第24話「非才無能、募集をかける」

 改めてナナミとパーティを組むことにしてから一週間がたった。

 俺達は何度も迷宮に潜っている。

 少しでも下の階層に到達するために。

 一歩ずつ、一段ずつ。



「《バインド!》」



 第十五階層。

 ダンジョンは階層ごとに環境すら変わってしまう。

 今俺達がいるのは……植物が群生する南国のようなフィールドであり。

 俺達が相手をしているのは食人植物とでもいうべき存在だった。

 バイトプラントという名の、人間を丸呑みできてしまいそうなハエトリグサが無数に、俺達を取り囲んでいる。



「《バインドっ!》」



 こちらにかぶりついてきたバイトプラント――ハエトリグサ型のモンスターにロープが巻き付き、その口を閉じる。

 攻撃手段がなくなれば。



「おおっ!」

『《断》』



 万象を両断する、絶対の魔剣が振りぬかれ、バイトプラントが断ち切られる。

 斬られた食人植物は崩れて消えて、ドロップアイテムへと変換される。



「ここら辺にいたバイトプラントは全滅だね」

「了解。索敵ありがとう」




 ◇

 



「乾杯ッ」

「乾杯!」

「乾杯」



 三者三様に、同じ言葉を発しながら、ジョッキを傾ける。




「いやー、仕事終わりのエールは格別だねえ」

「違いないな」

「…………」

「どうした、マリィ。口に合わなかったか?」

「苦み。……結構苦いですね」

「ああ、最初の内はそうかもな」



 あ、口に泡がついてる。

 



「清拭。ではご主人様が拭いてください」

「えっ」

「義務。私の体を隅々まで磨くのもご主人様のお務めですから」

「ん?」

「……モミトちゃん?」



 ナナミが軽蔑したような、否、そのものの視線をこちらに向けてくる。

 だが、待ってほしい。

 俺はただ魔剣の状態のマリィを時々磨いているだけだ。

 誓っていやらしいことはしていない。

 


「いや本当に違うんだ」

「追記。私の仕事は、ご主人様を徹底的に磨くことです」

「いやしてないだろ!」



 入浴だって別々だし。

 断じていかがわしい関係ではない。

 ナナミの俺を見る目が、メイドに特殊なプレイを強いる変態貴族に対するものに変わりつつあるんだが。



「冗談。流石に冗談ですよ、ナナミさん」

「あ、ああ、

「その前に一ついいか?」

「なんだい?」

「パーティメンバー募集をかけないか?」


 現在、俺達のパーティには欠点が多い。

 索敵とデバフなど補助が得意なナナミと、防御不能の攻撃手段を持つ近接アタッカーの俺。

 悪いコンビではないが、足りていない。

 頭数も、役割も、新しい人員を得る必要がある。



「パーティメンバ―は四人から六人が定石だろう?もう少し戦力を増強してもいいんじゃないかなと思ってな」

「まあ、それは一理あるねえ。でも、入ってくれるかい?こんな二人のパーティに」



 確かに、パーティメンバーを募集しているパーティは星の数ほどいる。

 その中から見つけて選んでもらうのは至難の業である。

 だが。


 

「けど、俺達には宣伝文句ってやつがある。Sランクモンスターを倒したっていう、文句のつけようのない肩書がな」

「っ!」



 俺たちには、Aランクパーティすら上回る実績があるのだ。



「それにあたって、もうひとつ提案しておきたいことがあるんだけどいいかな?」

「言ってみなよ」



 ナナミは何かを期待するような目で、こちらを見てくる。

 隣を見ると、マリィも目を輝かせて至近距離で俺を見つめていた。

 近い。

 咳ばらいを一つだけして、俺は提案を口にした。



「パーティの名前なんだが――」


 ◇



「君達が、Sランクモンスターを倒したっていう『裁断の魔剣』かい?」

「ああ、そうだ。メンバー募集の張り紙を見てきてくれたのかな?」

「そうなるね、よければ話を聞かせておくれよ」



 希望者が来たのは、募集をかけてから二日後のことだった。

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