第二十四話:積み重ね


――やがて模擬戦は一段落を迎えた。


“常活”スキルのおかげか、身体の疲労はすぐに引いていた。それでも心の中には、戦いの余韻が熱を帯びて残っている。


一方、ギリウスは一粒の汗を腕ですくう。それから腕を組んだまま、俺をじっと見据えてから小さく苦笑した。


「いや、お前マジかよ。前に戦ってからまだ一週間……だよな?」


ギリウスは少し肩をすくめるように話を続ける。


「最初の講習時には“ほぼ完成形”みてぇな動きしてたと思ったが……そっからもう学び直すだの次の段階だの。お前いくらなんでもおかしくねぇか?」


彼の目の奥には確かな興味が滲んでいた。探る視線、何らか試したがっているようにも感じた。


「まぁ、まだ精度が足りない部分は多いですから。今のうちに、“動き”を積み重ねたいんです」

「マジかぁ」


ギリウスはなぜか顔を仰ぐような仕草を見せる。それはともかく、やはりギリウスとの模擬戦は得られたものが多かった。これを生かせば、Lv.2への道も見えてくるだろう。


そう考えると、自然と口の端がわずかに上がっていた。


(まだ先がある……この感覚、やはり面白い)





余韻を味わう中、ゆっくりと宿に向けて歩む。


戦闘の余韻が、心地よく全身に残っていた。掌の微かな痺れ。振り抜いた剣の残像。

身体は静かに高揚感を抱えたまま落ち着いていく。


(これが“積み重ね”の感覚か)


魔物との実戦、そして今日の模擬戦。


積み重ねた経験が、一つの地平を越えさせたのだ。その先にはまた果てしない領域が広がっている。


読み切ったと思えた。だが、その裏には微かな“不安定さ”も感じ取っていた。


(“まだ”だな)


僅かな違和感もまた自覚していた。戦闘の終盤、わずかに集中が乱れかけた瞬間があった。ほんの一瞬だが、時にそれが致命的なものに繋がってしまうこともある。


敵のわずかな揺さぶり、複数の視線、体勢の崩れ。


(思考の隙を突かれれば、“読む”ことは歪む)


今は読み切った。だが今後、もっと速く、もっと鋭く、もっと複雑に揺さぶってくる敵が現れたなら?


(読み合いが深くなるほど、“精神”そのものの安定が必要になる)


集中力の維持。


――たとえ精神を乱されるような事が起きても、読みを乱さずにいられる“芯”が要る。


心の揺れすら支配下に置く技術。肉体を鍛え、型を磨くように、精神の芯もまた鍛え上げる必要があると痛感していた。そう考えると、静かに口の端が上がる。


(まだまだ、学ぶことは尽きない)


ゆっくりとギルドを後にし、夕日が沈み、橙色に染まり始めた空を見上げながら、俺は宿へと歩みを進めていったのだった。





石畳の通りには夕焼けの光が差し込み、行き交う人々の影を長く伸ばしていた。近くの露店からは、香ばしく焼けたパンの香りが流れてきて、どこか懐かしい気配が胸をくすぐる。


子どもたちの笑い声が響き、街角のベンチでは老いた吟遊詩人が小さな笛を奏でていた。その旋律は素朴だったが、不思議と心に沁みるものがあった。


(……この世界にも、“暮らし”がある)


剣を振る音や魔物の叫び声ばかりを追っていた自分にとって、この風景はとても静かで、温かかった。だが同時に、それすら“戦い”のために活かせると、今ながら思えてきた。


どこまでも、何を以ても戦いに結び付けるよう自動思考が働いているのを、実感する。それでこそ俺というものだ。


――そんな風景を胸に刻みながら、俺は宿へと戻っていった。


宿へ戻ると、夕食の配膳が進む食堂で何人かの冒険者と思わしき人々が食事をしていた。


そこにはリネアが忙しそうにテーブルを拭いていた。俺に気付くと、ぴたりと手を止め、おずおずと小さく会釈する。


「こ、こんばんわ……あの、今日も、訓練……?」

「あぁ、少しでも手応えを掴んでおきたくてな」

「あ、は、はぁ、すごいですね……」


リネアはしばらく黙った後、「あ、そうだ。お皿、運ばなきゃ」と、少し慌てたようにその場を離れた。


(この宿に世話になってから、一週間ほど経ったか)


静かに椅子に腰を下ろし、パンとスープを口に運ぶ。少しずつ、この世界の“日常”にも馴染んできた実感がある。


(だが、まだまだ先は長い)


その先にどれだけの“学び”と“戦い”が眠っているのか――それが楽しみでならなかった。





食事を終えた後、自室に戻り、窓際の椅子に腰を下ろす。小さな蝋燭が卓上にともされ、ほのかな明かりが部屋の壁に揺れていた。


(……“剣術:Lv.2”。これでようやく、“基礎”が見えた気がする)


ギリウスとの模擬戦。その一手一手を、頭の中で丁寧に再現していく。踏み込みのタイミング、回避の角度、呼吸のリズム――今のうちに整理しておけば、次に繋がるはずだ。


(剣術の“読み”は強力だが、精神への負荷がある。今は乗り切れているが――“乱された時”への対策が必要だ)


もし、あの戦いの最中に不意の割り込みや、背後からの敵が現れたなら? 同時に三方向から攻撃を受けたら? あるいは、それ以外の不測の事態が起きたら?


(俺は、まだ“揺れる”)


どんな極限の場でも、自分を保ち、戦いを続けられる精神。それは一朝一夕で身に付くものではない。だが……だからこそ。


(訓練だけじゃ足りない。“本物”の戦いの中でしか磨けないものがある)


そう、次はまた“実戦”に挑むべきだ。その先に、俺の“剣”の答えがあると確信して。







―――――――――



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