第16話 一 ドワーフと樽
「生きる者もいる。 戦う者もいる。 彼は…いびきをかく。」
世界は衝撃で始まった。 雷でもない。神の啓示でもない。 ただの空き瓶が、彼の額に跳ね返っただけだった。
ドワーフは片目を開けた。 そしてもう片方も。 二つあることを後悔しながら。
頭痛は遅れてやってきた請求書のように。 利息と感情的な修正付きでズキズキと響いた。
彼は床に転がった瓶を見つめた。 「これがサインなら、宇宙はセラピーが必要だな」と思った。 そして次に思ったのは、「酒だ。今すぐだ」。
濡れた石のようなやる気で立ち上がる。 樽はそこにあった。忠実に。重く。 今まで聞いたどんな神よりも信頼できる存在だった—— そして彼は、かなりひどい神々の話も聞いてきた。
樽を背負い、通りを歩く。 まるで自分の墓碑銘を運んでいるかのように。
街は助けてくれない。 カビの匂い、汗、古いパン。 希望に対して人が多すぎる。
彼は「蛇の目」酒場に着いた。 歪んだ扉。 自殺志願の釘一本でぶら下がる看板。 そして店主のタルガ。 すべてを諦めた顔——文句を言うこと以外は。
「また樽かよ、ドワーフ」 彼女は驚く素振りも見せずにぼやいた。
彼はうなり声で返した。 「はい」「いいえ」「慣れとけ」の中間のような音。
いつもの隅に座る。 暗く、湿っていて、悪い決断の匂いがする場所。
ジョッキをテーブルに叩きつける。 タルガは目も合わせずに酒を注ぐ。 一口目:しらふへの侮辱。 二口目:記憶への謝罪。 三口目:一口目と二口目を消す試み。
彼は思った。 「酒は裁かない。求めない。約束しない。ただ与える。 今まで出会ったどんな神よりもな」
外では、カエルとサロンが通り過ぎる。 破れたマントに、喋る剣。 いつも走ってる。いつも何かを追ってる。
ドワーフは見た。興味ではなく。 もう見すぎて、見たくない者の目で。
もっと飲む。 すぐにいびき。 樽を抱えて。 ループ、再開。
夜は転ぶように訪れた。 優雅さも、予告もなく。 ただ、落ちた。
ドワーフは酒場を出た。 樽を引きずりながら。 まるで厄介な親戚でも連れてるように。
通りは静かだった。 不自然な静けさ。 夫婦喧嘩か、オークの襲撃の前触れのような。
路地が彼を待っていた。 いつも通り。 尿、カビたパン、破れた約束の匂い。 「家」なんて信じなくなった者には理想的な場所。
彼は小さな樽二つの間に身を落ち着けた。 偽りの友。 本物の樽は腕の中。 ほぼ抱擁。 ほぼ。
目を閉じる前に、何かを見た。
男。 破れたマント。 剣を手に。 その剣と話していた。
罵るようではなく。 会話するように。 返事を待つように。
ドワーフは眉をひそめた。 いや、ひそめようとした。 額は二日酔いで忙しかった。
「俺が飲みすぎたのか… それともあいつが飲まなすぎたのか…」
剣が答えた。 声で。 意見で。
ドワーフは笑った。 小さく。 一人で。 世界が自分より狂ってると気づいた者のように。
「鉄と会話か…」 彼はつぶやいた。 「俺の樽が喋ると思ってたのに」
無視することにした。 努力が必要なものは、いつもそうしてきたから。
横になった。 樽を抱えて。 目は半分だけ開いていた。 念のために。
街は眠っていた。 だが、彼は街を信用していなかった。
太陽は不機嫌そうに昇った。 弱い光。二日酔いのような色。 「すまん」と言いながら始まるような一日。
ドワーフは路地にいた。 樽を抱えて。 眠っているような姿勢。 だが、眠っていなかった。
いや、正確には——片目だけ眠っていた。 もう片方は半開きのまま、周囲を警戒していた。 いつも通り、疑い深く。
足音。二組。 ためらいがちなリズム。 来ているのか、逃げているのか分からないような人間。
カエルとサロン。 破れたマントと喋る剣の男。 またか。
ドワーフは思った。 「こいつらはトラブルの才能がある。 そしてトラブルは、樽を盗む才能がある」
いびきを装う。 よだれも。 平和も。 全部演技。
だが、準備はできていた。 最も怠惰な意味での「準備」だったが。
瓶が蹴られた。 軽く。 地面を試すように。
彼は少しだけ動いた。 目覚めそうな演技。 それだけで、彼らを遠ざけるには十分だった。
カエルは一歩下がる。 サロンが何かをつぶやく。 剣が皮肉で返す。
ドワーフはそれ以上動かなかった。 ただ、心の中で思った。
「樽は神聖だ。 神聖なものは、よそ者と分けるもんじゃない」
