国から捨てられて無職になったので、今日から開業医はじめます
海坂依里
第1章「聖女候補落選」
第1話「体が弱いことを理由に、無職になりました」
「聖女候補の諸君! もうすぐで部隊が帰還する!」
城の大広間に備えられている窓から、夜露に濡れた草花が太陽の光を浴びて煌いている様子が見えた。
草花が成長できる環境は平和の証であるはずなのに、わざわざモンスターの脅威が待っているダンジョンに赴くことで生計を立てている者たちがいる。
「治癒魔法の準備を!」
ダンジョンとは、かつて存在した偉人たちが名を馳せた場所の名称。
彼らは自分たちの知恵と力の証として、秘宝をダンジョンに隠すことを決意したと歴史書には残されている。
意外と歴史書に間違いはないらしく、私が住んでいるアンスベルム国はダンジョンに隠された秘宝を探し当てることに力を注いでいる。
国家予算の八割近くはダンジョンに眠る秘宝が賄っているほど、過去の遺産は私たちの国に多大なる恩恵を与えていた。
「ディアナ様、傷ついた仲間の手当てをお願いします」
「かしこまりました」
大広間に集められた将来の聖女候補の少女たちは静かに祈りを捧げ、傷ついた秘宝探索部隊を癒すために治癒魔法を発動させていく。
「……助けてください、助けてください、ディアナ様」
「もう大丈夫ですよ」
ダンジョンから戻ってきたばかりの精鋭たちは痛みに耐えながらも、治癒魔法の発動を意味する青い光に救いを求めていく。
「
複数人の男女に近づき、杖から柔らかな光を放つ。
光が傷口を包み込むと、次第に苦痛から解放された部隊の人たちは安堵の息を漏らしていく。
「ディアナ様! こちらもお願いします!」
「ディアナ様っ!」
「緊急性の高い人から順番に診ていくので、少しお待ちください!」
世界には魔法を使うことができる人と、できない人が存在する。
神様の選別と揶揄されることもあるけれど、神様がどういった理由で人間を選別しているのかを私たちは知ることができない。
「
私が神様から授けられた魔法は、病気や怪我を治療する治癒魔法。
医療分野がたいして発展していない国では治癒魔法の価値は大きく高まり、中でも命が尽きそうな人物を救うことができるほどの力を持つ医療術師は国に重宝される。
私の記憶には残っていないけれど、幼い頃に国の王子を救ったことがきっかけで、私の噂は世界中を駆け巡った。
そして、すぐに聖女候補として丁重に扱われることになった。
「はぁ、はぁ……」
次々と騎士たちに魔法を施し、その献身的な姿勢に感謝の念が広がっていくというのが聖女候補としての正しい在り方。
国のために尽くす部隊を救うことが聖女候補に与えられた使命であるはずなのに、私にはその使命を全うするほどの丈夫な体を持っていない。
「ディアナ」
「クラレッド様!」
月の光を浴びたかのような白い肌に、人々を魅力するほど美しい金色の髪。
アンスベルム国の繁栄を願う平和な空を思い起こすような蒼の瞳が、私を見つめる。
「ディアナ、無理はしないで」
「私なら大丈夫ですよ」
最も聖女に近いと言われるほどの治癒魔法の使い手である私は、アンスベルム国の次期国王であるクラレッド様に目をかけてもらっている。
聖女に選出されれば、王子と添い遂げる未来が待っているということ。
彼が聖女候補の私を心配するのは当然ことかもしれないけれど、国の王子に心配をかける私には国のお偉いさんたちからの鋭い視線が注がれる。
「ほら、今日も元気いっぱいですから」
私は、生まれつき体が弱かった。
どんなに強力な治癒魔法を使うことができても、治癒魔法は術者本人を治療することができない。
私は多くの人たちを救う力を持っているのに、私の体は産まれたときから、ずっと弱いまま。
「次の方は……」
どんなに凄い治癒魔法の使い手でも、聖女候補は世界にただ一人の存在というわけではない。
聖女候補という待遇に招かれたことが特別感を与えがちだけど、私はどこにでもいる医療術師の一人に過ぎなかった。
「ディアナ・コートニー」
「まだやれます! やらせてくださ……」
「ディアナ様、下がってください」
重々しい扉が、ゆっくりと開かれた。
現れたのは、同じ聖女候補として切磋琢磨してきた少女。
長い赤茶色の髪と青い瞳が特徴的な彼女は照れ屋で、人前に立つことを苦手としてきた。
でも、私の目の前に現れた彼女は違った。
凛とした表情で、純白のドレスを身にまとって大広間へと登場した。
「アンスベルム国の聖女に選出されました、ポリー・ドライアナと申します」
大広間に集められた聖女候補たちは、呆然と立ち尽くした。
ほとんどの治療が終わっているタイミングで現れた彼女を祝福するために、国の偉い立場の人たちは大きな歓声と拍手を送る。
「私たち……利用されたってこと……?」
「しっ! 逆らったら、殺される……」
いつかは私よりも健康的な少女が現れて、いつかは追放される日が来ると覚悟はしていた。
けれど、別れは想像していたよりも早く訪れた。
「私はディアナ様とは違って、健康な子を産むことができます」
最も聖女に近い存在と言われていた。
でも、私は二番目として踊らされていただけなのかもしれない。
本当はみんな、丈夫な体を持たない私は必要ないと思っていたのかもしれない。
「ディアナ」
「クラレッド様……」
「今このときをもって、君には城から出て行ってもらう」
私の代わりが見つかるまでの、ポリーの治癒魔法が育つまでの、茶番劇はあっけなく幕を閉じた。
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