13.気功術-1-







 オークの上位種にオーガ討伐という風に討伐系だけではなく、アラクネーの糸にブルータイガーの牙、サハギンの鱗に七色の貝殻の採取等といった依頼を片付けていくうちにDランク冒険者となったシェリアザードとレオンハルト。


(遂に一人前と認められる冒険者になったわ。・・・私は強くなったのかしら?)


 長かったような、短かったような───他の冒険者と比べてペースが速いのか遅いのか分からないが、Dランク冒険者になったシェリアザードは感慨深くなったと同時に不安が過ぎる。


(私がトカゲ野郎と再会したその時・・・私は、私はトカゲ野郎を拒絶出来る強さを手に入れたのだろうか?)


『これでようやくロックバードを討伐する事が出来るな!我はロックバードの肉を食べたいのだ!・・・と言いたいところだが、シェリアザードよ、レオンハルトに気功術を教えるのだ』


(レオンに気功術を教える?)


(キコウジュツ?)


 掲示板を眺めていたシェリアザードとレオンハルトは念話でワタガシに語り掛ける。


『そうだ。この先の旅・・・否、戦いで気功術が必要となる日が来よう。レオンハルトよ、己の身を護る為だけではなく、シェリアザードを護る意味でも気功術を身に付けるのだ』


(私がレオンに気功術を教える資格ってあるの?気功術について教えるのは私よりも他の人が相応しいと思うわ。でも魔法のオールラウンダーであるレオンに教えても意味があるのかしら?水の上を歩いたり走ったり出来るという点で見れば教えた方がいいのかも知れないと思うけど・・・)


(魔法を使わずに水の上を歩いたり出来るのなら、俺はキコウジュツっていうのを覚えたい!)


 気功術とは自身の肉体を強化するだけではなく、全身に気───生命エネルギーを巡らせる事によって細胞レベルで肉体を活性化させる。


 結果、肉体年齢と身体能力を実年齢より若く健康で維持出来るのだ。


 また細胞を活性化するという事はターンオーバーを正常にさせて皮膚の古い角質を落とすという事でもあるのでシミやそばかすにも効果があったりする。所謂アンチエイジングとピーリングという奴である。


 息をするように気功術を使っている達人ともなれば肉体にオーラを纏う形で常に己の身を護っているようなもので、ゴーストやレイスに取り憑かれる事を防いでいるのだ。


 回復魔法を使わなくても傷ついた箇所に集中して生命エネルギーを巡らせる事で自己治癒能力を高めたり、治癒する事も出来る。


『シェリアザード、レオンハルト。腹痛や頭痛の時に手を置いて暫く経つと痛みが治まっていたりせぬか?』


(そう、だな・・・。確かにワタガシの言う通り、お腹が痛い時はそこに手を当てていて暫く大人しくしていたら自分でも気づかないうちに治っていたな)


 ワタガシの問いにレオンハルトが幼い頃を思い出しながら答える。


『それは己の生命エネルギーを無意識に巡らせている事と早く治りたいと願う事で起こる結果なのだが、それを己の意志で意図的に起こして自己治癒能力を高めるのが』


(キコウジュツという訳か・・・)


『そうだ』


 自身の肉体に生命エネルギーを巡らせるという事は一本の髪の毛も針のような凶器として使う事が出来るのだと、ワタガシがレオンハルトに教える。


(ワタガシ。俺がキコウジュツを覚えさえすれば・・・例えばだけど手か足が骨折したり皹が入ったら、治癒魔法の使い手に治癒魔法をかけて貰えなくても自分で治せるのか?それがシェリーを護る事に繋がるのか?)


『勿論だ。自身だけではなく他人の傷を癒す事も、武闘家のように石や刃を向けられてもそれを打ち砕く強靭な肉体を手に入れる事も、極めれば水面であっても地上のように歩く事も駆ける事も出来るようになる。先ほども伝えたが気功術はそなたたけではなくシェリアザードを護る事に繋がるであろうな・・・』


 レオンハルトよ、騎士であるそなたは幼い頃から鍛えているのであろう?


 シェリアザードと違って気功術を短期間で会得出来るかも知れぬな


(シェリー、ワタガシ、俺はシェリーを護る盾であり騎士だ。だから俺にキコウジュツを教えて欲しい!)


(・・・・・・分かったわ。教えるのは明日からでいいかしら?)


(ああ・・・早く明日にならないかな~♪)


 気功術を楽しみにしてくれるのは嬉しいのだが、修行は想像以上に厳しいのだ。


 ハイキングを楽しみにしている子供のような反応をしているレオンハルトの姿に、自分が気功術を教えてもいいのだろうか?と自問自答してしまうシェリアザードであった。






※作中で出てくる気功術は自分の妄想による産物ですので本当にそうだと捉えないでください。




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