第39話カミラカスタム

「うあああああああ!」


「……!」


 カミラは叫びとともに、渾身の蹴りを放った。


 まさか入るとは思わなかったが、本気で繰り出した右足が魔神機の胴体に突き刺さった。


「!?」


 カミラは驚きの情報量で、一瞬頭がパンクしそうだった。


 まるで手足の延長のように動くロボットスーツはその手ごたえさえ感じ取れるようだったのがまず一つ。


 もしカミラ自身が魔人機を使えていたとしたらと想像するに容易い一体感はすさまじい。


 そして目の前に尻もちをつく魔神機アルマギオンを前にすると、背筋にゾクゾクと電流が走るほどの興奮があった。


「それは魔人機か? 目覚めたのか? まさか……」


「……目覚めたのではありません。与えられたのです。これは魔人機ではない。人の力で作られた鎧です」


「だとしたら―――見過ごすわけにはいかないぞ?」


 そんな一言と共に女王と目が合った刹那、カミラは一瞬、自分の首が跳ねられたかと錯覚した。


 そんな錯覚をしてしまうほどの殺気と共に、光と衝撃が機体を揺さぶった。


「……!」


 機内のランプが無数に点滅し、見上げたモニターの先には輝く障壁を纏うアルマギオンは立っていた。


「魔人機と似てはいるが……魔力はお前のものしか感じられない……立て、その力見せてみろ」


「―――言われなくても!」


 武装はどういう理屈か、頭に自然と流れ込んでくる。


 腕部のバルカンにヒートナイフ。


 そして腰にサブマシンガンを装備している。


「……この!」


 すぐさま構え引き金を引くと、けたたましい音と共に構えた銃身から、銃弾が叩き出された。


 銃という兵器は、私達にはない発想の武器だ。


 どこから来たのかは知らないが、それが多数を一度に倒すのに効率のいい武器だと言うことは理解できた。


 引き金を引くだけで、下手な魔物なら貫ける勢いの礫が雨のように吐き出されるそれは、至近距離なら魔人機であってもダメージはあるだろう。


 だがメイン武装のサブマシンガンはしかし障壁に阻まれて、一発たりとも命中してはいなかった。


「……こんなものか?」


「―――光の衣ですか?」


「そうだとも。神の守護とも言われているな」


 神の力を宿した障壁。


 言葉通り、それを纏うことによってあらゆる攻撃から魔神機は守られる。


 そしてあの光の剣もまた神懸かった力を持つことを、カミラは骨の髄まで理解している。


 魔人機とは比べ物にならない圧倒的な神の力は、天から与えられたものだ。


 おそらくこの城位なら一撃で更地に出来るほどの圧倒的な力である。


 恐ろしさを知るからこそカミラは立ちすくむ。


 そして恐れは、正確に相手に伝わってしまった。


「そうだ。それで正しい。人は神の力を前にしてひれ伏すしかない」


「そんなもの! やってみなければわかりません!」


 それは殆ど意地のようなものだったと思う。


 しかしただの意地で絞り出した虚勢でも、この機体は反映してくれた。


 私の身体が輝いている。


 迸る魔力の本流はこれまでの人生で感じたことがないほど激しく粗ぶっていた。


「……この子とならいける!」


「悪あがきを……」


 魔力を増幅しているのはこの機体そのものだ。


 その全身に施された、道に無数に配置された魔力結晶が私の力を効率よく引き出し、何倍にも増幅してくれる。


 気がつけば、引き抜いていたナイフに魔力が集まり、光を一切反射しない剣を形成していた。


「魔剣よ―――私の道を示しなさい!」


 私は限界まで力を振り絞った剣を真っすぐ突き出す。


 ただ一直線に突き出した剣は、細く暗くただ一筋の道を貫く。


「……なに!」


 光の衣を刺し貫く刃は、今一度女王の目を見開かせることに成功した。


「!」


 恐ろしいほどに魔力の伝導効率がいい。


 そして湧き上がるすべての魔力を、カミラは祈る様にただ一点に集中する。


 こんなことが出来るのも、この機体あってこそ。


 ひょっとすると器としての基本的な力は遥かにロボットスーツの方が上の可能性すらあった。


 一体どこからこんなモノがやって来たのか、なぜここにあるのかそれを知るのはドクタークレイだけだ。


 だがそんなことカミラにはどうだってよかった。


 ただ、こうして彼女が自分を見ていることが何より重要だった。


 死力と咆哮の狭間でビシリと異音が聞こえ、カミラの刃は光の衣を貫いていた。


「まさか神の力を貫くとは……だがまぁ」


「……!」


 瞬間、力任せに頭を掴まれたカミラは、振り回されて床にたたきつけられた。


「女神アルマの名を冠する魔神機は伊達ではない」


「……ぐぅ!」


「魔力を極限まで集中して光の衣に穴をあけたのは見事……しかしそれだけだ」


 踏みつけられ、機体は全く動けない。


 傷つけたはずの装甲はもうすでにふさがり始めているのが見えた。


 それは機体同士の明確な力の差があることを表しているようだった。


「全く本当に惜しい……本当にお前はいい魔法の才を持っていた。だが神はシルフィードを選んだのだ。属性の相性が良かったのか。あの娘自身の資質の問題か、それはわからないが……それでも選ばれなかったことがすべて。今生でお前の居場所はここにはもうなくなった。王などかりそめの冠だ、ただ女神アルマに仕える巫女たる我らは結果に従う他ない」


「……」


「神の力とはこういうものだ。どうしようもなく運命をもて遊ぶ。お前のそれは脅威でも何でもないとはっきりしたぞ? それは魔人機にも劣る劣化品だ」


「……!」


「どうだ? ドクタークレイ。これで終わりだ」


 女王は勝利して告げる。


 しかしドクタークレイは不敵に笑い続け、呟いた。


「ふむ……勝てないか」


「諦めて投降しろ。命だけは助けてやるぞ?」


「素晴らしい。では第三フェーズに移行しよう。さて、クーシー君、カミラ研究員を取り込みたまえ」


「ワン」


 待機していた巨大な狼はノソリと動き出して、倒れて動かないカミラカスタムに深々と牙を突き立てた。

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