第15話「非才無能、ギルドマスターと面談する」

「認めねえぞ」



 ライラックが、憤怒の形相で、モミトを睨んでいた。




「ちょっと待ってよ、負けを認めないって、アタシの審判に不満があるってこと?」





「ふざけんじゃねえ、俺は、俺は負けてねえ!」

「首筋に剣付きつけられて負けてないっていうのは無理があるでしょ?いい加減にしたら?君も強いとは思うけどさ、それ以上にモミトちゃんの方が……」

「黙れ!」



 ライラックは俺の方に歩いてくると。



「もう一回だ!今度は小細工もだまし討ちも通じねえ。今度こそ俺の実力を――」

「やめておいた方が賢明なんだよう」



 褐色の肌。

 尖った耳。

 整った顔立ちに、トレードマークのサングラス。

 街博と言えど、それらの特徴を兼ね備えた男は一人しかいない。



「ギルドマスター……」

「決闘見させてもらったよう。どう考えても、モミト君の勝ちなんだよう」

「てめえ、俺達の決闘に干渉するんじゃ……」

「どっちかというと、君のために言ってるんだよう。なにせ、モミト君が手を滑らせてたら君死んでたんだよう」

「……ぐっ」



 ライラックの顔から血の気が引く。

 それはそうだ。

 魔剣アンドロマリウスは何でも斬ることが出来る。

 斬ることしかできない。当てればライラックの首と胴がわかれてしまうゆえに、寸止めせざるを得なかったのだ。

 《峰うち》や《手加減》のような、相手を殺さず倒すスキルがあればよかったが、俺には縁のない話だ。

 屈辱に震えるライラックを無視して、ギルドマスターは俺の方に顔を向ける。



「さてと、本題に入らせてもらうんだよう」



 ギルドマスターは、サングラス越しに俺の方に視線を向けて。



「モミト君、ちょっと来てもらっていいかな?大事な話をしたいからね。もちろん、そこの君も一緒にだよう」



 そこの君というのはライラックや盗賊ではなく、マリィのことだと気づいたのは、俺の右手に――俺が持つ剣に視線を向けていたからだ。



 ◇



 ギルドの八階。すなわち最上階。

 そこに、ギルドマスターの執務室はあった。



「座って座って」


 

 そういわれるがままに、俺達はソファに腰掛ける。



「高所。随分高い位置にあるのですね」

「私が高いところが好きでねえ、最上階においてくれと頼んでいるんだよう」

「はあ……」



 出されたアイスティーに口をつける。

 ギルドマスターは、一口も飲まずに、語りかけ始めた。




「さてと、まずなんだが――経緯の説明をしてもらっていいかな?君がどうしてその剣を持っているのか?そしてその剣で何をしてきたのかを順番にね」

「わかりました」



 俺は、順番に説明をしていった。

 荷運びのクエストの最中に、マリィに契約を持ちかけられたこと。

 断ろうと思ったが、街がゴーレムによって襲撃され、黄金像となり果てたルーチェにも危険が及んでいたこと。

 彼女と街を守るため、魔剣を使ったこと。

 【非才無能】の効果で魔人化せず、なぜかマリィが人化できるようになったこと。

 これまで経験してきたことを、なるべく詳細に伝えたつもりだ。



「なるほどだよう……そんなことがあったわけだ」



 ギルドマスターはぽりぽりと頭をかく。

 もしかすると、



「あの、俺達はどうなるんでしょうか……」

「そうだなあ、魔剣アンドロマリウスはギルドの所有物だからねえ。当然、所有権は我々にあるし、君は窃盗犯ということになる」

「…………はい」

「否定。そんなことはありません、私は」

「君の意見は聞いてないよう。私は今、モミト君と話してる」



 その態度は正しい。

 たとえマリィが望んでいたことであっても、窃盗と言われてしまえばどうしようもない。

 これは、モミトとギルドの話なのだ。



「ま、別にいいんだけどね」

「はい?」

「あそこにあった武具は、呪いの装備品など、扱いに困ったものがほとんどだ。だから、使えるものがいれば使えばいいと思ってる。【呪術師】や【暗黒騎士】の恩寵があれば呪具を使えるしね」

「じゃ、じゃあ」



 モミトは、許されたかと顔を上げる。



「ただ、魔剣だけは話が別だよう」



 氷のような冷たい目を見て、まるで違っていたことを悟った。


◇◇◇



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