勇者「魔王、倒せたな……」聖女「二人でイケるもんなんですね」
俊海
過去編(外伝)
「これからの魔王退治の旅、一緒に頑張ろうな」
私が、勇者様と初めて会った時の印象は、『恐怖』であった。
これから、私は魔王という恐ろしい魔物を討伐する旅に出ることになった。
聖女である私と、勇者と呼ばれる男の子の二人で。
これまでずっと教会で育てられ、歳の近い人たちと交流したことがなかったので、勇者様とお会いすることに激しい緊張を覚える。
長い旅の間、苦楽を共にするパートナー。
その人が、どのような人物であるかというのは、非常に重要なことで。
期待と不安、半々の気持ちで私は勇者様と出会うことになった。
「この部屋に勇者様がいるからちゃんとご挨拶してね〜。じゃあ、あとはごゆっくり〜」
「は、はい!」
この部屋の前まで、大司教であり、私の育ての親でもある、アナスタシア様に連れられてきた。
けれど、ここからは私が自分で踏み出さないといけない。
ガチガチに手を震えさせながら、ゆっくりと扉を開ける。
そして、深呼吸をして心を落ち着かせ、恐る恐るその部屋に入ると、
「……んあ?」
「ひっ!?」
勇者様であろう男の子がこちらに振り返った。
そして、私は小さく悲鳴を上げてしまう。
こちらを執拗に睨みつけてくる鋭い目つき。
その年齢に不釣り合いなほどに鍛えられた体。
そして、普通の人間では身に纏えない程の、尋常ではないオーラ。
正直、その辺りにいるならず者を連れてきた。と言われたら信じてしまいそうなくらい、勇者様の見た目は恐ろしかった。
私が無言でいると、勇者様も黙ったままこちらのことを見つめてくる。
何か、失礼でも働いたのだろうか。
それとも、私の身体を見て、そういう欲望の捌け口として品定めをしているのか。
どちらにせよ、恐ろしいことこの上ない。
恐怖に縛られたまま、勇者様からの反応を待つほかできなかった。
そして、勇者様が遂に口を開く。
果たして、いきなり怒鳴られるのか、それとも下卑た発言でもするのか。
そう思い、構えていると。
「えっと、君が聖女様であってるかな? もう話は聞いてると思うけど、俺はスレイ。こんなんでも勇者ってやつに選ばれた人間だ。これからよろしくな」
思った以上に温かみのある声をかけられながら、握手を求められる。
その行動が私の予想外すぎて、しばらく呆然としてしまった。
向こうからすれば、普通に挨拶しただけなのに妙に硬直しているという、おかしな人にしか見えたことだろう。
そして勇者様――スレイ様がこちらを不審そうな顔で見てくるのに気づき、ようやく慌てて手を握り返した。
「は、はい! 初めまして勇者様! 私が貴方同様、魔王討伐の使命を授かった聖女、ジュリアです! スレイ様、今後ともよろしくお願いいたします!」
「あ、ああ、よろしく」
ダメだ。
完全にやらかしてしまった。
スレイ様の引き攣ったような表情を見て、自分の失態を改めて自覚してしまう。
「ま、まあ、しょうがないといえばしょうがないか……」
「ど、どうかされましたか!? 何か私失礼でも働いて……!」
「ち、違う違う! ジュリアさんには別に落ち度とかないよ! ただ、こっちが勝手に期待しただけっていうか……」
そう言い切ると、スレイ様はどこか残念そうに肩を落としてしまった。
もしかして、私が彼を怖がってしまったことに気づかれたのでしょうか。
……勇者様を落胆させるなんて、やっぱり、私はダメな人間なんだ。
私は確かに聖女として選ばれた。
なんでも、神様からの加護というものを生まれつき授かっているようで、他の人には使えない『奇跡の力』というものが使えるからだとかで。
確かに私は、他の人よりそう言った面での能力は高いかもしれない。
けれど、もっと根本的に聖女に向いていないところがある。
それは、私が非常に怖がりだというところだ。
いくら力があっても、命のやりとりをしようだなんて思えない。
死ぬかもしれない。
ただその可能性が少しでもあるだけで、私は身動き一つ取ることができなくなる。
こんな臆病な人間に、魔王討伐などできるわけがない。
そうやって落ち込んでいると、スレイ様は慌てた様子で声をかけてくる。
