「ほらほらカモンベイベーです。今夜は寝かせませんよ」
結婚式はつつがなく終わった。
とは言っても、俺とジュリアはほとんど座ってるだけだったけど。
ジュリアは結婚式の最中、外面モードを発動して、おしとやかに微笑みを湛えているばかりで、突然何かやらかしたりはしない。
王様も、アナスタシア様も、緩い雰囲気は一切なく。
むしろ自分だけが、場違いであるかのような気さえしていた。
一応、俺の結婚式だというのに。
ただ、結婚式が終わった後にお礼の言葉を述べに行くと。
「いや、本当にしんどかったわい。なんなら儂の子供たちの結婚式の時よりも緊張したし。ほれ、隣国の王様とか真面目な奴だから、失敗したら何言われるかわかったもんじゃない。あー、こわこわ。でも、其方達の結婚を祝福しているのは本心じゃよ。これからの人生、幸が多からんことを祈っておるぞ」
「も~、舌の筋肉が凝っちゃったわよ~。普段ゆっくり喋ってるから、慣れなくって~。あ、でもでも、しっかりと二人には神様からも祝福があるようにお願いしておいたからね~。ジュリアちゃんのほうは、もう過分かもしれないけど~、それでもないよりはいいでしょうし~」
と、こんな感じで普段のゆったり状態に戻られてしまった。
こうしてみると、どちらが本当の二人なのかわからなくなってくる。
それはさておき、だ。
結婚式が終わった以上、俺とジュリアは正式に夫婦と認められたわけで。
つまり、
「本当にいい感じの家を用意してくれましたねあの王様。狭すぎず広すぎず、商店街にも近い立地。私たちの新生活には素晴らしい第一歩だと思いませんか?」
ジュリアと二人での生活が始まったということだ。
新築なのか、新しい塗装の匂いがする。
二人で住む分には、少しだけ大きいくらいの一軒家。
あの謁見の間で王様が俺たちに提案したままの立地の住居を、俺達に贈呈してくれたのだ。
「私としたら貴方と一緒に生活をしなくちゃいけないなんてことになって非常にマイナスポイントが高いので今すぐに私の機嫌を取ってください。さもないと今夜の夕食は貴方の嫌いな料理まみれになってしまいますよ。逆に機嫌が取れれば好物だらけの完璧な食事で優勝する栄誉を与えてあげましょう」
傍から見てても明らかに上機嫌なまま、ジュリアはそんな素直でない言葉を投げつけてきた。
なら、俺がすることは、
「ジュリア様最高! ジュリア様マジ聖女! よっ! 他人から認められないと自信が持てない不安定な女!」
適当な悪口も混ぜた称賛をするだけだ。
それでも、ジュリアは得意そうにドヤ顔をするのだから、もはや恒例行事と化している気がする。
こういうのが、俺たちのコミュニケーションなんだろう。
「……とは言ったものの、お前が作る料理はどれも美味いし苦手なもんでも食べやすく工夫して作ってくれるからどんなものでも不満とかないぞ」
「もしも食べたいものを聞いた時にそういう何でもいいなんて曖昧な返事をするのは減点対象ですよ。まあ今回はそういう意図では尋ねてないので慈悲の心で100億点だけあげましょう」
「高得点すぎねえか?」
こいつ、辛辣なのかちょろいのか分からなくなってきた。
元々の素が優しいのだろうけど。
「しっかし、家具とか器具とか何でも取り揃えてくれて至れり尽くせりだな。あの王様マジで最高すぎるわ」
「全くです。あんなに聞き分けが良いと知っていれば私が貴方と結婚するなんていう人身御供にならなくて済んだというのに。ただ、今更バツイチなんていう聖女に相応しくない称号を得ることになってしまうくらいなら我慢してあげますけれど」
もう結婚したというのに、未だに素直になれないジュリア。
ただ、惚れた弱みなのか、そういう面倒くさいところもかわいく見えてくるから、俺という人間はどうしようもないのかもしれない。
「それよりこっちに上がって来てください」
「何だよ?」
そう言いながら、二階にある部屋へと招かれる。
確か、寝室だったはずだけど。
思い返しながら、中を覗くと。
「見てください。大きいサイズのベッドが一つだけしか用意されてません」
いわゆるキングサイズのベッドがそこに鎮座していた。
……絶対にあの王様のせいだ。
「……これは、仕方ないのですが。仕方ないのですが。本当に仕方ないのですが! 私たち二人一緒に寝るしかないのでは?」
「一緒に寝るのがいやなら普通にベッド買ってくるけど? ベッドくらいなら俺一人でも運んでこれるし」
今は夕方だけど、ギリギリ寝具店も開いてるだろう。
そんなに同衾するのが嫌なのであれば、ベッドをもう一つ用意しても構わない。
元より、これから毎日一緒に寝るわけでもあるまいし。
そう思い立ち、扉のほうへ向かおうとすると、ジュリアが先回りして部屋の鍵をガチャリと閉めた。
おい、なんでこの部屋だけ鍵付きなんだよ。
「ベッドは一つで十分なのでやめましょう。余計な出費をするなんてバカのやることですよ。というわけでこれから私たちは毎日一緒のベッドで体を寄せ合いくっつけあい、ネトネトでドロドロでグチョグチョな夜を過ごすのです」
「何だよその粘液まみれみたいな擬音だらけの生活は!? もうちょっと清潔感を持てよ! お前聖女だろ!?」
前、似たような表現した時よりも擬音の種類が増えてるし!
