第19話「非才無能、竜を斬る」

「マリィ、戻って!」

「承知」



 俺はマリィに人型に戻るよう指示。

 意図を察したマリィは粒子にその身を変えると、俺の隣に人型を再構築。



「再臨。メイド服姿のマリィ、参上です」

「それひょっとして冗談で言ってる?」

「否定。ただの事実ですが?」

「さいですか……」



 こんな状況でもなお余裕があるマリィを頼もしいと思うべきか、呆れるべきか。



「アンタら何夫婦漫才してるのさ!」

「ふっ」

「すまない、ちなみにナナミにはあいつに対して何か有効打はあるか?

「アタシの短剣は奪われちまったね」

「厄介な相手だ……」



 相手の武装を奪い弾丸に変えて飛ばしてくる攻撃能力と、逆にこちらの武器を弾き飛ばす防御能力。

 磁力というただ一芸のみで、ここまでやって来るとは。

 


「対処法は、一応ある」

「そうなのかい?」

「質問。どのようにしてあいつに勝つつもりですか?」

「攻略の鍵は、間合いにある」

「間合い?」

「あいつ、さっきから俺たちに攻撃してこない」



 ドラゴンは俺たちを追ってこない。

 短剣に干渉してくるそぶりもない。



「おそらくだが……磁力はあいつからの距離に応じて減衰するんじゃないか?だからあいつは今俺達の武器を操れない」



 あるいは攻撃魔法を使えるメンバーがいれば案外あっさり勝てる相手なのかもしれない。



「弱点はわかった。じゃあ、どうやって倒すんだい?」


 ネオジムドラゴンは磁力によるバリアを使う。

俺の攻撃を弾いた直後に、やつは攻撃をしなかった。

突進はなく、ミサイルとてアンドロマリウスや短剣を操作して奪ってから射出してきた。

 ここから推測できることは、何か。



「同時に使ってないのは、使えないからだ」



 磁力のバリア。

 武器や鉱物を操作することによる攻撃スキル。

 そして突進。

 ネオジムドラゴンは、これらのうち、一度に一つのスキルしか使えない。

 つまり。



「突進しながら、バリアを展開することはできない」



 だから、突進してくるネオジムドラゴンに刃を合わせれば、斬れる。

 もちろん、推測が誤っていれば死んでいただろう。

 けれど、そうはならなかった。

 つまり。



『《断》』

「GI」



 魔剣アンドロマリウスは、触れればすべてを切り裂く必滅の刃。

 接触を防ぐバリアがなければ、ただ両断されるのみ。

 正面から真っ二つになったネオジムドラゴンが消滅し、ドロップアイテムへと変換される。



「俺達の――」

『勝利。勝利です』

「本当に無茶するよ、アンタは」



 ナナミは呆れを顔に浮かべながら、やれやれと首を振った。



「他に方法もありませんでしたから……」



 俺とて、確信のないことはしたくなかった。

 だが、そうしなければ死んでいたのだから仕方がない。



「まあ、よかったね。とりあえずドロップアイテムを拾いなよ」

「拾いなよって……ナナミも一緒に拾ってくれないのか?」



 仲間なんだし、手伝ってくれてもいいと思うんだが。



「何言ってるんだい。こいつに関してはアンタの総取りでいいだろう」

「『へ?』」



 俺とマリィがそろって間抜けな声を出してしまった。



「いやいや、俺達仲間だろ。五対五で分け合えばいいだろう!」

「いいかい、アタシは今回ほとんど何もできてない。時間稼ぎがせいぜいだろ。危険な役目も、とどめも、全部アンタが請け負ってるんだよ。危険を誰よりも請け負う斥候職としてリスクを冒さず得るもんは受け取れない!」

「だったら俺がなんかあった時にフォローしてくれればいいだろうが!なんなら罠を発見してくれたりするんだからお相子だろ」



 いや待てよ、むしろあれだけ助けられているんだから俺の方が取り分少なくていいのでは?



『訂正。さすがにおかしいので止めておきますよ』

「え?」

『当然。なんで、お互いに自分の取り分を削ろうとしているんですか?』

「ま、まあそれはそうなんだが……」



 いかんな。

 前のパーティでは報酬の分け前なんて貰えなくて当たり前だったから……つい謙遜してしまう癖が身についてしまっている。

 だが、自分の取り分を減らすのはいくら何でもおかしい。

 それは、俺の能力を認めてくれた相手への侮辱にもつながる。



「改めてなんだが、五対五にしないか?」

「ま、まあ取り決め通りと考えればこれが正しいよね」



 そういって、俺達はアイテムドロップを拾い始める。

 ネオジムドラゴンの鱗に、爪に、牙まである。

 これならばかなり高く売れるはずだ。

 


「武器を捨てろお、お前ら」



 だから、背後に回られるまで気づかなかった。

 武装した男が四人、俺たちを囲んでいる。




「ドロップアイテムが欲しいのか?」



 いや、違うな。

 それならもう俺に攻撃を仕掛けるはず。

 同様の理由で人さらいでもない。

 つまり、狙いは。



「マリィか……」

「そういうことだなあ」



 男たちはニヤリと笑った。

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