びっくり

「ふああぁぁ。。。あ~ねむい…」


 今日は木曜日。俺は今、絶賛寝不足中だ。

 なぜだ?11時に寝床について6時に起きたはずだ。それで寝不足気味なのはおかしくないか?

 まあ、少し昨日の発言と行動を振り返ってたりしたが…それでもだろ!


「スバルくん!おはよー!」


 後ろから聞き覚えのある声がした。神美だ。


「おー。おはよう。。。」


「な、なんか眠そうだね?寝不足?」


「そう…」


「ありゃ。」


 2人きりで、少し冷える朝の通学路を話しながら歩く。


「大丈夫なの?1限目、言語文化だよ?」


「き、気合で乗り切るしかない…」


「しかも小テストだし。」


「は?え!?なにぃ!?」


「助動詞覚えた?」


「…」


 やっべぇ…ど忘れ…


「神美様!どうか助けて!」


「た、助けてって…覚えるもんなんだから助けられないよ?」


「なんとか覚え方でも…!な、なんか『すいかかえて』のもっといいバージョンとかないでしょうか?」


「ないよそんなの。」


「そんなぁ!」


「反復で覚えるしかないよ。」


「神美様はそうやって覚えたのですか…?」


「うーん、授業中で先生の話聞いて覚えた。」


「え?」


「記憶したっていえばいいのかな?先生が言葉を噛んだところとか、スバルくんが当てられたときなんて言ったかとか、一言一句言い間違えない自信があるよ!」


「え、マジィ?」 


「ボク、記憶力はいいんだよね。」


「お、おい、『いいんだよね』の領域じゃねえぞ!?」


「そう?」


「そうだよ!」


 な、なんて奴だ...瞬間記憶能力でも持ってんのか?


「す、すげぇ能力だな。」


「でも、あまりいいもんじゃないよ。」


「そうか?」


「そうだよ。だって忘れることができないんだもん。」


「忘れること?」


「うん。そうだよ。忘れられないんだよ。目をつぶると鮮明に、今起きてるみたいに、浮かび上がるんだよ…嫌なことが。」


「……でもそれって、楽しかったことも、嬉しかったことも、思い浮かべれるんだろ?」


「え?」


「確かに、ただひたすらにいい能力とは言えないが、考えようによっちゃいい能力じゃないか?嫌なことがあっても、嬉しいことで埋めちまえば全然いいだろ?」


「そんなの…」


「できるぞ!俺と知世がいるだろ?足りないか?」


「えっ?いや!そんなことは…」


「じゃあ大丈夫だな!今は辛いだろうけど、これからは楽しい記憶で目が回るぜ?」


「…ふふっ」


「な、なんだよ。い、いいだろ?こんなこと言ったって。」


「だいじょーぶ!なんでもない!」


 △△△


 ちょいちょいちょいちょいちょい!

 なになに、なに〜?いい感じじゃん!あの2人〜!


 アタシは今、2人から少し離れた電柱の後ろでバレないように観察していた。

 

 …あ、あっれぇ?このままついて行って、「ツカマエタァ〜!」って言って2人を驚かせようとしたのに…


 は、入れないよ…?アタシあの中に入れないよ…?


 え、だってあんな笑顔で話してる卯月見たら邪魔できるわけないじゃん?水差せないじゃん!


 え?なんか胸が苦しいんだけど!?

 え??てぇてぇ?これがてぇてぇって気持ちなの?


 推すの?推しちゃうの?アタシこの2人推しちゃうの?


 ん?あれ?羽田君、今こっちみた?気のせい?

 ん??あれ??卯月となんか話してる…?

 あっ逃げた。


「ちょー!」


 は、速い!あの2人速い!体育会系どもめぇ!ちょい!ま、まってぇ!怪しい人じゃないよぉ!?ミイラみたいだけど、そんなに不審者じゃないよ!?ただ電柱の後ろで隠れて観てただけだよ!?

 

「と、とにかく追いかけるしかない!」


 とにかく必死に、肺が出てきそうなほど、走って追いかけた…が、見失ってしまった。


「ひぃ…ひぃ…はぁ…ふぅ…ど、どこいった…?」


 あ、頭がまわらない…ハ、ハードすぎるよぉ…

 

 「はぁ…はぁ…あ、あれぇ?おかしいな?ここで曲がったはずなのに…」


 ─ザッ


 !?人!?後ろに!


「「うわっ!!」」


「……っ!」


 後ろにいる人から距離をとって、威嚇のためにハサミを取りだし、トラップを作る準備をする。

 相手は何人?まさか……


「うわぁ!?」「まてまて!落ち着け!俺らだ!」


「って、ア、アンタ達か!ふぅ〜。び、びっくりしたぁ…」


 張り裂けそうな緊張が体力と一緒に体から抜けて、ハサミと糸を持つ腕がぶらりと重力に従った。


「あ、その、ごめん、知世ちゃん…」


「え!?いやいや!大丈夫だって!考えればすぐわかったことだから!」


「いや、でも怖い思いさせたんだ。これ考えたのは俺だ。ごめん。」


「ちょ、ちょいちょい!みんなしてそんな!頭上げてよ!アタシだって驚かせようとしたし、そっちも驚かせようとしたんでしょ?大丈夫だって!アタシはめっっちゃ嬉しいよ!」


「そ、そうか?」


「ぜーんぜん!ぜんぜん!もー!ほらほら、2人とも早く行こうよ!遅刻しちゃうよ?学校はもうすぐだからさ〜!」


 震えてしまう足をごまかすように一歩づつ前へ進み出す。


「え?ちょ!ち、知世ちゃん!?まだホームルーム始まるまで40分もあるよ!?そんなに急がなくても!」


「なんだよ知世。もう1回走るのか?」


「走りはしないって!さっきでもうヘトヘトー!」


「言動が合ってないよ知世ちゃん!?」


 ###


「きりーつ、れい、ありがとうございましたー。」


 学級委員の一言により机の前に立っていたみんなは、気体の水粒子の動きのように、皆一斉に四方八方へと移動し始める。


「ふぅ〜!やっと終わったぁ〜!」


 もちろんアタシも例外ではない。


 てか誰よりも早く卯月の元へ動き出した気がする。

 

「ふふっ、知世ちゃんお疲れ様!ずっとノートに板書写してたの、偉かったじゃん!ほんとに知世ちゃん?」


「いやぁ、さっき新しいトラップを思い付いてさ〜!そしたらもうシャーペンが止まらなくて…!」


「良かった、本人だ!」


 あれ今アタシ貶された?


「あ、そうだ。ねぇ、スバルく…」


「………」


 卯月と一緒に羽田君の席へ視線を向けると、俯く彫刻がそこに座っていた。


「え?スバルくん?な、なんか燃え尽きてる…寝てるのかな?」


「………」


「スバルくん?」


「ウズキ、ちょっと突いてみてよ。」


「う、うん。」


 卯月がゆっくりとシャーペンのノブで羽田君の肩を突く。


 ─ツンツン


「…………はっ!しょうゆっ!!」


「うわぁ!?しょ、しょうゆ!?」


 急に顔を上げ、勢いよく謎の『醤油』というワードを吐きながら起きる羽田君に卯月がビックリする。


「ぷっ!」


「ち、知世ちゃん!何がおかしいの!?」


「ああ、いや、そんなことは…ふふっ」


 わ、笑いを抑えるのに必死で説明が…!


「だ、だって…卯月の驚き方がっ…あ、やば、ツボ入った」


「な、なんでツボに入るの!?知世ちゃんのツボ出っ張ってない!?」


「お前ら…なにやってんだ?」


「スバルくんのせいだよ!」


「え?は!?え!?なんで!?」


「ぷっ、あはははははは!も、もうだめっ!ちょっ!ぷっ、くくく…!」


「え?おい?神美?俺なんかした!?」


「しらないっ!ん?あれ?ス──」

「はぁ、もう、何が何だか分からないが、まあいいだろう。うん。次、音楽だろ?早く行こうぜ!」


 そう言ってパパッと準備した羽田君はそそくさと教室から出ていった。

 アタシ達も羽田君を追うように教室をあとにする。


 ###


 そして放課後。


「はぁ~、ウズキ〜!なんで明日休みじゃないのさ〜!」


 アタシは卯月に凭れ掛かる。

 卯月には引力があった。可愛いという名の引力がアタシの体を吸い寄せる。


 あといい匂いする。


「ふふっ。まあまあ!今日だっていいことあるでしょ?」


「なによー!ウズキ…アンタなんかいいことでもあったの?」


「え?」


「それとも、いいことでもの?」


「へ!?いや!?そんなことはっ!」


「あ、あの!神美さん!」


「「はい?」」


「は、ハモった…!?」


 え?誰コイツ?


「あれ?君は確か、一組の優地 模分太やさじ もぶたくん?」


「あ!はい、そうです!」


 え…?誰?

 というか、卯月…アンタ、名前からしてモブの子よく覚えられるね…

 って、え?、一組!?

 別の階の子!?アタシ達八組でしょ!?真反対でしょ!?何処で会ったの!?何処で知ったの!?


