第15話
ちょっとしたきっかけで「転生者らしい少年が村の外れにいた」という話を聞いた私。
もしかしたらカナトくんかもしれない。確証はないけど、いてもたってもいられなくて、翌日の午後、少しだけお店を早仕舞いして村はずれに向かった。
舗装もされていない細い道を進むと、小さな林の手前で、ふらふら歩いている少年を見つけた。
……やっぱり!
「カナトくん!」
彼は振り返り、目を見開いて立ち止まった。
「……あ、あのときのお姉さん?」
間違いない。彼の目にはまだ少し戸惑いがあるけれど、私のことを覚えてくれてた。
「よかった、無事だったんだね。お腹すいてない?」
「……ちょっと、すいたかも」
そう言う姿は、どこか頼りなくて、でも年相応で。
私はカナトくんの手をそっと取って、にっこりと微笑んだ。
「じゃあ、今日は特別に“屋台”でご飯にしよっか」
◆ ◆ ◆
異世界店舗のレベルアップで使えるようになった新機能『屋台』。
私はさっそく、店の外にその機能で簡易屋台を展開してみた。
いざというときのために作っておいたたこ焼きの素と電源付きのたこ焼き器(日本の技術バンザイ!)を設置して、カナトくんと並んで準備を始める。
「……これ、何をつくってるの?」
「たこ焼きっていってね、丸いたこ入りのお菓子みたいな軽食かな?」
興味津々でのぞき込むカナトくん。
丸く焼かれていく姿を見て、「おぉ~……!」と目を輝かせてる。
「一番最初のやつ、味見していいよ」
「えっ、いいの!?」
猫舌なのかふーふー冷ましながら、ひと口。
「……あつっ、でも、うまっ」
その顔に、ようやく笑みが浮かんだ。
なんだかこっちまでうれしくなる。
「カナトくんって、前に地球にいたこと、覚えてる?」
「……うん。たぶん。何となく、夢みたいに」
少し伏し目がちに言う彼。
「学校」とか「スマホ」とか、そんな単語は彼の口から出てくる。
けれど、こちらに来てからはあまりうまくいってないみたいだった。
「言葉、なんとなく分かるようになってきたけど、難しいよ」
「でもすごいよ、ちゃんと会話できてるもん」
その一言で、カナトくんはちょっと照れくさそうに笑った。
◆ ◆ ◆
屋台の周りに、いつのまにか人だかりができていた。
アランくんとデュランくん、そしてそのお母さんも姿を見せる。
「まぁ、お店の外でこんなことを!面白いわね」
「この匂い、なんかお腹すくー!」
「こんにちは~、たこ焼き屋さんでーす!」
屋台モードの私はちょっとテンション高め。
次々と焼きあがるたこ焼きに、行列ができる。
そして、カナトくんは照れながらもお手伝いしてくれた。
「この子、新しくこのあたりに来た子なの?」と聞かれたので、
「ちょっとね、ご縁があって。今は友達だよ」
と返すと、みんなにこにこしてくれた。
――こうやって、少しずつ馴染んでいけたらいいな。
カナトくんは焼きたてのたこ焼きを口に運びながら、ぽつりとつぶやいた。
「なんか、ここでも生きていける気がしてきた」
うん、きっと大丈夫。
その言葉を聞いたとき、私は心の中でそっとガッツポーズした。
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