイクって、ツーリングと言ってもご近所限定みたいな見方をされてしまうし、
「そういうバイクやってレビューされてるもんな」
現実もそう言う部分はあるから否定もしにくいかな。だからこそ遠方の有名コースを走ったことがあると言うと見る目が少し変わってくれるかな。
「変わる言うても、よくもまぁって呆れられる感じやけどな」
今日はとにかく先を急いだ部分はあるのよね。急いだばっかりに十和田湖の遊覧船どころか、八甲田山のロープーウェイもコータローに力づくで断念させられた。
「そうは全部回れるか!」
わかってるって。ここは青森市だけど前に広がる海は陸奥湾で、東に下北半島、西に、えっと、えっと、竜飛岬が先っぽだけど、あの半島なんて言ったっけ。
「津軽半島や」
そんな名前だったのか。知らなかった。今日のツーリングを急いだ理由だけど、すべては青森市に元凶がある。
「それでも出航の二十分前やから良かったやんか」
だよね。通常の一時間前なんてされたらアスピーテラインは無理だ。ここが青森のフェリーターミナルか。なんかGSの自動支払機みたいなところで操作すると乗船手続きは終了とは便利だよね。
誘導員に乗船チケットをちぎってもらって、すぐ乗り込めるのは嬉しいな。バイクを停めて船室にGOだ。ところでさ、どうして青函連絡船にしなかったの。
「あれはトラックがメインで・・・」
バイクを冷遇してないとはしてたけど、車幅制限があるのか。でもさぁ、乗ってるのはモンキーだよ。車幅制限なんて関係しようがないじゃない。
「七五〇ミリまでなんよ。モンキーは七五五ミリや」
えっ、バイクの車幅ってハンドル幅で、これはバイクの大小とはあんまり関係ないとは言え、モンキーより車幅の小さい大型がOKなのはどこか複雑な感じだ。
「そやな、HAYABUSAやったら乗れるもんな」
はぁ、はぁ、はぁ。あんなバケモノでも乗れるのか。この世の不条理もここに極まれりだ。別にさ、津軽海峡フェリーが劣るとか、なんとかの話じゃないんだよ。
「伊勢で赤福餅をお土産に買ったつもりやったんが、御福餅やったぐらいの差やろ」
わかりにくいぞ。どうせ言うならスタバと思ったらドトールぐらいの差だろ。要するに実質は殆ど差がないけどネームバリューの差だ。だってだよ、青森から函館と言えば青函連絡船じゃない。
つうかさ、津軽海峡フェリーなんてものが存在してるのも知らなかった。どっちに乗っても函館に着くのは同じだけど、後で人に話す時に大違いだ。だいたいだぞ、関西人で津軽海峡フェリーなんて知ってるのが何人いるかじゃない。千草を本当に愛しているのなら五ミリぐらいなんとかしろ、それが夫の仕事だろうが。
「ムチャ言うな」
このフェリーは一四時二十分に青森を出航して、十八時に函館なんだ。つまりは三時間四十分の船旅。船内はエスカレーターがあったのが新鮮だったかな。船室はスタンダードだったのだけどこれって、
「仮眠するのが多いんやろ」
マットを敷いただけの雑魚寝部屋だ。上級の部屋だとベッドもあるみたいだけど、三時間四十分だぞ。
「長距離トラックの運転手が多いからやろ」
なるほどね。後は妙に充実した自販機コーナーとか、キッズルーム、他にはドッグルームもあるみたいだ。ペット好きは多いよな。千草たちは寝るには中途半端だから、
「ホテルの休憩時間ぐらいあるで」
どこのホテルの話をしてるんだよ。あんな雑魚寝部屋でやるやつなんかいるものか。後のシャワーだって困るじゃないの。それでも青函連絡船よりカジュアルらしい。フェリーは陸奥湾から津軽海峡に入り函館港に無事到着。
「ここは北・・・」
ここは北海道だ。ついについに北海道にもモンキーの轍を刻んだんだ。これを言うのは妻である千草の役目だ。危なかった。
「♪は~るばる来たぜ、函館」
ヘタクソな歌で気分を壊すな。それにだぞ、コータローは幾つなんだよ。
「千草より一つ下や」
それは生まれ年で学年は同じだし、そもそも十日ぐらいしか離れてないだろうが。そんな年齢マウントが幼馴染の千草に通用するはずがあるものか。だいぶ日が暮れて来てるけど、
「緯度が高いからな」
おっ、スノブらしいツッコミだ。緯度が高いところは、夏は日が長くて白夜になるところもある代わりに、冬は殆ど夜になるところがあるぐらい知ってるぞ。
「さすが千草や」
バカしてるのか! フェリー乗り場から函館駅に移動。函館の中心街はこっちらしいんだ。それは良いとして、
「函館と言ったら」
イカメシだ。可愛すぎる妻のお願いだからそうなると思ってたら、連れて行かれたのはラーメン屋じゃないか。北海道ではラーメン屋にイカメシがあるのかと思ったのだけど無いぞ。
「函館ラーメンは塩ラーメンやで」
そっちか。そっちはそっちで食べたいのだけど、それだったらイカメシで引っ張るな。妙な期待感が出ちゃったもの。この辺はどこのラーメンだってある程度はそうなってる気がするけど、函館のラーメン屋さんだからって塩ラーメンしかない訳じゃない。
醤油だって、味噌だってあるし、つけ麺だってある。千草のような観光客にしたら、王道と言うか、オーソドックスな函館ラーメンを食べたいけど、
「なにが王道で、なにが邪道かなんかあらへんのやと思うわ」
これだけラーメン屋があればそうなるのだろうな。千草たちは旅人だから塩ラーメンと半チャンセットにした。これはこれで美味しいよ。お腹も膨れたから宿と思ったのだけど、次に連れていかれたのが何故かロープーウェイ。
おいおい八甲田のロープーウェイの埋め合わせをこんなところでしなくてもと思ったけど、これって、そうだそうだ、函館と言えば、
「夜景や」
函館と神戸、長崎が三大夜景ってされてるのだけど、
「函館観光したやつでも夜景まで見たんは多ないと思うで」
日が暮れないと見れないものね。そしてやっと宿に向かった。
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