剛龍寺隼斗の鉄拳除霊 ~その拳は都市伝説すら打ち砕く~

森野コウイチ

第01話 八尺様 その1

 俺――ごうりゅうはやは、牛丼屋でチーズ牛丼大盛りをモクモクと食べていた。

 不意に、自身のスマートフォンから電子的な音楽が流れる。

 通信アプリに着信があったのだ。


「やれやれ」


 そう呟いて俺は応答する。


『私、メリーさん。今、事務所にいるの』


 スマートフォンから若い女の声がした。


「つまらん遊びに付き合う気にはならん。切るぞ」


『もちろん、任務ですよ。剛龍寺センパイ』


「どっちにしろ、今、メシの最中だ。後で掛け直す」


『わっかりました~。急がなくてもいいですけど、忘れるのはナシですからね~』


 そして、俺は再びチーズ牛丼を食べ始めた。


 ……………………。


 …………。


 牛丼を食べ終わり、会計を済ませて、店を出る。

 駐車場で通信アプリを使い、今度はこちらから発信する。


 相手はすぐに出た。


「志藤、俺だ」


『はぁい♪ あなたのアイドル、エリカちゃんです!』


「任務はどうした?」


『そうですよ、任務です。危険な怪異の情報が入りました!』


 声のトーン急に真剣になる。


「どんなだ?」


『現地では【はっしゃくさま】と呼ばれている怪異です』


「八尺様――?」


『名前の通りでしたら240センチ以上あるということですね。基本的に女性の姿をしているとこのことです。【やまおんな】の一種かと思われますね』


 ここでいう山女というのは、山登りを趣味とする女性のことではない。

 山に出る女性の姿をした妖怪だ。


 全国各地に似たような伝承がある。

 長い髪を持つ色白の美女が多いとか。

 また、【やまひめ】とも呼ばれる。


 俺の身長は178センチだから、身長差は約62センチになる。

 ちなみに、志藤の身長が160センチくらいだからだ、その差は80センチってところか?

 本当に八尺あるのかは知らないが。


「具体的な被害者は?」


『現地を訪れていた少年が魅入られました。このままでは数日で殺されるそうです』


 かなり凶悪な怪異だな……。


「わかった。場所は? もうすぐ日が暮れる、夜道はバイクじゃ危ない」


 単純に暗いから危ないというのもあるが、夜は【ターボババア】のような怪異に遭遇しやすいのでウザイ。


『詳しい資料はいつも通りアプリで共有しておきました。とりあえず、いい感じのホテルを予約しておきましたので、明日の早朝に出立してください』


「わかった」


 そう言って、通話を終了した。


 俺はアプリでホテルの位置を確認すると、愛用の中型バイクに近づいた。

 俺の仕事上、様々な場所に出向くことになるので、こいつが必要不可欠だ。


 自動車の方が快適な場合もあるが、小回りが利かないのが弱点なのだ。


 ヘルメットを被り、グローブを着用。

 車体を起こし、キーを差し込んでハンドルロックを解除。

 サイドスタンドを蹴り上げて、車体を後ろに引く。

 

 バイクに跨がりスタータースイッチを押すと、エンジンが唸りを上げる。

 ギアを1速にしてアクセルを捻ると、バイクはゆっくりと動き出した。


 ……………………。


 …………。


 ホテルに到着すると、寝る前に再度情報を確認する。

 問題の八尺様は数年から十数年に一度、気に入った少年を狙うらしい。


「なるほど、この犯行頻度の少なさが、今まで退治されなかった理由の1つか……」


 4つの祠を建てることで、該当地区に八尺様を封じているらしい。

 詳しいことは書かれていないが、かつては何らかの見返りがあったらしい。


 少年の無事を祈りながら、とりあえず眠りに就いた。


 ……………………。


 …………。


 翌朝5時に起床。

 バイキングで優雅に朝食――なぞ取っている時間はなく、ゼリー飲料で栄養補給。

 急いで身支度し、チェックアウトを済ませる。


 そして、バイクに跨り、目的地である農村を目指すのだった。


 ……………………。


 …………。


 2時間弱ぐらいバイクを走らせ、目的の農村に到着した。

 と、同時に白いワンボックスカーがこちらに向かって走ってくる。

 おそらく、問題の少年を脱出させようとしているのだろう。


 そして、ワンボックスカーの側面に何かが取り付いている事にはすぐに気が付いた。

 デカイ、あまりにもデカイ、白いワンピースを着た女だ。

 服に合わせたような白い帽子を被っている。


 極めて高い霊力を感じる。

 間違いない、怪異だ。


 バイクを走らせる。


「うぉりゃあああああああああッ!!」


 すれ違いざま、デカイ女――八尺様にラリアットを叩き込んだ!

 八尺様をワンボックスカーから引き剥がすことに成功!


 すぐにバイクを停め、倒されている八尺様を睨みながら構える。


 八尺様は、手も足も動かさずに、すっと起き上がった。

 まるで起き上がり小法師のようだ。


「ぽぽぽ……ぽぽぽ……!?」


 女と目が合った。

 恐ろしい形相だ。

 大事な狩りを邪魔されて、怒り心頭といってところか。


 だが、同時に困惑もしているだろう。

 なぜ、自分を殴れるのか――?

 なぜ、自分がダメージを受けているのか――?


 想定外の異変を感じたためか、ワンボックスカーが止まり、運転手が顔を出して様子を伺う。


「あれが八尺様なのか!?」


 運転手は驚きを隠せない。

 本来、八尺様というのは魅入られた者にしか見えない怪異らしい。

 だが、俺に殴られた以上、そのルールは通じない。


「止まってはダメです! こいつは俺に任せて行ってください!」


 俺はワンボックスカーに向かって叫んだ。

 もちろん、俺がこいつを倒してしまえば意味のないことだし、そのつもりだ。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 【あなたへのお願い】


 期待できそうでしたら、フォローをしていただけると嬉しいです。

 ★を入れていただくと、さらに励みになります。

 よろしくお願いいたします。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る