【待ち望んだ再会なのに】

翌日、シャスタは海にいた。

海辺を歩く彼に声をかける女性は数知れず、断るのもいい加減うんざりしていた。



「すみません、私はこの通り結婚してますので……。」



左手の指輪を見せる。

これには彼女だけでなく、遠くからチャンスを窺っていた女性達にも効果があった。



「これで一人になれる……。私が声をかけて欲しいのは貴女なんですよ、シルビア……。」



呟きながらシャスタは歩き始めた。

いつの日か巡り逢えるであろうシルビアを思い、微笑みを浮かべて彼は歩いた。


だが彼女は現れない。


今年も現れないのかと、ため息をつく。

砂浜に腰を降ろし、波打ち際を眺めた。


愛しいシルビアの姿がフラッシュバックする。


笑いながら裸足で歩く彼女。

綺麗な貝殻を見つけ、嬉しそうに拾って見せるシルビア。


そんな姿が思い出され、自然と笑顔になる。

だが……悲しみが襲う。



「逢いたい……。早く貴女に逢いたいです……。」



涙で視界がぼやけた。

そのぼやけた視界の中をシルビアが歩いている。

貝殻を拾い、自分に見せようと向かって来る。

その彼女は微笑んでいて……。


かぶりを振り、俯いた。


何度も見るフラッシュバック。

今はその思い出が辛い。



「どうしたの?具合でも悪いの?」



「いいえ……心配要りませんよ、シ──」



声をかけられ、無意識に答えてハッとした。

今の声は……。


俯いたままの視界に女性の足が見える。


今のは現実……?

そんな事はあり得ない。


だが……。


恐る恐る顔を上げたシャスタは、目の前の女性を見て言葉を失った。



「大泣きしちゃって……失恋でもした?貴方をふるなんて酷い人ね。」



大粒の涙を流すシャスタを見て、膝をつきハンカチで涙を拭く女性。

見ず知らずの男性だが放っておけなかった。


確かにシャスタほどの美男子を放っとく女性はいないだろう。


だが彼女は違った。

容姿とは関係なく、どこか懐かしい感じがするシャスタを放っておく事ができなかったのだ。


ふと、驚いたまま自分を見つめている彼と目が合った。

止めどなくあふれる涙を見て、核心をついてしまったのかと慌てだす。



「あ、ご、ごめんなさい、余計なお世話よね、え……と、お詫びにあげるわ。」



謝罪しながらピンク色の貝殻を手渡す女性。

綺麗でしょ、と微笑んでいた。



「え、な、何……?」



突然腕を掴まれ困惑する。

そのまま引き寄せられ抱き締められた。



「ち、ちょっと、離して。離さないと──」



「夢なら……夢なら覚めないでくれ!逢いたかった!」



ギュッと抱き締められ戸惑う彼女。

抵抗しようとしていたのだが、何だか訳ありのようだ。



「ね、ねえ、離してくれない……?」



「嫌だ!離したくない!」



今この腕の中にいるのはシルビアだ。

その姿、その声さえも昔のままに……。


夢でもいい、今ここに彼女がいる。



「愛してます……。」



心地よい声で囁かれる愛の告白。

その言葉に彼女はうっとりとする。


こんなに素敵な男性が私の事を……?



「シルビア、愛してる……。」



名を呼ばれ、我に返った彼女がシャスタを押し離す。



「ちょっと待って!どうして私の名を知ってるの!?貴方は誰!?」



「シルビア……?私ですよ……?覚えていないんですか……?」



「確かに私はシルビアよ?でもこの地へは初めて来たし、貴方とも初めて会うわ。誰と間違えてるの?私はマクファーソンよ?」



驚いた事に彼女の名もシルビアだった。

これでは本当に昔の彼女そのものだ。



「間違えてはいない。貴女は私のシルビアだ。20年待ったんです。」



「20年って……。私、20歳になったばかりよ?おかしいじゃないシャスタ。どういう事なの?」



この言葉で、シャスタは単なる自分の思い込みではなく、彼女がシルビアの生まれ変わりだという事を確信した。



「良いでしょう。説明しますのでこちらに来て下さい。」



彼女をナイト2000へと導く。



「すごい車ね。こんなの初めて見るわ。でも……懐かしい気がするのはなぜかしら……。」



「貴女がシルビアだからです。」



微笑んで彼が言う。



「と、とにかく説明して。」



シャスタは一呼吸おいて説明を始めた。



「話は20年前に遡ります。私が26で貴女は23。初めての結婚記念日を1ヶ月後に控えていた時でした。貴女は仕事中に怪我をして……永遠の眠りについたんです。」



永遠の眠りと聞き、申し訳なさそうな顔をするマクファーソン。



「私は貴女の後を追うつもりでした。でも貴女の遺言が私に生きる希望を与えました。私の命は永遠だから……自分の生まれ変わりを待っていてくれと……。貴女はそう言い遺して逝ってしまった……。」



