第二話 雨宮ちひろは有馬君からお使いを頼まれている

 なんとか授業を乗り切り、放課後に辿り着いた。

 

 「あ~、終わった」

 「お疲れ様。ちひろ、これからの予定は?」

 「お母さんからお使いを頼まれているんだよね。買い物しなきゃ」

 「大変だね。それじゃあ、私は帰るよ。またね」

 「うん、またね!」


 めぐみ、ごめんなさい。私は嘘を言いました。お母さんからお使いを頼まれているなんて嘘。本当はマイダーリンから頼まれたお使いなの。しかも、晩ごはんはカレーライス。私の好物。よし、さっさと買い物しに行こう。


 「忘れ物なし。よし、帰ろう」


 たまに男子から声を掛けられるけど、好きな人がいるからと言って告白は全て断っている。でも、最近、私の好きな人を探している人がいると聞いた。もし有馬君のことがバレたら、きっといじめられるに違いない。そうならないために学校では他人のフリをしている。けど、どこまでやっていけるか分からない。有馬君、大丈夫かな。


 「あっ」

 

 有馬君だ。下足室で靴に履き替えている。

 あ~、声を掛けたい!


 「有馬君」

 「高木君、どうしたの?」


 咄嗟に隠れてしまった。誰、あれ?


 「有馬君の好きなラノベがアニメ化するのは知っているでござるか?」

 「うん、知っているよ」

 「アニメグッズが来月発売するでござるよ。あ~、楽しみでござる」

 

 何あいつ。ござるござる言って。お前は江戸時代の侍か!


 「お金の余裕があれば買いたいんだけどね。今月はお小遣いがピンチで」

 「そうでござるか。では、ラノベについて熱く語ろうではないか」

 

 行ってしまった。それより、何なのあいつ。友達?


 「あっ、こんなことしている場合じゃなかった。買い物に行かなきゃ」


 スーパーマーケットのタイムセールまであと少し。急がないと。


 「私の自転車……、あった!」


 駐輪場に止めてあった自分の自転車の鍵を解錠してサドルにまたがった。よし、スーパーマーケットに直行だ。


 「事故に遭わないように、と」


 交通事故に遭ったら元も子もない。慌てているけど慎重に。


 「風が気持ちいい~」


 有馬君指定のスーパーマーケットまでもう少し。よし、お目当ての物をゲットするぞ。


 「急げ急げ」

 

 スーパーマーケットに到着した。自転車を駐輪場に止め、鍵を施錠してダッシュで店内へ。

 タイムセール品はどこだ?


 「あった!」


 今日のタイムセール品はカレールウと豚肉。

 そう、今日の晩ごはんはポークカレーとサラダ。絶対ゲットしないといけない。


 「よし、ゲットした。あとはサラダの材料を買おう」


 プチトマトとキャベツ、きゅうりを頼まれている。野菜コーナーに行こう。


 「結構安いじゃん。ラッキー」


 野菜が安売りしていた。物価高騰しているのにこれは嬉しい。

 

 「これで良いかな。よし、レジに行こう」


 最近、有馬君がアルバイトをしたいと両親に相談した。そうしたら、光熱費と食費、家賃はふたりの両親で出し合うから大丈夫だと言われた。でも、いつまでも親に甘えるのはどうなんだという気持ちがある。

 確かに勉学とアルバイトの両立は難しい。アルバイトなら私がするのに……、有馬君は本当に真面目だ。


 「お会計、千五百六十円になります」

 「二千円からでお願いします」

 「お釣り、四百四十円です」


 エコバッグ持参なので買い物袋を買う必要はない。私って家庭的。

 

 「よし、入った」

 

 パズルゲームの要領でエコバッグに食材を詰めた。よし、帰って有馬君に渡そう。


 「楽しみだな」


 前かごにエコバッグを入れてサドルにまたがり、ペダルを漕いで自転車を走らせる。

 同じ学校の生徒がこの時間帯は多くいる。バレないようにしなきゃ。


 「この道ならバレない」


 帰る道も慎重に選ばないといけない。有馬君と一緒に居るところを誰かに見られたら……、学校中で噂になっていじられるに決まっている。そうならないための他人のフリなのに……、何故か嫌になっているのは私だけかな。胸を張って有馬君と結婚したと言いたい。けど、両親がそれを許さないでいる。何でだろう。


 「何の為に結婚したんだろう」


 そうだ。何の為に結婚したんだろう。有馬君は告白してもいいと言ってくれた。なのに両親は黙っていろの一点張り。

 もしかして、学校にバレたらマズいのかな。それだと尚更結婚した意味がなくなる。


 「ただいま~」

  

 バレないように自宅に入った。

 有馬君が帰ってきていない。ござると言っていた奴と寄り道でもしているのかな。取り敢えず、食材を冷蔵庫に入れるか。


 「野菜は野菜室。カレーのルウと豚肉は冷蔵庫かな」

 

 食材の片付けが終わった。

 ん? 玄関から物音が。


 「ただいま」

 「有馬君、おかえり!」


 私だけが知っている。有馬君は前髪を上げるとめちゃくちゃ格好良い。隠れイケメンってやつだ。

 

 「食材買ってきた?」

 「うん、買ってきたよ」

 「それじゃあ、晩ごはんの支度をするね。雨宮さんは居間で寛いでいて」

 「分かった。何かあったら呼んでね」

 「うん」


 今日の授業で習ったところの復習でもしようかな。勉強しないと就職できないし。真面目に取り組もう。


 「数列の勉強をしよう。えーっと、これは……」


 ノートを見ながら考える。やっぱり難しいな。


 「自力でしてみて駄目だったら呼んで」

 「え? あっ、うん」


 有馬君が覗きに来た。びっくりした。


 「数学は難しいよね。僕も苦手だ」

 「そうなの?」

 「うん、苦手だよ。でも、理解はできる」


 理解できるの凄いよ。私なんて何も理解できていない。


 「あと、買い物ありがとう。いつもごめんね」

 「ううん、大丈夫だよ。気にしないで」

 「分かった。それじゃあ、腕によりをかけてポークカレーを作るね」

 「うん、楽しみにしてる」

 

 私はポークカレーができるまで勉強に取り組んだ。

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