太陽が昇る。 街が目覚める。 だが彼はそのまま。 眠りと警戒の間。 樽と世界の間。
夕暮れ。 オレンジ色の光。 古いビールのような色。 路地はいつも以上に静かだった。 そして「いつも」でも十分すぎるほど静かだった。
ドワーフはそこにいた。 いつも通り。 樽を抱えて。 忘れられた像のような姿勢で。
空気が変わった。 少しだけ。 だが、それだけで不快だった。
寒さではない。 「何かがおかしい」という感覚。
彼は片目を開けた。 そしてもう片方も。 いつものように、後悔しながら。
周囲を見渡す。 何もない。 ただの路地。 ただの静けさ。
だが、その静けさは演技だった。 そして彼は、演技を見抜く達人だった。
通りの奥に、二つの影が遠ざかっていく。 カエルとサロン。 破れたマントとおしゃべりな剣。
足早に歩いていた。 逃げているようにも。 何か追っているようにも。
ドワーフは見つめた。 好奇心ではなく。 世界の終わりを見て「退屈だな」と思った者の目で。
「何かがおかしい。 だが、関わるにはおかしすぎる」
目を閉じる。 樽を抱えて。 いつも通り。
世界が終わっても、 まずは寝る。
夜がまた落ちた。 今度は急ぎ足で。 まるで仕事を早く終わらせたいかのように。
ドワーフは路地にいた。 樽を抱えて。 目は半分だけ開いていた。 心は完全に閉じていた。
叫び声。 多くはない。 だが、耳障りには十分だった。
彼は見た。 カエルとサロン。 破れたマントと喋る剣。
追い詰められていた。 話すことを知らない者たちに。 ためらうことを知らない者たちに。
戦いは短かった。 戦闘というより転倒。 始まりというより終わり。
ドワーフは見ていた。 立ち上がることもなく。 関わることもなく。
彼は思った。 「何かすべきか?」
沈黙。
そして次に思った。 「奴ら、俺の樽を盗もうとした。 …ように見えた。 …いや、俺の妄想かもしれん。 だが、それだけで十分な理由だ」
もう一つの叫び声。 今度は近い。
彼は顔をそらした。 まるでチャンネルを変えるように。
そして考えた。
「酔っ払いと泥棒に手を出すと、 朝には歯がないぞ」
一口飲む。 長く。 儀式のように。
カエルが倒れた。 サロンの剣が叫んだ—— いや、ただ軋んだだけかもしれない。
ドワーフは背を向けた。 樽を抱えて。 良心は無傷。 もしくは、酔いすぎて気にしていないだけ。
路地は再び静かになった。 カエルとサロンは消えた。 通りが音を飲み込んだ。 忘れたいものを、いつもそうするように。
ドワーフはそこに残った。 樽を抱えて。 何も考えずに。 いや、すべてを考えていたかもしれない。 ただ、面倒だった。
眠気が来た。 逃避ではなく。 習慣として。
そして、夢が来た。
彼は夢を見た。 酒場。 奇妙な声。 詩で話すスライム。 椅子につまずく目隠しの女。 何もかも知っているようで、何も知らない忍者。
目を覚ました。 …いや、目を覚ました「気がした」。
彼は酒場にいた。 「蛇の目」酒場。 いつもの隅。 樽を抱えて。
歩いてきたのかもしれない。 誰かに運ばれたのかもしれない。 あるいは、世界が章を飛ばしただけかもしれない。
彼は聞かなかった。 ただ、飲んだ。
扉が音を立てて開いた。 風ではない。 切迫感だった。
フードをかぶった忍者が入ってきた。 目を見開き、呼吸は浅く。 何か——いや、誰かを失った者の姿勢。
彼は周囲を見渡した。 まるで、ビールのメニューに意味を求めるように。
その後ろには、目隠しをしたヒーラー。 入ろうとしたが、扉を間違えた。 木の扉に顔面から突っ込んだ。
「痛っ」 彼女は、傷ついた尊厳と共につぶやいた。
さらにその後ろには、スライム。 そう、スライム。 ゼリー状。青色。詩的。
彼は液体のような声で詠んだ:
「運命を探す—— ジョッキと血の間で—— 君はどこ?」
沈黙。 タルガは掃除の手を止めた。 忍者は探すのをやめた。 ヒーラーは出血を止めた。 スライムは…スライムのままだった。
ドワーフは片目を開けた。 そしてもう片方も。 ため息をついた。
彼は思った:
「そろそろ酒をやめるべきかも…」
そして次に思った:
「いや、もっと飲むべきかも。 良くなるかもしれんし」
一口飲む。 長く。 最後の一口。
樽を抱えて。 世界は崩壊中。 そして彼は、いつも通り、隅にいた。
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