ジュリアがじりじりと俺のほうへにじり寄ってくる。
やばい、目が完全に据わってる。
少し怯えながら、俺も一歩ずつ後ずさりしていく、が。
「あっ」
背後にあったベッドの縁に躓き、転び、体をベッドの布団へと投げ出してしまった。
「やっと、その気になってくれましたか。……もとい、まだ夕方なのに気が早すぎません? 口ではああいってましたが、体は正直ですね。自分からベッドに倒れこむとは。うーん、これは聖女的にはギリギリアウト寄りのセーフといったところですかね! 勇者様の抑えられない欲望を受け止めるのも、聖女としての仕事の一環というか? いやー、まだ夕方で早いと思うんですけどねー! スレイがそう言う気なら無下にするのもかわいそうですからねー! まんじりともせず私を受け入れろ。興が乗ってきましたね」
ジュリアが何やらつぶやきながら息を荒げ、仰向けに倒れた俺の上にまたがってくる。
いかん、この状況は非常にまずい。
「待ってくれジュリア! まだ夕食食べてないし! いやー、ジュリアの作ったシチューが食べたいなー、俺!」
「そうですか。私は今すぐ目の前にある肉が食べたいので後にしてください」
やだ……この子肉食系過ぎない……?
そのままジュリアは、俺が逃げられないように、顔の横に手を立てる。
聖女様の目は、完全に捕食者のそれになっていた。
「そっちこそ勇者だったら覚悟を決めてください。ほらほらカモンベイベーです。今夜は寝かせませんよ」
「こいつを聖女にした神様は一体何考えてたんだよ……」
きっと神様の頭の中はお花畑に違いない。
しかも、ピンク色の花ばかりの。
……でも、そこまでされるなら仕方ない。
「ほい」
「きゃっ!?」
ジュリアの両腕を掴み、傷つけない程度の力でベッドの真ん中へ放り投げる。
混乱し、目を瞬かせているジュリアをよそに、今度は俺が彼女に覆いかぶさった。
「あ、あの……スレイ、さん?」
「頭の良い聖女様なら覚えてると思ったんだけどなあ」
少し怯えた様子の聖女様。
けど、そうさせたのはこいつの方だ。
「俺にだって、そういう欲望はあるし、正直、ギリギリだって。なのにお前はことあるごとに誘惑してきて……」
「え、あの、スレイ? 一旦、一旦落ち着きましょう!? ほら、さっき言ってたシチューだって作ってあげますし! だから、ひとまず、見逃して……!」
「ここまでしておいて、それは虫が良すぎるだろ」
逃げようとするジュリアの腕を抑えつける。
「な、なら、できれば、優しくしてください……!」
「すまん、ちょっと無理かもしれん」
顔を真っ赤にして、身をよじるジュリア。
それすらも、艶めかしく見える。
そして、
「……じゃあ、せめてものお願いです。……その、キスをたくさんしてくれないと、やです」
その言葉を聞いて、理性がふっとんだ。
「お……おはようございます、聖女様」
「……………………おはようございます、ケダモノ勇者様」
「いやあ……その……」
「なんですか変態勇者。何か言いたいことがあるんですかドスケベ勇者」
「はい……申開きもありません……」
そういわれるだけのことを、俺は昨晩したのだ。
ジュリアの罵倒も、甘んじて受けるしかない。
「あんなにも激しくするなんて、私を殺す気ですか。今回のは、私が魅力的すぎたのが悪いとも言えますが、そんな美しく可愛い私をこんな傷ものにするなんて、責任をとってもらうしかないですねこれは」
「もう責任はとってる形だとは思うんだけど……本当にごめん、しばらくはこういう行為は控えるようにするわ」
なるべくジュリアの負担にならないように、そういった行為の回数を減らすように提言した。
が、なぜかジュリアはさらに不機嫌そうな顔になり。
「は?何言ってるんですかこのヘタレ勇者め。誰がやめろって言いました?」
「へ……?」
予想とはまるで反対の言葉を口に出した。
「スレイがあれだけの欲望を抱えていては、誰かが解消してあげないと他の女がその毒牙にかかってしまいます。そんなモンスターに付き合ってあげられる女性はこの世で私くらいなので、仕方なく、本当に仕方なく私が犠牲になって世の女性の平和を守ってあげようという聖女としての献身です。なので勘違いしないように」
「その、ここまで爆発したのは……えっと、まあ、お前が相手だからっていうのが一番大きいというか……」
正直、ジュリア以外には全く反応しないと思う。
俺が好きなのは、俺の目の前で赤面しながら怒っているかわいらしい聖女様なのだから。
それ以外の女性に、そういう欲求を持てる気がしない。
「何ですかそんなに私のことが好きだったって言いたいんですか。そうやって私の機嫌を取ろうだなんて浅はかですね。今夜も覚悟しておいてください」
「はい?」
何を言っておられるのですか、この聖女。
「どうせ夜中になればまた獣になるのでしょう。それはよろしくありません。こんなケダモノを世に解き放ったらすぐに犯罪に走ってしまいますからね」
「やめろって! やってた俺がいうのもおかしいけど、昨日本当にお前とんでもないことになってたんだからな!?」
「いいから今晩も準備しておきなさい。しろ」
こちらに顔を向けないまま、声だけは強気に命令してくる。
……まさか。
「あの、ジュリアさん? もしかして、あれに嵌ったんじゃ……」
「ハメたのは貴方でしょうが。黙ってなさい」
「はい。すみませんでした」
しばらく、ジュリアには頭が上がらなくなりそうだ。
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