第23話 そして金欠
手に入れた冥色の魔鉱石を持って、ミル、マムル、リンティの三人は、意気揚々とスベンの工房「大地の選鉱」を訪れた。
「スベンさん! 鉱山で魔鉱石、見つけました!」
ミルは興奮気味に、手に持った冥色の魔鉱石をスベンに見せた。スベンはミルの手にある魔鉱石を見て、目を細めた。
「ほう……これはこれは……『冥色』の魔鉱石か。しかも、純度が高い。大きさも申し分ないな!」
魔鉱石を手に取り、じっと見つめた。その表情には、職人ならではの真剣さがあった。
「すごいんですか?」
ミルが尋ねると、スベンは頷いた。
「ああ。冥色の魔鉱石は珍しい上に、純度が高いものはさらに希少だ。これを加工すれば、お前さんのライフルの魔石として、素晴らしい性能を発揮するだろう」
スベンの言葉に、ミル、マムル、リンティは喜び合った。
「やったあ!」
「すごい!」
「ライフル強くなるねぇ!」
スベンは冥色の魔鉱石を手に、ミルの魔法式ライフルを見た。
「この魔鉱石を加工し、お前さんのライフルの銃床に組み込むには、少々時間がかかる。加工には4日は必要だな。そして、代金だが……冥色の魔鉱石の加工と、ライフルの改造費用込みで、特別に銀貨10枚といったところだ」
銀貨10枚。それは、ミルが今回ダイガーツに来て稼いだお金のほぼ全て、いや、少し足りないほどの金額だった。
初めてのクエスト報酬で9枚、畑の警備で6枚、護衛任務の報酬で7枚、合計22枚。しかし、武器の購入、宿代や食費、そしてあの高価なモグラのチャームの購入で、すでに銀貨10枚は手元になかった。
ミルの顔が曇るのを見て、スベンは気づいたようだった。
「ふむ……若い冒険者には、一度にその額を出すのは難しいかもしれんな」
そう言って、少し考え込んだ。そして、何か良い考えが浮かんだ様子で言った。
「よし、こうしよう。代金は、出来上がったライフルで何かクエストを完了させてからで構わん。お前さんがそのライフルで活躍し、報酬を得てから支払ってくれればいい」
ミルの懐事情を考慮して、支払いを後払いにすることを提案してくれたのだ。
「え! 本当ですか!? いいんですか!?」
ミルは驚きと感謝の気持ちでいっぱいになった。
「ああ、構わん。職人として、良い素材を良い武器に仕上げたい。それには、その武器を使う冒険者の腕前と、やる気が必要だ。お前さんには、それがあるように見える。わしの仕上げた武器を使って活躍すれば、店の宣伝にもなる。だから、先行投資というわけだ」
スベンは温かい目でミルを見た。ミルは心底感動した。
「ありがとうございます、スベンさん! 必ず、新しくなったライフルでクエストを完了させて、報酬を持ってきます!」
ミルは深々と頭を下げた。マムルも一緒に頭を下げた。リンティもスベンの心意気に感心したようだった。
「さあ、ライフルを預けてくれ。腕によりをかけて仕上げてやる」
ミルは大切にしていた相棒とも呼べる、魔法式ライフルをスベンに預けた。少し寂しい気持ちになったが、4日後には、もっと強くなって帰ってくるのだ。
「4日かぁ……どうしようかな」
スベンの工房を出て、ミルは呟いた。ライフルが手元にない4日間。そして、ダイガーツに来てから、想像以上に出費がかさんでいるのも事実だった。宿代、食事代、道具代、そしてあのモグラのチャーム……。手元に残った銀貨は、見る見るうちに減っていき、いよいよ生活資金が厳しくなってきたのだ。
リンティはミルの様子を見て、心配そうに尋ねた。
「大丈夫? お金、足りる?」
リンティは今回のクエスト報酬で得た銀貨も、まだほとんど使っていないはずだ。
彼女に頼めば、きっとお金を貸してくれるだろう。しかし、ミルはこれ以上リンティに甘えてばかりはいられないと思った。
リンティはあくまで一緒に冒険してくれる仲間であり、自分の保護者ではないのだ。
「うん……ちょっと厳しいかな……」
正直に言った。
「じゃあ、私がお金を貸してあげようか?」
リンティが申し出てくれた。しかし、ミルは首を横に振った。
「ううん、大丈夫! リンティにはいつも助けてもらってるから、これ以上迷惑かけられないよ。この4日間は、自分で何とか生活費を稼いでみるよ」
ミルは決意を込めて言った。
「自分で? どうやって?」
「ギルドで、一人でもできそうな簡単な依頼を探してみるよ。ライフルは使えないけど、まだ使える武器はあるし……体も回復したから、病み上がりでもできそうな依頼があるかもしれない」
ミルは、腰に差した最初の武器、錆びかけの短剣に触れた。正直、心もとないが、全く武器がないわけではない。
「でも……ミル、一人で大丈夫なの?」
リンティは心配そうな顔をした。マムルも不安そうだ。
「うん、大丈夫! リンティにはリンティで、何かやりたいことあるでしょう? 鉱山で他の魔鉱石を探したりとか……だから、この4日間は、別行動しよう!」
ミルはリンティにそう提案した。リンティも、今回の冥色の魔鉱石以外に、もっと珍しい魔鉱石を探してみたいと言っていたし、ドワーフ鉱山での活動に興味を持っているようだった。
リンティは少し悩んだが、ミルの強い意志を感じ取ったのか、頷いた。
「……分かったわ。でも、絶対に無理はしないこと! 危険な依頼は絶対に受けないで!何かあったら、すぐに私に連絡するのよ!」
リンティは念を押した。マムルも心配そうに言った。
「ミル、大丈夫? マムルにできることがあったら何でも言ってね!」
「ありがとう! 二人とも!」
ミルは二人の優しさに感謝した。そして、まずは生活資金を稼ぎ、一人でもできるクエストを探すため、再びギルドへと向かった。
ギルドの掲示板には、様々な依頼書が貼られている。
坑道の清掃、運搬の手伝い、行方不明になったアイテム探しなど、戦闘を伴わない依頼もいくつかある。だが、武器がない上、病み上がりという状況で安全に遂行できる内容は限られていた。しかも、そういう依頼は報酬も少ない。
(うーん……やっぱり、簡単には稼げないなあ……)
ミルは依頼書を眺めながら、少し溜息をついた。それでも、やるしかない。
「よし、明日は朝一で来て、何かできそうな依頼を探してみよう!」
ミルはそう決意し、その日はクエストを受注せず、一度宿に戻ることにした。
宿への帰り道、ミルの足取りは少し重かった。
初めて一人で生活資金を稼がなくてはならないという事実に、不安がないわけではない。これも、冒険者としての経験となるだろう。
そして、4日後には、スベンの工房で、もっと強くなったライフルが待っている。そのライフルで、またリンティやマムルと一緒に、もっと大きな冒険に出るのだ。
出来ることから頑張ろう。ミルはそう自分に言い聞かせ、ダイガーツの街の明かりを見つめながら、宿へと戻った。
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