「いや本当に、ジュリアさんが責任感じるようなことは全くないから! ごめん変な空気にさせちゃって!」
「い、いえいえ! こちらこそ勇者様に失礼な態度をとってしまい、申し訳ありません!」
「あー、じゃあお互い様ってことで一旦話を切ろう! このままだと際限なく互いに謝り続けることになりそうだし!」
この人、見かけによらず優しい方ですね。
見た目で判断してはいけないというのは百も承知ですが、スレイ様から滲み出ている空気が重厚すぎて、このような態度を取られることに違和感を覚えてしまう。
そして、こういうことを考えてしまうことに、さらに罪悪感を覚える。
負のスパイラルだ。
「じゃあ、改めてよろしくなジュリアさん。こんな野郎と一緒の旅とか、聖女様からしたら遠慮願いたいだろうけどさ」
「何を仰るんですか。こちらこそ聖女とは呼ばれているものの、戦闘経験など皆無に等しい身ですので、勇者様の足を引っ張るかもしれません。見たところ、貴方様の方が魔物と戦い慣れされているようなので、ご指導いただければと」
そこまで言うと、スレイ様は微妙そうな表情をしながら頭を掻き始めた。
もしかして、戦ったことがないから失望されたとか?
実際に魔物と交戦したことがないから正直に言っただけなのに。
そんな風に、今の発言を後悔していると。
「その、悪いんだけど俺を呼ぶときに様付けするの止めてくれないかな? こっちは勇者とか言われてるけど、俺からしたら、辺鄙な村に住んでただけの村人だったのに、そんな風に聖女様から持ち上げられると変な感じがしてさ」
スレイ様が、すごく申し訳なさそうに妙な要求をしてきた。
そう仰られても、
「しかし、実際に私は戦った経験がありませんし、立場としてはそちらの方が上では?」
「魔物と戦った経験は俺の方が上かもしれないけど、それだけで勇者と聖女の間に優劣がつくとは思えない。俺なんてまともな魔法は使えないし、誰かを癒すこともできない。なんなら頭の良さなら余裕でジュリアさんに負ける自信がある」
「そんな変なところで自信を持たないでくださいよ!?」
「実際バカだもの、俺」
そう言って、スレイ様は親指で自分を指しながら、ドヤ顔をされる。
……自信満々に自分を卑下するなんて、変な人。
そう思ったら、緊張が緩んで、おかしくなって、
「……ふふっ」
思わず、笑みがこぼれてしまいました。
「…………」
「……あっ!」
そして、スレイ様が顔を真っ赤にして黙りこくってしまわれた。
こ、これはもしや怒らせてしまったのでは……!
「す、すみません私ったら! 決してスレイ様を馬鹿にした訳ではなくてですね!」
「い、いやいや今のボケのつもりだったから、笑ってくれて助かったよ! むしろ笑ってくれなかった方が、俺的にはダメージデカかったし!」
咄嗟に謝ったところ、スレイ様は顔を背けながらも許してくださった。
心の広い勇者様で、本当に良かったです。
「とりあえず、何が言いたいかっていうと、聖女とか勇者とか以前に俺たちは仲間になるんだから、互いに対等に仲良くやっていこうってことだ。……まあ、様付けの方が呼びやすいなら、そのままでもいいけどさ」
「いえ、そういうことなら、遠慮なくそう呼ばせて頂きますね」
向こうから手を差し伸ばしてきているのに、それを断るなんて聖女様らしくないですからね。
さっきは一度、失敗しちゃったので、今度こそ間違えないように。
「これからよろしくお願いしますね。スレイ」
「ああ! よろしくな、ジュリアさん!」
勇者様――ではなく、スレイが快活に笑いかけてくる。
先程までの威圧的な空気はどこへやら、それは年相応の笑顔だった。
なんだ、笑うと愛嬌あるじゃないですか。
……それはそれとして。
「そちらこそ、ジュリア『さん』なんて呼び方しないでくださいよ。人の振り見て我が振り直せって言葉をご存知ですか?」
「……それはそうだな。うん、あー、よし、じゃあ改めて」
「これからの魔王退治の旅、一緒に頑張ろうな。ジュリア」
「ええ、よろしくお願いします。スレイ」
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