【ミスした神の約束事】
シャスタは完全な人間になる事を拒み、本来の姿であるナイト2000としての使命を
シルビアは、いつでもシャスタと触れ合えるように彼が完全な人間になる事を望んでいた。
神の出した結論は、二人の望みを見事に叶えたのだ。
「神様、ありがとうございます。」
「神様の与えてくれた二つの体は大切にします。
〔良いんですよ。シルビアに約束したんですから、神としてその約束を破る事は出来ませんからね。〕
シルビアは幸せそうに微笑み、シャスタに身を寄せた。
「これからはずっと一緒なのね。もう前のように苦しまなくてもいいのね。愛してるわ、あなた。」
「私も愛してます。もう決して離さない。シルビア、愛してる。」
静かに口づけを交わす二人。
神はその様子を満足そうに見守っていた。
「そうだ、シャスタ。私をビデオに撮ってくれる?」
突然、思い出したように彼女が言った。
「良いですけど、何の為に?」
「私のナイトの記憶はいずれ消えるでしょう?だから私から私へメッセージを残したいの。」
マクファーソンがナイトに嫉妬しないようにと、苦笑していた。
前世の記憶はいずれ消える。
当然、シルビアにナイトの記憶はなくなり、彼を愛し始めたばかりのマクファーソンの記憶しかなくなる。
そうなると、マクファーソンはシャスタの愛したナイトに嫉妬をし、辛い日々を送る事になるだろう。
だから自分にメッセージを残し、嫉妬しないよう取り計らおうと思ったのだ。
「そんな事しなくても大丈夫ですよ。私はマクファーソンだけを愛します。ナイトの事は口に出しません。二人を重ねず、マクファーソンだけを見て……新しい貴女を発見していくんです。」
「無理よ。貴方の記憶からシルビア・ナイトを抹消しない限りはね。貴方はナイトを良く知ってるし、何よりも彼女を愛していたわ。だから同じ姿のマクファーソンに、知らず知らずナイトを重ねてしまう。そして貴方は混乱し、貴方とナイトの思い出をマクファーソンに話してしまうわ。」
彼女の言う通り、混乱する確率は高い。
姿が違っていたら大丈夫だったのだろうが……。
「やはり無理ですね。私は貴女の事を忘れたくありませんし……貴女との思い出を大切にしたい……。私の記憶から貴女を抹消する事など出来ません。」
「それじゃ私の記憶が消える前にお願いするわ。」
「了解。では私は車に戻ります。」
言った途端、シャスタの姿は消えた。
代わりにボイスインジケーターが赤く光り──それを見たシルビアの表情が暗くなった。
『すごい……。思いのままですよ。』
「だったら……もう一度人間になってくれる?」
『はい。』
すぐにシャスタが現れた。
「どうです?思いのままで」
言葉を失う。
彼女が抱きつき、キスをしてきたのだ。
キスを終えた彼女は悲しそうな顔をしている。
「なぜ……そんな顔をするんです……?」
何もかも解決し、悲しむ事は何もないはずだ。
「やっぱり貴方を忘れたくない……。例えそれが前世の記憶でも……貴方と育んだ愛の日々を忘れたくない……。貴方が私にくれた愛の言葉も……今はこんなにはっきり覚えているのに……。いや……貴方を忘れるなんていやよ……。」
シャスタの胸に顔をうずめ、ぽろぽろ涙を零す。
「仕方がないんですよ。貴女は生まれ変わったんです。今はもうマクファーソンという別の人間……。記憶が戻った事自体が奇跡なんですから……。」
「分かってる!分かってるわ!でも!」
大粒の涙を流すシルビアを、シャスタは悲しげに抱き締めた。
出来る事ならこのままで……ナイトの記憶を持ったシルビアでいて欲しい。
二人の思い出は二人で思い返す方が良い。
何よりも、自分の愛したシルビアがここにいる。
「私は……やはり貴女を愛している。ナイトとしての貴女を……。勿論マクファーソンも愛していますが……出逢ったばかりの彼女より貴女を愛しています……。」
「私も……ナイトとして貴方を愛してるの!」
二人が涙を流して抱き合っているのを、神は静かに見守っていた。
この二人には至福を約束しなければならない。
彼らの幸せはシャスタが人間になる事だけではない。
20年前の、二人が育んだ愛の記憶も欠けてはならないのだ。
〔シャスタ、シルビア。もう一つ約束しましょう。〕
神の声を聞き、顔を上げる二人。
「約束……?」
これ以上何をしてもらえると言うのだろう。
あまり期待していないシルビアは、再びシャスタの胸に顔をうずめた。
〔シルビア、貴女の記憶はそのままにしておきます。貴女はマクファーソンでありながらナイトの記憶も持つのです。〕
「どうしてそこまでして頂けるんですか?神様から見れば私達など取るに足らない存在でしょうに……」
〔貴方達は特別です。いいえ、私がミスをして不幸になっている者は皆特別なんです。それは人間だけでなく、生きるもの全てが対象です。ですから私は貴方達に至福を約束しなければならないんです。貴方達に必要なものは人間の姿のシャスタと、シルビアのナイトとしての記憶でしょう?〕
「ええ。そうですわ、神様……。」
彼女の言葉にシャスタも頷いた。
〔ではもう問題はありませんね。幸せになりなさい、二人とも……。〕
二人が何度も礼を言うと、やがて辺りは静まり返った。
「愛してますよ、シルビア。」
「私もよ、あなた。」
幸せそうに微笑む二人。
もう何も心配する事はない。
二人の幸せは約束されたのだ。
「さあ、帰りましょう。私達の家へ。」
「ええ。皆の待つ家へ……。」
二人を乗せた黒いトランザムは、ナイト財団本部へ向かって走って行った。
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