『現代米騒動、俺が解決!〜秋田 米蔵ついに出陣〜』
漣
第1話 発芽
秋田の田んぼに囲まれた古い農家で、22歳の青年・秋田米蔵-あきた べいぞう-は夕食の準備をしていた。炊飯器から立ち上る湯気を見つめながら、彼の心は穏やかだった。
「今日も美味そうに炊けたなあ」
米蔵は幼い頃から米と共に生きてきた。朝起きれば田んぼを見回り、昼は稲の成長を確認し、夜は明日の作業を考える。そんな日々が当たり前で、それが幸せだった。
居間のテレビからニュースが流れている。
「続いてのニュースです。本日、農林水産大臣の記者会見で物議を醸す発言が──」
米蔵は箸を持ったまま振り返った。
「──大臣は『正直なところ、私は米を買ったことがありません。いつも誰かが用意してくれているので』と発言。これに対し、全国の農家から──」
「はあああああああッッッ!?」
米蔵の絶叫が農家の古い梁を震わせた。
「買ったことがないだとォォォ!?」
炊飯器の蓋を勢いよく開け、湯気の向こうから現れた真っ白なご飯を見つめる。
「おい、聞いたか?聞いたかよ、この子たち!」
米粒に向かって話しかける米蔵。
「お前らを『買ったことがない』だとよ!馬鹿にしやがって!」
そのとき、縁側から声がした。
「米蔵、何を騒いどる」
振り返ると、祖父の与作ジイがゆっくりと歩いてくる。85歳になる今でも背筋がピンと伸び、鋭い目をしている。
「ジイちゃん!聞いたか?農林大臣が米を買ったことがないって言ったんだぞ!」
「ほう」
与作ジイは米蔵の隣に座り、炊きたてのご飯を見つめた。
「米蔵よ、わしが若い頃によく言ったことを覚えておるか?」
「え?何だっけ」
「『コメは愛だ』」
米蔵の目がキラリと光った。
「そうだった!『コメは愛だ、愛は買えない、だから本当のコメも買えない』だろ?」
「そうじゃ。買うもんじゃない。育てるもんじゃ。愛するもんじゃ」
与作ジイは一粒の米を箸でつまみ上げた。
「この一粒にどれだけの愛が込められておるか、あの大臣は知らんのじゃろうな」
米蔵の胸に熱いものが込み上げてきた。
「ジイちゃん、俺、決めた」
「何をじゃ?」
「東京に行く!」
与作ジイの眉がピクリと動いた。
「東京で何をするつもりじゃ?」
米蔵は立ち上がり、拳を握りしめた。
「米を買わずに手に入れる方法を証明してやる!愛があれば米は手に入るってことを、全国に知らしめてやるんだ!」
「ほほう、面白い」
与作ジイの口元に微かな笑みが浮かんだ。
「だが米蔵よ、東京は秋田とは違う。米の価値を理解せん者ばかりじゃ」
「だからこそ行くんだ!」
米蔵は炊飯器を胸に抱きしめた。
「俺がこの子たちの本当の価値を教えてやる!買わなくても、愛があれば米は手に入る。そのことを証明して、あの大臣を見返してやるんだ!」
与作ジイは立ち上がり、米蔵の肩に手を置いた。
「よし。ならばわしからの餞別じゃ」
奥の部屋から古い木箱を持ってきた与作ジイ。中には黄金色に輝く米が入っている。
「これは?」
「『愛米(あいまい)』という品種じゃ。わしが40年かけて作り上げた、世界で一番愛の込もった米じゃ」
米蔵の目に涙が浮かんだ。
「ジイちゃん...」
「これを持って行け。きっと役に立つ」
「ありがとう!絶対に成功させてみせる!」
翌朝、米蔵は軽トラックに炊飯器と愛米を積み込んだ。
「いってきます!」
「気をつけて行けよ。そして忘れるな──」
与作ジイが最後に言った。
「『コメは愛だ』。この言葉を胸に、東京で暴れてこい」
「はい!」
軽トラックが土埃を巻き上げながら走り去る。与作ジイはその後ろ姿を見送りながら、小さくつぶやいた。
「米騒動の時代が、また来るかもしれんな...」
秋田の青い空の下、米蔵の冒険が始まった。
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