第32話侵入者
城に戻り、魔人機を解除したシルフィードを歓声が迎えた。
「お疲れ様ですシルフィード様!」
「流石は魔人機に選ばれたお方だ!」
誰もが彼女を讃え、シルフィードは笑顔でそれに応える。それがここ最近のあたりまえにありつつある光景だった。
魔人機にシルフィードが目覚めたのは1年前。
今でこそ周囲の反応を受け入れつつあったが、この責任ある立場が分相応と思っているかと言うと少し違う。
シルフィードには二つ年上の姉がいて、彼女はとても優秀だったからだ。
剣を持たせれば敵う者はなく、魔力は国でも随一だった姉は、シルフィードの憧れでもあり目標だったのだ。
そんな姉を差し置いて、シルフィードが魔人機に選ばれたことは、今でも信じられなかった。
けれど、魔人機の器に選ばれるのはそれこそ神の采配だ。
神の思惑なんて人間にうかがい知れるものではなかった。
だがそんな姉が行方不明になってしまったのは一か月ほど前の事だ。
魔境近くの辺境の村に視察に赴いた姉は、そこで盗賊に襲われてしまったと言うのだ。
姉なら盗賊なんかに遅れはとらないと思いつつ、帰ってこない姉をシルフィードは心配していた。
ただ、待ちに待った知らせは突然もたらされた。
「大変ですシルフィード様!」
「なに?」
「お姉様が! カミラ様が城にお戻りになられました!」
「え! 姉さまが!」
その知らせを聞いた時、最高の知らせで声が跳ねた。
シルフィードは目を輝かせて、本当なのかと知らせを持って来た女官の肩を掴んだ。
「城にいらっしゃるのか! お会いしにいかないと!」
今にも飛び出しそうなシルフィードを止めたのは、知らせを持って来た女官だった。
「い、いえ! それはお待ちください!」
「なぜだ! 私は姉さまに一刻も早くお会いしたいんだ!」
「いえ! 現在、謁見の間で女王陛下とお会いになっていますので……」
「お母様と?」
シルフィードは考える。そして閃いた。
「好都合じゃないか! 魔物を倒した報告と一緒に、姉上の生還祝いを進言しよう!」
「いえ! それは……!」
「さぁ行こう! ぐずぐずしてられない!」
「待ってください! まずいです!」
制止の言葉も振り切って、シルフィードは最愛の姉と一秒でも早く再会するために駆け出す。
だがその時、すでに事態は動き始めていた。
城の中は庭も同じだ。
謁見の間まではそう遠くない。
そのはずだったが、城の中が妙に騒がしいことに気がついて、シルフィードは立ち止まる。
「何?」
「……さぁ。なんでしょう?」
警戒して足を止めたシルフィード達の目前を、ドカンと爆発音とともに人が飛んでいた。
「……なにぃ!」
飛んできて転がっている鎧は、この城の騎士達だと一目でわかった。
そしてぞろぞろと現れたのは、どう見ても普通ではない集団だった。
「はっはっはっはっはっ! 痛快だ! あんだけおっかなかった騎士がてんで相手にならねぇじゃねぇか! すげぇなお前ら!」
「弱っちいデス!」
真っ黒な格好をした人型の魔物の群れと謎の男。
そして魔人機のような動く鎧に乗り込んだ、妖精のクーシーらしきもの。
「―――何アレ?」
あまりにも意味不明で一瞬呆ける。
だがすぐに、冗談でも何でもないのだと気づかされた。
「くそ! 魔法隊! 城への被害は考えるな! 放て!」
すぐさま体勢を立て直した騎士達が隊列を組んで、炎の魔法が燃え上がる。
一糸乱れぬ一斉掃射は、並みの魔物なら一瞬で炭になるほどの火力だとわかった。
「ヒィ! 戦闘員!」
命中したのは飛び出して来た、黒い人型の魔物だった。
そいつらはしかし炎が直撃した瞬間、額の角が不可思議な光を放って、炎をかき消したように見えた。
「……クソ! いったいどうなってる!」
必殺の連携で無傷なのだから、騎士達が狼狽えるのも無理はない。
一方で相手の方はずいぶん調子に乗っていた。
「ハッハッハッ! 魔法なんぞ効かないっての!……つうか、戦闘員に角なんて生えてたっけ?」
「ドクターが改造したデス! 魔法対策デス!」
「……マジか? 俺も角生やすかな?」
傷一つない魔物はゆっくりと前に出てくる。
恐れおののいた騎士達が静まり返り、自然と彼らの視線は一斉にこちらを向いた。
「おお、女の子だ。女の子がいるぞ? いつもなら優しくするところだが……今あんたと似た女の子に辛い仕打ちを受けたばっかなんだ。ひどい目に合いたくなきゃ逃げ出しな? じゃなきゃ痛い目見ることになるぜ?」
一番弱そうなチンピラ風の男が、こちらにそんなことを言ってくる。
シルフィードはなぜかにっこりと自分でも驚くほどの笑みが浮かんで、剣の力を解き放つ。
「とりあえず。死ね」
「コワィ! ゴメンなさい!」
聖剣の閃光が、黒い魔物を捕らえた。
聖剣に対して、魔物は避けるでもなくただ真正面から受けて立った。
はっきり言っておろかだ。
インパクトの瞬間、並んでいた人型魔物の角が輝いたが、しかし気合を入れて振り切ると、魔物は衝撃に負けて吹き飛んだ。
「は?」
確かな手ごたえに満足して、シルフィードはチンピラを睨む。
「今度宙にひっくり返るのはそっちだったみたいだね。それで? どうひどい目に合わせてくれるのかな?」
「ええぇ? 力わざぁ? ……す、すみません。調子乗ってました!」
「いきなり気持ちで負けるなデス! ドクターを信じるデス!」
「えーどこからそんな信頼感来てんだよお前ら? 一緒にいた期間同じくらいだろ?」
「ふふん! プレゼントの数が違うデス!」
「……ものにつられたんかーい」
「お前が言うなデス!」
「ごもっとも。捕虜は大人しくしますよ」
しかし緊張感のない会話が続く侵入者にシルフィードのこめかみが震えた。
敵のこの余裕の源は何なのか?
不審に思っていると、シルフィードはゆらりと動く複数の影を見た。
「……え? 嘘だろ?」
聖剣に斬り倒されたはずの人型魔物が普通に立ち上がったのだ。
そしてこちらはどういう存在なのかもよくわからない、クーシーの乗っている大きな鎧まで動き出したのも見えた。
何であんなものが城の中に突然出て来たのか、わけがわからない。
しかし一筋縄ではいかない相手だと、シルフィードが認識を改めるには十分だった。
「……これは城を壊すわけにはいかないなんて言っていられないかな?」
「姫様?」
「すぐに避難を。魔人機を使う……」
「えぇ! ここでですか!?」
「そうだよ。アレはかなりヤバそうだ」
「……は、はい! ご武運を!」
こいつらが何なのかは捕まえた後にゆっくり聞き出せばいい。
魔人機の輝きは、シルフィードの闘争心に応えるように激しく増して、白銀の鎧が虚空から顕現する。
「手早く済ませよう。姉さまが待っている」
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