第17話「非才無能、パーティを組みたい」

「パーティを組みたい」



 俺の目的は何度も言うが、ダンジョン深層にある『万能霊薬』を入手することだ。

 だが、一人でそれを成し遂げるのは現実的ではない。

 単純に複数人で入ればその分戦力が増えるという話ではない。

 連携によって、その戦力は数倍どころか時として十数倍になる。

 ゆえに誰かとパーティを組む必要があるわけだが……。



「誰と組めばいいんだろう……」



 普通ならば話は簡単だ。

 パーティ募集の掲示板に応募すればいい。

 だが、俺の場合は事情が異なる。

 パーティ募集の際には、パーティ側から「こういう恩寵が欲しい」と募集をかけるか逆に冒険者が「こういう恩寵を持っている」とアピールする二パターンある。

 いったい誰が、【非才無能】という何のメリットもない存在と組んでくれるというのか。



「いっそ、一人で潜るというのは?私がいればご主人様だって決して弱くはありませんし」

「さすがに無茶かなあ」



 マリィは俺のことをかなり評価してくれているが、俺はそこまで強いわけじゃない。

 ゴーレムを倒したのは周囲の協力があってのことだし、ライラックに勝てたのは相手の行動が読めているからだ。

 何より、明確な欠点がある。



「おや、ここで何してるんだい?」

「あんたは……確か盗賊の」

「ナナミっていう名前があるんだけどね」

「あー、すみません」

「いいよいいよ、今日覚えてくれればね。あと敬語もいらない」



 ナナミは、俺の前の前に腰掛けた。

 ただ座る動作だけで、動きの洗練具合は簡単に知れた。



「【盗賊】の恩寵を持っているアタシと組むのが、兄ちゃんにとってもメリットになるってことをさ」



 ナナミは、そう言って説明をはじめた。



「さて、モミトはさ、パーティを組むメリットは何だと思う?」

「お互いに弱みを潰せること、かな」



 誰しも弱点を持っている。

 魔法使いは接近戦が苦手だし、逆に戦士は遠距離戦で魔法使いに勝つことはできない。

 だが、戦士と魔法使いが組めば遠距離戦と近距離戦、いずれにも対応できるようになる。

 パーティとはそのためにあるのだ。



「じゃあ、モミトの弱みってなんだと思う」

「不明。ご主人様の弱みなんて、早々思いつきませんね。寝相が悪いことくらいでは?」

「マリィ、誤解されるからやめなさい」



 思わぬ流れ弾を食らい、額に玉のような汗が浮かぶ。

 咳払いをして、俺はナナミの質問に答えた。



「射程が短いこと、足が遅いこと、防御力が低いこと、かな」

「正解だね、アタシが言おうとしていた三つの答え、全部言われちまうとは」

「まあ、他ならぬ自分自身のことだからね」



 まず、俺の射程は短い。

 魔剣アンドロマリウスの刃渡りは一メートル程度。

 俺の筋力では魔剣を投げることすら叶わないため、万象両断の射程がこれ以上伸びることはない。

 ただ、これについては試してみたいことがあり、その結果次第では克服できる可能性がある。



 そして防御力と速度の低さ。

 【非才無能】によって多くの人間が習得している《耐久強化》や《敏捷強化》などを持たない以上、速度は人並みの域を出ない。

 それが、俺の欠点である。



「でもねえ、アタシならアンタの欠点をカバーできる」

「疑問。とても疑問です。三つの欠点を、貴方一人でカバーできるんですか?」

「できるよ、まあ見てなって。C級冒険者の腕を見せてやるさ」

「一応俺もCランクなんだけど」

「えっ」

「えっ」



 ナナミにすごい驚いた顔をされてるんだけど。

 まあいいか。



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