13.気功術-6-
一日目は自分の中に流れる気を感じ取る修行
二日目は一日目の修行に加えて自分の肉体の不調を探る修行
三日目は一日目と二日目の修行に加えて自分の肉体の不調を、自分の傷を治す修行
冒険者としてDランクの依頼を達成しつつ、どう考えても地味としか思えない気功術の基本を学ぶ修行は七日目まで繰り返された。
八日目の朝
「レオン、身体の調子はどうかしら?」
「頗る良好だ。何て言えばいいのかな?首から肩の辺りが痛くないんだ」
それどころか重しが取れたかのように軽いのだと、自分の言葉を証明するかのようにレオンハルトがシェリアザードの前で腕を振り回す。
「本来の気功術は自分の身体の調子を整えるという健康の為のものだもの。本当は数ヶ月・・・人によっては何年もかかるのだけど、レオンの場合は基礎が仕上がっているから短期間で済んだのよ」
『レオンハルトよ、そなたであれば我の予想よりも早く気功術を習得出来るかも知れぬな・・・』
「シェリー、ワタガシ?」
(という事は・・・)
「次は外気功の修行・・・他人の肉体の不調を探ってその部分に自分の気を注いで治すわよ」
レオン、屋敷の使用人達の身体に流れる気が乱れていないか探って頂戴
気の流れが乱れていたり、滞っているところがあったらレオンが自分の気を注いで欲しいの
次は戦いに関する気功術の修行をするのか?
と、期待を抱いていたレオンハルトであったが、また地味な修行をしなければならないという事実に心の中で涙しながら屋敷へと戻るシェリアザードを見送るのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「レオン、外気功についての説明を補足してもいいかしら?」
外気功の修行は他人を治す為に自分の気を注ぐのだが、それを繰り返す事で己の気を増やしたり、体力を高めたり、気の回復を早めるという意味もあるのだ。
『その辺りは魔力が枯渇するまで魔法を使用する事で己の魔力を増やす訓練に似ているであろうな』
「魔力を増やす訓練は分かるが、気功術でもそれをする意味があるのか?」
「あるわよ」
気が増えたら硬気功を繰り返し使用出来るし、維持出来る時間も長くなる。
という事は───。
『水面に長く留まる事も雪が積もっている場所も普通の靴やブーツで歩いたり走ったり出来るという事だ』
「分かった!」
それだけではなく、複雑に骨折した箇所も熟練の回復魔法の使い手のように早く治せるのだとワタガシが教えると、俄然やる気を出したレオンハルトはシェリアザードが連れて来たステファニーを含む使用人達で外気功の修行に励む。
(ワタガシ。私はレオンに気功術を・・・そもそも私が誰かに戦う術を教える資格があるのかしら?)
(シェリアザード?)
(私が力を求めたのは白竜族への復讐の為。それ以上でもそれ以下でもない。そんな私が教えた気功術を使ってしまったら、レオンの手は復讐の色に染まってしまう事に繋がるような気がするの・・・)
女主人を護る意味と、純粋に未知の力に憧れているという理由で気功術を学んでいるレオンハルトの姿を目の当たりにしているシェリアザードは、ずっと胸の中で燻っていた思いをワタガシに念話でぶつける。
(シェリアザードよ、そなたの心は幼いユースティアのままだ。だが、白竜族に対する復讐という思いだけで強くなったのも否定出来ぬ事実。動機は何であれ強い思いは力となる。それに・・・そなたは神界の修行で、ハイエルフに師事して得た力を力なき者に振るい虐げるつもりでいるのか?)
(まさか!)
人間というだけで白竜族に虐げられていた過去を持つシェリアザードは己と敵対している者はともかく、自分よりも自分の大切な者達が傷つく事を誰よりも恐れていると言ってもいい。
(全ては力を行使する者の心がけ次第だ。シェリアザード、そなたが他人を思いやる心を持つ人間である限り、レオンハルトの手は、あ奴が使う気功術は復讐の色に染まらぬ。・・・・・・というより、どう考えても今の我の言葉は我ではなくレオンハルトがそなたに言うべき言葉であろうが!!!)
(ワタガシ!?)
キャン!キャン!キャン!
「ワタガシ!?シェリー、助けてくれーーーっ!」
(ありがとう、ワタガシ。レオン、貴方が居るから私は復讐に染まらずまだこうして人間の心を持つ事が出来るのね・・・)
ワタガシに吠えられて戸惑いを見せているレオンハルトを見て思わず笑ってしまうシェリアザードであった。
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