白と黒のビビッド~ 色づく恋は筆にのる~

けもこ

第1話 春はあけぼの

春の風がまだちょっと冷たくて、でも頬に当たると心地よい。あっという間に5月だ。

高梨胡桃は、放課後の校舎の中庭で、ベンチに座りぼんやりと体育館の方を眺めていた。

教室にいても誰かと話すわけじゃないし、書道部の部室はまだ鍵が開いてない。だから、ここにいる。という体で。


中庭から少し先に、体育館が見える。その奥のバスケットコートには、青いジャージの男子たち。


その中に、いた。


チカ――行李稚加(こうりちか)。


私の幼馴染。保育園からずっと一緒。でも、中学に入ってからぐんぐん背が伸びて、バスケ部のエースになって、気づけば「みんなのチカ」になっていた。


中学に入ってから、少しずつ話をするのが恥ずかしくなって、距離ができて、友達と呼ぶのも難しくなってしまった。


高校に入学してクラスは別になったけど、もしかしたら通学の電車とか、駅でばったりとかあるかも、と小さな期待も抱いてた。


「チカくんってさ、他校の女子にも人気らしいよ」

「しかもさ、あの佐奈ちゃんと付き合ってるって噂じゃん!」


でも、そう言ってはしゃぐ同級生の声が、耳に入るようになって、なんか世界が違うんだなぁ、ってわかるようになった。


佐奈ちゃんは、バスケ部のマネージャーで、誰が見てもかわいい。髪もさらさら、笑顔もキラキラしてて、あんな子が隣にいたら、そりゃあ――


私なんて、比べるまでもない。


黒縁メガネ、目立たない髪型、話すのも苦手。唯一好きなのは書道。墨の香りと筆の感触が心の癒し。陰キャ大会で、優勝する自信がある。


だけど――。


「……なんで、同じ高校に来たんだろ、私」


ぽつりとつぶやいた声は、誰にも届かない。


ほんとは、チカとまた近づけるんじゃないかって、ちょっとだけ思ってた。合えば声もかけるし、親同士の交流もあって、幼馴染としては中の上くらいな関係だと思う。


同じ高校に入学して、「あ、一緒だったんだー」的なところから、帰りが一緒になったりして、そのうちもっと親しくなることも、ありうる……かも?とかね。


でも現実は、キラキラ世界の彼を見て、あーそんな安っぽいライトノベルみたいな話ないでしょ、マジで、ってなった。


「おーい、くるみ!」


名前を呼ばれて、心臓が跳ねた。


声の方を向くと、ジャージ姿のチカがバスケットボールを抱えて、こっちに走ってきていた。


「なにボケっとしてんだよ。宇宙人と交信でもしてた?」

「なにって……部室が開くの待ってただけ」

「まぁ、いいけどさ。ほら、これ。佐奈からチョコもらったけど甘すぎて無理だっ

た。くるみ好きそうじゃん?」


差し出されたのは、カカオの香りが濃いチョコバー。


「……それ、佐奈ちゃんがチカにってくれたんじゃないの?いいわけ?そういうの」

「ん?なんで?俺、甘いの無理だし、他の奴らは同じの貰ってるから」

「じゃ、じゃぁ、ありがたく……」


そう言ってチョコを受け取る。


「くるみ、ボーっとしてると、すげーあほ面になってるから気をつけろよ。宇宙人もびっくりだろ」


笑顔が眩しい。


「余計なお世話」


そして、体育館の方からチカを呼ぶ声に手を上げると、「じゃぁなー」と戻って行った。


はぁ、青春クソ野郎だわ。


眩しすぎるその姿に、自分がよりくすんで見えた。たどり着いた体育館の入り口で、ポニーテールを揺らす佐奈ちゃんが、ちらりとこっちを見る。そして、ニコッと笑った。


可愛すぎる。こっちもキラキラ人種だ。


チョコの包装を外して、口に入れると、ほんの少し苦みばしったおしゃれな味が広がる。


そろそろ書道部の部室を顧問が開けてくれただろうか。本当は職員室に鍵を貰いに行けばいいのだが、ほんのちょっとでもこうしてチカを見ていたかったのだ。


よっこらしょ、と腰を上げ制服のスカートをはたく。


眩しい人たちを背にして、私はモノクロの世界に浸ることにしよう。そう、自分に話しかけて部室へと向かった。

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