保険会社の対応は…
私は代理店に電話をかけた。しかし「ただいま電話に出ることができません」という音声が聞こえた。おそらく問い合わせが殺到しているのだろう。
——まあいいわ。何も、今すぐ電話をかけなくても補償は逃げないもの。
私は意気揚々と鼻歌を歌いながら出社の準備に取り掛かった。こんな清々しい気分は今までにない。なぜなら、私は保険に守られているんだから。
もしも会社に出社したらみんなに自慢してやろう。
同僚のマリ子、ユキエ、うす禿げた部長の坂田。
——以前、私が宇宙人襲来保険に加入したと話したとき、返ってきたのは、なんとも心無い言葉だった。
「何を言っているの、宇宙人なんて来るわけないじゃない」
「ほんと、カナコは変なところは妙にしっかりしているよねー」
「植村君、そんなことはどうでもいいからこの書類を直してくれ。あれだけ注意して見てくれと行ったのに、売上原価グラフの数値が1桁ずれているじゃないか」
どいつもこいつも、なんて愚かなんだろう。これほど素晴らしい制度を、笑って見過ごすなんて。私に倣って加入していれば、今ごろ安心できたはずなのに。
——最寄駅に到着すると、宇宙人襲来の影響で電車は一本も通っていなかった。
幸いにも、私の家は、会社からそれほど遠くない。時間をかければ歩いて行けない距離でもない。
ため息をひとつつき、歩いて出社することにした。
あとで加藤に電話が繋がったら、これも保険金で請求してやろう。もちろん、正当な理由付きで。
——街は、いつもより人がまばらだった。自衛隊の車両が道路を塞ぎ、警備員が立ち並ぶエリアに差し掛かる。そこは立ち入り禁止になっており、迂回を余儀なくされた。UFOの影響で各地の交通インフラが停止しているらしい。
いつもなら、信号が青に変わった瞬間に、弾幕系シューティングゲームのように人波が広がるスクランブル交差点。
それが今日は、指を折って数えられるほどの人数しかいない。ネットニュースには、東京都内で緊急事態宣言が発令されていた。
この様子では、マリコとユキエは出勤していなさそうだ。あの二人の意識の低さなら十分あり得る。
もしも宇宙人から被害に遭っても何も補償をしてもらえないなんて、なんて可哀想な子たち。きっと家で絶望しているに違いないw
上空に浮かぶ円盤が、街に濃い影を落としていた。
この時間なら、本来は青空が広がり、ビルは太陽の光を浴びてまぶしく輝いているはずだった。
東京都内からUFOが出現してから、すでに5時間は経過している。しかし、未確認飛行物体は行動を何一つ起こしていない。ニュースによると、おそらく地上の様子を窺っているのではないかと専門家が推測していた。
宇宙戦争、まだかな……
私はソワソワしながら空を見上げていた。こんな時のために宇宙人襲来保険に加入している人間なんて、おそらくごくわずかだろう。備えを怠った愚かな愚民たちは、きっと、私のことを羨ましく思うだろう。
あちこちに並ぶ高層ビルの中で、私はあるひとつに目を留めた。
それは、私が加入している保険会社の本社ビルだった。
ビルは、周りのビルと見比べても、明らかに高く、立派だった。
まるでこの街の王様のようにどっしりと構えている。
あんな立派なビルが、一社の保険会社の資金だけで建ってしまうなんて、驚くしかない。
でも、だからこそ私は安心なのだ。
そんな有名で立派な保険会社に安全を預けているんだから、どんなことが起こっても、私は大丈夫だ。
そんなことを思った後、UFOに異変が起きた。
円盤のまっさらな下部から何もなさそうな平らな部分がゆらゆらと波打ち、まるでレーザー砲のような形に変形した。
そして、その部分がものすごい轟音を上げて、エネルギー弾を溜め始めた。
空気が震えた。
まるで空そのものがうねっているような音とともに、装置が脈動を始める。
私は思わず、息を止めていた。
次の瞬間、レーザー砲が、咆哮を上げた。
空気は裂け、地鳴りとともに、灼熱の光線が街を貫いた。
あまりの眩しさに、目を瞑ることしかできず、息を殺した。
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