あの日彼女が僕の名前を間違えた時から、この恋は始まっていたのかもしれない

徒然書

第1話 〜彼女は僕の名前を間違えていた〜

 桜も少しずつ咲き始め、もうすぐ満開を迎える時期。地域によっては既に満開を迎えている場所もあるけれど、ここではまだ3分咲きからよくても5分咲きがいいところー。


 そんな片田舎の中でも更に山奥に住んでいる僕は、今日から中学2年生になる。


 毎日勉強するのが日課で、周りからガリ勉と称される僕には友達がいない。だからクラス替えで誰と一緒になるのかには興味が無く、自分の名前を見つけると静かに教室に入って自分の座席に着いた。


 やがて少しずつ新しいクラスメイト達も自分の席に着き始め、殆どは隣や近くの席同士で挨拶をしたり談笑したりしている。僕にはそんな風に話しかけてくる相手は居ない。


(僕は勉強が友達だからいいんだ)


 他人が聞いたら強がりに聞こえるだろうけど、僕にとっては勉強…教科書や参考書と向き合う方が有意義なんだと本気で思っていた。


 始業開始の5分前になっても、僕の左隣の席はまだ埋まっていなかった。すると1人の女の子が慌ただしく教室に駆け込んできた。


 彼女はキョロキョロと辺りを見回したかと思うと、僕の隣の席まで歩いて来る。なるほど、この子が隣の席の子か。


 自分の名前が机に紙で貼られてあるのを見つけ、安堵しながら独り言を呟いていた。独り言にしては大きな声だったけれど。


『いやー、ギリギリ間に合ったよ。初日から遅刻なんて洒落にならないしね』


 …騒がしい子だなと思ってみたものの、彼女の声が思ったよりも耳馴染みが良く、声量の割には気にならなかった。


 思わず彼女に目を向けていたら、突然彼女は僕に話しかけてきたんだ。


『あたし、木本みちる!よろしくね♪キミの名前は…これ、なんて読むの?はる…ひ?』


 [春日春彦]というのが僕のフルネームだ。いきなり名前呼びしようとしてくるなんて、馴れ馴れしいなと思う。


『うん、君の事はこれからハルヒって呼ぶね!』


 しかもそこで区切るのか?という呼び方。思わず苦笑してしまうが、こんな僕に話しかけて来た彼女の事を無碍には出来なかった。


「ハルヒでもなんでも好きに呼んでいいよ。こちらこそよろしく、木本さん」


 挨拶を返した僕にニッコリと微笑んだ彼女の事を、不覚にもちょっと可愛いなと思ってしまった。


 だけど僕はこの日、ある大きな勘違いをしていた事に気付かなかったー。


--------------------------------------------------------

 授業も始まって数日が経った。


 幸運と言うべきか神様の悪戯と言うべきか…席替えをした後も、僕の隣の席には木本さんの姿があった。


『やったー、またハルヒと隣だね!』


 この数日間で僕に話しかけてくるのが当たり前になってきた彼女。明るくて人当たりの良い彼女は、男女問わず人気者だ。


 そんな木本さんが僕に周りを気にせず話しかけてくるもんだから、特に男子からの嫉妬の視線が凄かった。


 そして更に数日後、僕は数学の授業で先生に問題を解くように当てられたが難なく答えてみせた。その時の木本さんが僕を見る目は、心なしかキラキラしているように見えた。


 授業が終わり休憩時間になると、すぐに木本さんは僕に話しかけてくる。


『ねぇねぇ、ハルヒって実は頭良いの⁈さっき先生に当てられた時、こともなげに正解してたし!』


 …僕の見た目はメガネをしていて、髪型は七三で分けているため、いかにも勉強ばっかりしてそう–––って思われやすい。実際勉強が趣味みたいなものなんだけど、彼女には僕がそういう風には見えなかったんだろうか?


 大体の人は僕の見た目から根暗なイメージを持ち、話しかけて来る事すらしないのにー。最初から彼女は僕にそういう偏見を持っていなかったんだという事に気付かされる。


「うん、勉強は…まぁ得意な方だと思うよ」


 1年生の時は常にテストでは1番を収めた僕がこういう言い方をするのは、嫌味に聞こえてしまうだろうか?


 謙遜して答えたつもりが裏目に出ていないか心配する僕だったが、木本さんは全く気にした様子も無い。それどころか凄い!という羨望の眼差しを向けてくるほどだった。


『えー、いいなー!あたし全然勉強出来ないからさ…学年でも最下位らしいし。あ、それとさっき先生から“かすが”って呼ばれてたけど、あれってハルヒのあだ名?』


 んん?と僕は彼女の問い掛けに首を傾げる。だってハルヒがあだ名なんじゃないの?と思考を回転させて、ようやく行き着いた答え。


「まさか…“春日”を“はるひ”って呼んでたの…?」


『あれ、違うの?だってハルヒもそう呼んでいいって言ったから、合ってるんだと思ってたよ』


「ええぇぇぇぇぇぇぇぇっっっっ⁈」


 普段、木本さん以外と話す事のない僕が大声を上げた事で、クラスのみんなだけでなく木本さんまで驚かせてしまう。


『もう、急に大声を上げてビックリしたよ!そっか、苗字が“かすが”って読むんだね?下の名前が…“はるひこ”?だったら呼び方はハルヒのままでおかしくないね!』


 こうして木本さんの誤解と僕の勘違いが同時に解ける事になったのだったー。


-----------------------------------------------------

[あとがき]

 作者の徒然書と申します。まずはお読みいただきありがとうございました!


 思い付きで書いたこの作品ですが、反応が良ければもう少し書き続ける予定です。(※当初は1話完結にしようと考えていました)


 もし物語が面白かった・続きが気になるという方は♡や⭐︎と作品のフォロー、また感想をいただけるとありがたいです( *・ω・)*_ _))


※当作品では男性のセリフが「」、女性のセリフが『』で区別されています。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る