悲しげなシャスタの顔を見て、聞いた事を後悔した。


そんな彼女にシャスタが微笑む。



「私は待ちましたよ?今年で20年になります。長かった……。でも貴女は戻って来た。遺言通り戻って来てくれました。」



微笑むシャスタに怪訝な顔をする。



「私がその人の生まれ変わりだって言うの?永遠の命ってどういう事?貴方が20年前に26歳だったのなら、今は46歳のはずでしょう?とても46には見えないわ。」



「私はコンピュータですからね。寿命はないんです。」



彼女の眉間のシワが深くなったのを見て苦笑した。

だが、彼女には理解してもらわなくてはならない。


シャスタはすべてを話した。

二人が愛し合った理由や自分が人間になれる訳を……。



「OK、シャスタ。それを信じるとして……なぜ私が彼女だって言うの?」



微笑みモニターに映像を映し出す。



「え?私……じゃないわよね……。」



ビデオの中で楽しそうに笑っている女性を見て驚くマクファーソン。

自分が映っているのだ。



「これは私の妻、シルビア・ナイトです。生まれ変わる前の貴女ですよ。」



「こんなの他人の空似よ。偶然だわ。」



「ではどうして私に声を掛けたんです?」



「それは……貴方が辛そうに見えたからよ。困ってる人を放っとけないし、懐かしい感じもしたから……。」



懐かしさの理由は分からないが、とにかく放っとけなかった。



「私を覚えているからですよ。」



「違う。違うわ。私は生まれ変わりじゃない。」



信じろと言う方が無理なのかも知れない。



「いいえ、貴女は間違いなくシルビアです。」



「違うったら。いい加減にしてよシャスタ。」



「ほら、貴女は私の名を呼んでいる。私は名乗ってもいないのに。」



「う、嘘!嘘よ!私は私、誰の生まれ変わりでもないわ!」



正直に言うと彼に好意を持ち始めている。

だが彼は自分を見ていない。


自分にシルビア・ナイトを重ねて見ているのだ。

自分を見て欲しいのに──。



「貴女はシルビアだ!なぜ分からないんです!?」



シャスタは彼女の両手首を掴み、怒鳴るように叫んだ。



「離して!私はマクファーソンよ!ナイトじゃ……貴方の奥さんじゃない!」



もがく彼女の胸元からネックレスが顔を出す。



「これ……は?」



ネックレスに付いているリングを見て、驚き尋ねるシャスタ。



「御守りよ。私が産まれた時に握ってたの。そこに書いてある名前を付けたって……亡くなった両親が言ってたわ。」



赤ん坊が何かを握って産まれてくる事は極稀にある事だ。



「やはり貴女はシルビアです。これは彼女を火葬する時に私が握らせた物。私達の結婚指輪です。」



自分のしているリングを見せると、マクファーソンはあまりの出来事に言葉を失っていた。



「シルビア……。」



もう間違いはない。

リングがそれを証明している。


シャスタは茫然としたままの彼女に唇を重ねた。


20年待ち続けた彼女が戻って来た。

再会の口づけは長い長い口づけだった。



「愛してます……。昔と変わらず貴女を愛してる……。」



キスを終え、微笑むシャスタ。

マクファーソンは涙を流している。



「私……私は……」



「あっ!シルビア!」



涙を流し、彼女は走り去った。



「ど、どうして……」



生まれ変わった彼女が逃げて行った。

必ず戻ると言っていた彼女が行ってしまった。



足が動かない。

ショックで足が動かない。

彼女を追いたいのに足が……。


なぜ……。

どうして逃げる……。


分からない。

彼女の気持ちが分からない……。



どうして良いか分からず、途方に暮れるシャスタだった。

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