『扉のむこうは異世界と東京でした。 ~スキルルームと庭と、ちょっと変な来訪者たち~』

きっこ

第1話 あなたにスキルが有効化されました。ここは、世界と世界の間です。

 あなたにスキルが有効化されました。ここは、世界と世界の間です。



 最初にそれが現れたのは、深夜0時ちょうどのことだった。

 日付が変わって、スマホの通知が鳴る。


 画面には見慣れないアプリのアイコンと、ひとつのメッセージが表示されていた。



《あなたにスキル「万創の書庫」が有効化されました》

《このスキルは唯一無二の創造権を持ち、

世界のあらゆる素材と知識を組み合わせ、生成することができます》



「……えっ?」


 私は一人暮らしの狭いワンルームで、寝ぼけた頭のまま画面を見つめた。

 いたって普通の人生を送ってきた私の元に、突然届いた“スキル授与”という謎の通知。

 悪戯アプリかと思ったその瞬間、部屋の空気が――ふわりと歪んだ。



 光に包まれる。

 まぶしくて、柔らかくて、でも確かな“異質”。

 気づけば私は、まったく知らない空間に立っていた。




 目の前には、広く清潔な白い部屋。高い天井、木の床、静かに差し込む光。

 空気はあたたかく、どこか懐かしい匂いがする。


 そして、正面には三つの巨大な扉。

 壁際には美しい本棚が並び、棚の中央には透明な操作パネルのようなものが浮かんでいた。



《ようこそ、スキルルームへ》

《本スキルは「万創の書庫」――あらゆる物品・素材・知識を組み合わせて創造可能な空間スキルです》


《この空間では生活が可能です。通信・ネット配信機能を含み、現代社会との限定的な接続が許可されています》



「……ほんとに、夢じゃないんだ」


 部屋のベッドに腰を下ろしてから、私はようやく呼吸を整えた。

 これは何かの仮想現実でも、悪い冗談でもない。完全に“現実の延長線”として存在している空間だ。



 試しに検索機能を使ってみると、“紅茶の葉”“桜の香り”“瓶”などの素材が表示され、組み合わせて一瞬で商品化された。


《癒しの桜ティー・瓶詰/飲用時に微弱なリラックス効果》


 ……これはもう、ただのスキルじゃない。

 世界を少しずつ変えていける、力そのものだ。



◆三つの扉


 スキルルームの奥には、まるで神殿のように並んだ三つの重厚な扉があった。



1. 【東京・中野の空き店舗】

 → 現代日本の小さな店へと繋がる扉。

 → 主人公にしか管理できず、来訪者は紹介制。

2. 【異世界・王都の裏通り】

 → 魔法やモンスターが存在する中世風の異世界の一角。

 → ここでは日本の物品が大人気。

3. 【空が映る庭空間】

 → 自然の力が満ちる広大な空間。

 → 素材栽培や創造物の実験、もふもふとの出会いの地。



「……どれから始めようかな」


 扉をひとつひとつ見つめながら、私は胸の奥が少し高鳴っているのを感じた。



◆スキルルームでの暮らし


 この空間には、現代的な家電も、SNSに繋がる端末もある。

 ネット配信すら可能だ。

 だから私は、“顔を見せない雑貨屋の店主”として、ゆるく情報発信を始めることにした。


 使ったのは音声だけの匿名配信アカウント。

 語るのは「便利で、ちょっと不思議な雑貨」について。



「今日は、疲れた心にやさしい“眠りの香り石”をご紹介します。

 部屋に置いておくだけで、ふっと肩の力が抜けるような、そんな魔法のような香りです。――いえ、魔法ではありませんが」



 そう語っているうちに、フォロワーは少しずつ増え、

「この店、どこで買えるの?」「売ってるの?」という声も増えていった。



◆試作と準備


 私は日々、スキルで商品を試作しては改良を重ねていった。

• 異世界素材×日本の製法で作る「万能ハンドクリーム」

• 薬草×フルーツ×魔力抽出で作る「リラックスポーション」

• 魔力のこもった文様入り用紙を使った「スキル習得スクロール(低級)」


 さらに、異世界の素材は現代日本の人々にとって“マジックアイテム”扱いされる一方、

 日本の文化・嗜好品は、異世界では娯楽として重宝される。



「おいおい、この“ふりかけ”って本当に魔道食じゃないのか!?」

「マグカップで温まるスープ……! なんて文明だ……!」



 私は気づいた。


地球は“魔法と実用性”を求めていて、

異世界は“文化と娯楽”を渇望している――。


 その橋渡しができるのは、このスキルルームを持つ私だけ。



◆ぽふ、現る


 商品準備に集中しすぎていたある日、私は久しぶりに庭空間へ足を踏み入れた。


 薬草の手入れをしていたとき――ふわっ、と草の間から転がり出てきたものがある。


 真っ白でふわふわ。ころんとした体に、黒いまんまるの目。


 そして、「きゅぅ」と鳴いた。



「……もふもふ、出た」



 スキル通知が表示された。



《もふもふ種:ぽふを獲得しました。

 本体はスキル空間の住民として登録されました》



 ぽふは、言葉こそ喋らないものの、どこか人の気持ちを読むような反応をする。

 私が疲れているときはそっと膝に乗ってくるし、庭で素材収穫していると器用にカゴを押してくれる。


「ぽふ……君、働き者だね」


「きゅっ」



 こうして、私はぽふと共に、スキルルームでの暮らしをスタートさせた。



 そして、ある日。


 スマホの通知がひとつ、いつもとは違う震え方で届いた。



《異変発生:地球側にて一部地域にモンスター出現を検知》

《一部住民にステータス表示、スキル獲得現象確認》



「……はじまった、のかも」


 静かだった現実世界にも、ついに異変が現れ始めた。

 このスキルは、そのときのために“用意された”のかもしれない――と、ふと思った。



 私は静かに、スキルルームの中心にある扉の鍵をひとつ、解錠する。



「じゃあ、そろそろ――お店、始めてみようか」

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