第一章
第7話 聴亜の騎士と盲目の少女①
夕方。カリヨン村は、のどかな田園風景が広がる静かな村だった。中央の広場には古びた鐘楼がそびえ立ち、村の象徴として風に揺れるたび微かに鐘の音を響かせていた。
石畳の広場を囲むように木造の家々が並び、軒先には色とりどりの花が揺れている。周囲の森は柔らかな緑に覆われ、小鳥のさえずりが心地よく響いていた。
セブンは広場に足を踏み入れ、周囲の穏やかな景色を目にして思わず声を上げる。
「いい!ココいいじゃん!」
「ホント……?ありがと」
サラはうつむきながら微笑むが、その表情にはどこか陰りがあった。セブンは彼女の様子を見つめながら、その理由を問うべきか迷う。その時、村人の声が響いた。
「あら、その声はサラ?まったくどこに行っていたの?ドイルがいない時は村の外に出ちゃダメって言ったでしょ。それと……あと誰か連れの人がいるの?」
セブンはその言葉に驚き、隣に立つエリィと顔を見合わせた。村人はセブンとエリィの存在に気づいている。しかし、その言葉の意味を考えると、彼女の視線はどこか空を彷徨っているようだった――この人も目が不自由なのか!?
セブンは戸惑いながら他の村人の様子を慎重に観察する。村の静けさの中で、彼の胸にはゾッとするような疑念が生まれていた。
――村人全員の目が不自由……だと!?
※※※
セブンは室内に足を踏み入れた途端、心地よい温もりに包まれた。サラの家は木造の落ち着いた造りで、どこか懐かしさを感じさせる。柔らかな灯りが居間を照らし、広々とした空間が広がっている。
「適当に座ってて。今、お茶出すから〜。」
サラの声が響き、促されるままに腰を下ろした。床の木板はしっかりと磨かれており、歩くたびにほのかに軋む音がする。サラは白杖を使うことなく、すいすいと動いていた。その軽やかな動きは、彼女が目が不自由だということを忘れさせるほどだ。
「サラちゃん、手伝いますよ。」
エリィが立ち上がる。彼女の気遣いは自然で、申し出に迷いがなかった。セブンは今夜、この家に泊めてもらうことになっている。エリィも同じだった。もう森に戻るには遅すぎるのだ。
つまり、セブンは今日、女子二人と一つ屋根の下で過ごすこととなった。
「お兄ちゃんとエリィお姉ちゃん、わたし夕飯の準備するから、先にお風呂に入ってくれる?」
「えっ一緒に?」
セブンはお決まりのようにボケる。
「――え、え、えっ!い、一緒になんて、そ、そんな、こ、困ります!!わ、私……セブンさんとはまだ出会って間もないのに……そ、そんな、ふしだらな――」
エリィの頬がふわっと赤く染まった。まるで思考回路がショートしたかのように、視線を泳がせている。
——可愛い。圧倒的に可愛い。
セブンはその場で一瞬、尊さに打たれた。いや、落ち着け。冷静になれ、自分。
セクハラだ……普通なら完全にアウト。でもここは仮想現実……まだそんな法律はないはず、ギリギリセーフなはずだ。
しかし、エリィの動揺っぷりがもう直球で破壊力抜群だ。これは、なんだ?バグか?本当にNPC か?っていうか仮想現実でしかこんな風に絡めねぇ俺って……うう……情けねぇ。
風呂の順番を決める場面——セブンは静かに決意した。
「……俺が先に入るべきだな。」
いくらこれは仮想現実だとはいえ、礼儀は大事だ。レディの後に入るのは失礼にあたる……気がする。そもそも風呂の順番ってそんなに重要か?いや、今はそんなことを考えている場合じゃない。
セブンは堂々とした態度で湯へ向かった。これは作法であり、紳士としての矜持——決して、本当はエリィの後に入りたかったとは思っていない。決して。
➖➖妄想➖➖
「セブンさん……着替え、ここに置いておきますね。」
脱衣所からそんな声が聞こえる――エリィだ。
「ああ、ありがとうエリィ。」
「あの……良かったらお背中お流ししましょうか?」
「――え?」
「あ、いえ……なんでもないです。」
「エリィ……頼みがあるんだが、背中を流してくれないか?どうも今日は疲れてて、腕が上がらないんだ……」
「は、はい!そういうことでしたら!」
「あぁ……上手だよ、エリィ……」
「はい、ありがとうございます。喜んでもらえて嬉しいです――あっ!濡れちゃった!」
「濡れたってどこが――?」
「キャア!急にこっちを向かないでください……もぉ、セブンさんのエッチ。」
「ごめんエリィ。でも濡れたならしょうがないね。もう一緒に入っちゃう?」
「――え?……あ……あ、はい。セブンさんが良ければ……」
「エリィ……」
「セブンさん……」
んむぅ〜♡
➖➖➖➖
「お兄ちゃん!血だらけの服洗っておくから、これ着ててね!」
「――どわぁ〜!サラちゃん!?びびび、びっくりしたぁ〜。」
「あれぇ?なんか変なこと考えてたんでしょ〜!」
「ち、違っ――あ、あれだよ、お湯って出るんだなぁって思っただけだよ。」
「お湯?ああ、魔石だよ。お兄ちゃんって何にも知らないんだね。エネルギーはぜ〜んぶ魔石なんだよ!」
「――へ、へぇ。」
セブンは瞬間的に思考を切り替える。魔石……そうか、魔物が落とすあの魔石か。それがエネルギーとして機能し、お金にも換金できる……なんだかうまく出来てんなぁ。
※※※
全員がお風呂を済ませ、食事も済んだ。サラとエリィの手作りだ。思う存分堪能し、エリィの部屋着姿も堪能した。
サラのグッジョブでエリィの部屋着は丈が短い。エリィもそれを気にしてかワンピースの裾を下げる仕草がたまらない――って変態モード爆発だが、そんな時間もあっという間に過ぎて夜になる。
テーブルを囲みながら、穏やかな談笑が続いていた。セブンはふと気になり、言葉を選びながら問いかける。
「村の人たちも目が不自由なんだね。」
聞くべきか迷ったが、これはただの雑談以上の意味を持ちそうだった。イベントの気配を感じる——サラがこの話のキーマンなのかもしれない。セブンはエリィにも目配せを送る。彼女も気にしていたようだった。
サラは少し間を置いてから、ゆっくりと答えた。
「うん……村のみんなは一年前からなの。その調査もあって、お父さんは家を留守にすることが多いんだ。」
村のみんなが最近視力を失ったのに対し、サラは違う——それに気づいたセブンはさらに問う。
「村のみんなは一年前ってことは、サラちゃんは違うんだ。」
「そう、わたしは六年前に悪くなり始めて、三年前に全部見えなくなっちゃった。」
六年前。セブンはその言葉を頭の中で反芻する。何か手がかりになるのだろうか。
「心当たりがあるの?」
「う〜ん……お母さんと一緒にカリヨンの森に遊びに出てたんだけど、その時かなぁ……」
語るサラの声が少し震える。すると、ぽろぽろと彼女の目から涙がこぼれた。言葉にならない何かを思い出しているのかもしれない。
「……うう、お母さんね、三年前に死んじゃたの。」
セブンは息を飲む。すぐにエリィが立ち上がり、サラの手をそっと取った。
「ごめんなさい、辛いことを思い出させちゃった?」
彼女の優しい声が響く。セブンもすぐに謝罪する。
「サラちゃん、もう無理に話さなくていいよ。」
状況を見守りながら、セブンはこの一連の出来事が思いがけない重要な情報へとつながるのではないか——そんな予感を抱いていた。
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