『扉のむこうは異世界と東京でした。 ~スキルルームと庭と、ちょっと変な来訪者たち~』
きっこ
第1話 あなたにスキルが有効化されました。ここは、世界と世界の間です。
あなたにスキルが有効化されました。ここは、世界と世界の間です。
⸻
最初にそれが現れたのは、深夜0時ちょうどのことだった。
日付が変わって、スマホの通知が鳴る。
画面には見慣れないアプリのアイコンと、ひとつのメッセージが表示されていた。
⸻
《あなたにスキル「万創の書庫」が有効化されました》
《このスキルは唯一無二の創造権を持ち、
世界のあらゆる素材と知識を組み合わせ、生成することができます》
⸻
「……えっ?」
私は一人暮らしの狭いワンルームで、寝ぼけた頭のまま画面を見つめた。
いたって普通の人生を送ってきた私の元に、突然届いた“スキル授与”という謎の通知。
悪戯アプリかと思ったその瞬間、部屋の空気が――ふわりと歪んだ。
⸻
光に包まれる。
まぶしくて、柔らかくて、でも確かな“異質”。
気づけば私は、まったく知らない空間に立っていた。
⸻
◆
目の前には、広く清潔な白い部屋。高い天井、木の床、静かに差し込む光。
空気はあたたかく、どこか懐かしい匂いがする。
そして、正面には三つの巨大な扉。
壁際には美しい本棚が並び、棚の中央には透明な操作パネルのようなものが浮かんでいた。
⸻
《ようこそ、スキルルームへ》
《本スキルは「万創の書庫」――あらゆる物品・素材・知識を組み合わせて創造可能な空間スキルです》
《この空間では生活が可能です。通信・ネット配信機能を含み、現代社会との限定的な接続が許可されています》
⸻
「……ほんとに、夢じゃないんだ」
部屋のベッドに腰を下ろしてから、私はようやく呼吸を整えた。
これは何かの仮想現実でも、悪い冗談でもない。完全に“現実の延長線”として存在している空間だ。
⸻
試しに検索機能を使ってみると、“紅茶の葉”“桜の香り”“瓶”などの素材が表示され、組み合わせて一瞬で商品化された。
《癒しの桜ティー・瓶詰/飲用時に微弱なリラックス効果》
……これはもう、ただのスキルじゃない。
世界を少しずつ変えていける、力そのものだ。
⸻
◆三つの扉
スキルルームの奥には、まるで神殿のように並んだ三つの重厚な扉があった。
⸻
1. 【東京・中野の空き店舗】
→ 現代日本の小さな店へと繋がる扉。
→ 主人公にしか管理できず、来訪者は紹介制。
2. 【異世界・王都の裏通り】
→ 魔法やモンスターが存在する中世風の異世界の一角。
→ ここでは日本の物品が大人気。
3. 【空が映る庭空間】
→ 自然の力が満ちる広大な空間。
→ 素材栽培や創造物の実験、もふもふとの出会いの地。
⸻
「……どれから始めようかな」
扉をひとつひとつ見つめながら、私は胸の奥が少し高鳴っているのを感じた。
⸻
◆スキルルームでの暮らし
この空間には、現代的な家電も、SNSに繋がる端末もある。
ネット配信すら可能だ。
だから私は、“顔を見せない雑貨屋の店主”として、ゆるく情報発信を始めることにした。
使ったのは音声だけの匿名配信アカウント。
語るのは「便利で、ちょっと不思議な雑貨」について。
⸻
「今日は、疲れた心にやさしい“眠りの香り石”をご紹介します。
部屋に置いておくだけで、ふっと肩の力が抜けるような、そんな魔法のような香りです。――いえ、魔法ではありませんが」
⸻
そう語っているうちに、フォロワーは少しずつ増え、
「この店、どこで買えるの?」「売ってるの?」という声も増えていった。
⸻
◆試作と準備
私は日々、スキルで商品を試作しては改良を重ねていった。
• 異世界素材×日本の製法で作る「万能ハンドクリーム」
• 薬草×フルーツ×魔力抽出で作る「リラックスポーション」
• 魔力のこもった文様入り用紙を使った「スキル習得スクロール(低級)」
さらに、異世界の素材は現代日本の人々にとって“マジックアイテム”扱いされる一方、
日本の文化・嗜好品は、異世界では娯楽として重宝される。
⸻
「おいおい、この“ふりかけ”って本当に魔道食じゃないのか!?」
「マグカップで温まるスープ……! なんて文明だ……!」
⸻
私は気づいた。
地球は“魔法と実用性”を求めていて、
異世界は“文化と娯楽”を渇望している――。
その橋渡しができるのは、このスキルルームを持つ私だけ。
⸻
◆ぽふ、現る
商品準備に集中しすぎていたある日、私は久しぶりに庭空間へ足を踏み入れた。
薬草の手入れをしていたとき――ふわっ、と草の間から転がり出てきたものがある。
真っ白でふわふわ。ころんとした体に、黒いまんまるの目。
そして、「きゅぅ」と鳴いた。
⸻
「……もふもふ、出た」
⸻
スキル通知が表示された。
⸻
《もふもふ種:ぽふを獲得しました。
本体はスキル空間の住民として登録されました》
⸻
ぽふは、言葉こそ喋らないものの、どこか人の気持ちを読むような反応をする。
私が疲れているときはそっと膝に乗ってくるし、庭で素材収穫していると器用にカゴを押してくれる。
「ぽふ……君、働き者だね」
「きゅっ」
⸻
こうして、私はぽふと共に、スキルルームでの暮らしをスタートさせた。
⸻
そして、ある日。
スマホの通知がひとつ、いつもとは違う震え方で届いた。
⸻
《異変発生:地球側にて一部地域にモンスター出現を検知》
《一部住民にステータス表示、スキル獲得現象確認》
⸻
「……はじまった、のかも」
静かだった現実世界にも、ついに異変が現れ始めた。
このスキルは、そのときのために“用意された”のかもしれない――と、ふと思った。
⸻
私は静かに、スキルルームの中心にある扉の鍵をひとつ、解錠する。
⸻
「じゃあ、そろそろ――お店、始めてみようか」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます