第9話 氷の森に響く声 〜リリスの魔力、暴走の記憶〜

突如、森が揺れた。


 氷柱が粉砕され、風が逆巻く。


「っ!? この魔力……リリスだ!」


 クラリッサが顔を上げた瞬間、洞窟の奥から蒼白い閃光が走った。


「止まって……リリス、お願いっ!」


 だが、リリスは正気を失っていた。

 蒼い髪が逆立ち、目は虚ろに光を放つ。


「やめて、これは……あの時の……っ!」


 レオンがその光景に、どこか“懐かしさ”を感じた。



 彼が“100万回目”に捕まった日。

 それは、ある事件がきっかけだった。


 ──巨大企業の極秘データを盗もうとした時、突如現れた少女。


 その少女の周囲に、同じ蒼い光が渦巻いていた。


 異常なまでに感情が揺れたその瞬間、全ての機械が暴走し、彼は捕まった。


(あの事件……いや、“彼女”がいたから俺は捕まった)



「リリス! 聞こえるか! お前は、レオンが拾った“子猫”だっただろ!」


 レオンはゆっくり近づきながら言葉を紡ぐ。

 言葉の一つ一つが、心に届くように。


「お前が最初に盗んだのは、“他人の弁当”じゃない。“俺の時間”だった。たっぷり、な」


「……れ、……おん……?」


「そうだ、俺だ。こっちへ戻ってこい。お前を一人にしないって、決めたんだよ」



 言葉が、暴走を鎮めていく。

 レオンの“言葉”には、魔法とは違う力があった。


「私は……また、壊すところだった……レオン、私……」


 リリスは崩れ落ち、レオンの胸に抱かれる。


「壊していい。全部壊していい。けど……その時は一緒に逃げような」



 クラリッサはその様子を見て、微かに笑った。


(ああ、この男……ただの怪盗じゃない。心を盗んでくる、優しい怪盗だ)

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