 頭の中から『!?』しか出てこない中、気持ちを落ち着かせて、卯月に聞いてみることにした。


「ね、ねぇ、ウズキ?『いいこと』ってコイツなの?てか、コイツと何処で会ったの?」


「いや?『いいこと』じゃないよ?ただ入学式で見ただけだよ?」


「え?入学式って皆の名前呼んでたってけ?」


「呼んでないよ?ほら、入学式ってさ、クラスごとに番号順で座るでしょ?クラスと番号が載ってる名簿から当てはめていけばわかるでしょ?」


「…」


 な、何を言っているんだ?

 要は、あの一瞬で名簿を記憶して、入学式の時に当てはめ顔と名前を覚えたと……

 ここまで記憶力高かったっけ?

 そ、それか冗談を言ってるとか?

 下手なジョークを言う担当はアタシだけなはずだけど?


「あ、あの!ヒソヒソ話してるとこ、ごめんなさい!ぼ、僕、神美さんに用があってきました!」


 あ、コイツ忘れてた。


「どうしたの?」


「い、一緒に、屋上へ来てください!」


 ま、まさか…


 ###


 そして屋上へ卯月と一緒に行ってみる。

 ある予感がしたので屋上の扉の裏で隠れて観る。


「僕と付き合ってください!」


 やっぱりぃぃぃ!!

 おい!ボーイ!やったな!?やりやがったな!?

 一体どうなるのか、分かってて言ってるんだな!?


「ありがとう。こんなボクに構ってくれるなんてうれしいよ。でも、君はボクに今何が起きてるか、何を背負ってるか知ってるの?」


「え?」


「知らなくてもしょうがないよね。へへ、ボクね、今イジメられてるんだ」


「なっ!?……」


「だから…」 


「…でも!それでも!僕が支えになります!」


「…そう、ありがとう。でもね、イジメっ子の邪魔をするってことは、目をつけられることだよ?」


「そんなの大丈夫です!」


「じゃあさ、優地くんは、自分の身を守れる?」


「え?あ、ある程度は…」

 

 きた…アレだ。


「ボクを転ばせたら付き合うよ。」


「え!?そんなのって!」


「でも君が転んだら諦めてね?」


 入学式と同じ戦法だ…!


「大丈夫なら行動で示してよ。君が今、ボクを呼び出して告白してるみたいにさ。安心して、触られたって言ってワーワー騒ぐことなんてしないから。」


「は、はい。わかりました…では、いきます!」


 ###


 …結果は一目瞭然だった。


「ほら、立てる?」


「は、はい…出しゃばってごめんなさい…」


 彼は卯月の手を取り、よろめきながらも立ち上がる。


「君は十分すごいよ?『出しゃばる』なんて言わないで。」


「でも…!」


「君はすごい行動力がある。約束だからボクのことは諦めてほしいけど、その行動力で、いい人見つけたらアタックしてみてね!応援するよ!」


「ありがとう…ございます……!」


 そう言って顔を上げた彼は、走って扉を開け、屋上を去っていった。

 すれ違った時、彼は一滴の涙を落としていた。

 アタシは今、彼の人生を大きく左右する瞬間を目撃した気がした。


 ここでアタシができることとは、彼の行動に敬意を表することだけだろう。

 心を込めてそうするとしよう。


 頑張れ!やかじ!…やたじ?

 ………………がんばれ!


「知世ちゃん?」


 後ろから扉を開けた卯月に声をかけられる。

 思わずビックっとしてしまうが気持ちを切り替え、笑顔を見せる。


「卯月〜?これで何人目?」


「31人かな?」


「もうすぐでクラス一つ分の人数になるじゃん…」


「…ねぇ、知世ちゃん、メガネ取ってみてよ。」


「え!?なんで急に?」


「いや、知世ちゃんの顔をじっと見てたらさ…なんか…なんだろう…嘘ついてるみたいなきがして……」


「…え〜?ちょいちょい!アタシ以外だったら失礼な発言だよ〜?」


「あっ!ごめん、そんなつもりは…」


「いいのいいの!びっくりしただけ!」


「え、えーっと…」


「ふふっ。行ってきたら?」


「え!?ど、どこへ?」


「アンタ、羽田君の家に行くんでしょ?」


「ふぇ!?なんでそれを!?」


 主人公が犯人だった時みたいな顔して卯月は一歩後ろへ下がった。


「あんまりアタシを舐めないでよ〜?ほら!早く行ってきな!羽田君、内心ドキドキでしょうがないかもよ?」


「ええ?そんなことないと思うけど…?…えっと、じゃあ、行ってくるね!」


「じゃね〜!」


 笑顔な卯月は駆け足で羽田君のもとへと去っていった。とてもまぶしく、アタシの影が大きくなるほど。


「…………」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る