第29話「涙とハーモニー」
文化祭本番の日、朝から校舎は独特の熱気に包まれていた。
屋上からは吹奏楽部の音が漏れ、体育館ではリハーサルの合間に歓声があがる。
誰もが心のどこかで“今日は特別な日になる”と感じていた。
──舞台袖。
詩音は、ピアノの前で深呼吸していた。
胸には緊張と不安、でも昨日のリハーサルでみんなと重ねた“勇気の音”が
今も心をやわらかく温めている。
(大丈夫、私はもうひとりじゃない)
舞台の隅で千紗が「いっしょにいよう」と手を握ってくれる。
そのぬくもりに、思わず涙がこぼれそうになる。
晴人はギターの弦を爪弾きながら、
(今日だけは素直でいよう)と自分に言い聞かせる。
純は台本を胸に抱きしめ、
(この詩が、みんなに届きますように)と祈るように目を閉じた。
──舞台の幕が上がる。
最初の音――詩音のピアノ。
澄んだ旋律が、体育館の隅々まで届く。
そこに千紗の歌声が重なり、
晴人のギターが支え、
純の詩が静かに語り始める。
「春の風が 窓を開けて
君のことを 連れてきた」
四人の音が一つになり、
観客席にも、モブの生徒たちにも、
かつてのすれ違いや不安までも包み込んでいく。
──ハーモニーのなかで、涙があふれる。
演奏の途中、詩音の目に涙が浮かぶ。
それは過去の孤独や、言葉にできなかった気持ち、
今ここで初めて受け止められた“優しさ”と“安心”の涙だった。
千紗も、歌いながら涙を流す。
(詩音、ありがとう。私も、あなたと歩きたい)
友情の重さが、胸いっぱいに広がる。
晴人も、ギターを鳴らしながら
(弱さも全部出していいんだ)と
瞳をうるませる。
純は震える声で詩を読み上げる。
「涙がこぼれても
音が重なれば
きっと、私たちはまた前を向ける」
──サブキャラや観客席。
美術部の友人がハンカチを握りしめて泣いている。
図書委員の後輩が「みんなの声、すごくきれい」と友だちの手を握る。
体育館の後ろ、卒業生も、小さな子も、先生も――
そのハーモニーに耳を澄ます。
文化祭のステージで、
“ひとりひとりのすれ違い”が“ひとつの音楽”に変わっていく奇跡。
──フィナーレ。
最後の和音が響いた瞬間、
詩音はピアノの前で涙を拭い、
千紗と固く手を握る。
晴人は純に「最高だったな」と微笑み、
純は胸いっぱいの思いで
「みんなと音を重ねてよかった」と心から思った。
客席からは、大きな拍手と歓声。
仲間や後輩、先生や家族。
全ての人の“心の音”が、今だけは重なっている。
*挿入歌(感動のクライマックス・合唱)
♪
涙とハーモニー 心が重なりあう
別々だった想いが 一つの歌になる
過去も迷いも この手で抱きしめて
今はただ 君と響かせたい
ありがとうのメロディ
これからも胸の中で
涙とハーモニー ずっと響いていく
♪
ステージを降りた四人は、
抱き合いながら泣き笑い、
言葉にならない想いを伝え合う。
「みんなと出会えてよかった」
「私たちの音は、きっとどこまでも届くよ」
そんな声が、会場のざわめきと共に春の空へと溶けていった。
この日の涙とハーモニーは、
それぞれの人生の“宝物”として、
ずっと心に響き続けるのだった。
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