第16話そろそろバカンスもやってみたい

 やりたい目標は出来たが、今の私はそれ以上に優先すべきことがあった。


 私はバカンスに異世界へやって来たのだ。


 その辺り引っ越しを終えた今、そろそろそれっぽいことをやっておかねばならないだろう。


 バカンスと言えばリゾート。リゾートと言えばプール……そんなイメージは私の中にも存在した。


 そこでこんなこともあろうかと用意していたプールである。


 真っ白な床板のデッキにプールの水面がキラキラと反射していて中々に美しい。


 そしてプールサイドに設置したデッキチェアにアロハとサングラスで寝そべってみる。


 傍らのテーブルにフルーツが沢山刺さったオレンジジュースを準備して、飲んでみたわけだが―――。


「……そんなに楽しくはないな。雰囲気はあるかもしれないが」


 私には少々日差しは相性が悪いようだ。


 オレンジジュースも普通に飲んだ方が飲みやすかったし。


「それになんか……体調悪い気がする。毒薬を飲んでも平気なはずなのにな。太陽光がまずかったとでも言うのか?」


 間違いなく気分の問題だけな気がするが、何とも言えない感じだった。


「いやはや、心因的なものも侮れない」


「……なんでそんなに太陽に弱いんですか?」


 心底不思議そうな声は隣から聞こえて来た。


 太陽に弱いのかと言われると、一応そんなことはないはずなので私は唸って声に応えた。


「弱いってことはないと思うんだが……いや、そう言えば大昔は日焼けしやすい子供だったかな? ほら、すぐ赤くなる感じの」


「ああいますね。痛そうなやつ」


「それになんかこう……こうして空を見上げていると、落ち着かない。画面をもっと眺めていたい衝動にかられるね」


「それなんか病んでるやつじゃないっすか?」


「いやいや……そんなことないだろう?」


 この研究員は世界から病気と怪我を駆逐した天才になんてことを言うのだろう?


 ちょっと悔しいから、もう少し慣らしてみるか? いや、慣れるとか言ってる時点で趣旨が違う気がする。


 中々難しい問題である。


 私はかけていたサングラスをずらし、話し相手を見た。


 そこには海パン姿の研究員Aがビーチチェアに寝そべり、でっかいアイスクリームを片手にくつろいでいた。


「……君は一瞬で馴染んだね。その順応能力は驚嘆に値するよ」


「いや、くつろいでるだけですけど? アイスクリームってやつ、うまいっすね」


 いやまぁ。ここまでの一連の流れで私の側でくつろいでいられるだけでも十分大したものだと思う。


 これは一種の才能なのかもしれない。


 研究員Aはチェアーから立ち上がるとプールを眺めて目を輝かせていた。


「いやー……しかし庭に水風呂とは、すげぇ豪華なもんです。貴族様みたいだ!」


「ふむ。気に入ったのなら好きに使って構わないよ、せっかく作ったのだし」


「ホントっすか! ありがとうございます! オラ! お前らお許しが出たぞ!」


 その瞬間、ヒャッホイと浮き輪を持って来たクーシー達と戦闘員達がプールに飛び込み始めた。


 一体戦闘員にどんな指示を出したというのか?


 全員が海パン着用済みだった。


「……確かに用意していたのは私だけれども、良く見つけたものだ」


 プールがあるならあってもいいだろうと用意していたオマケだったのだが、そうまで有効活用してくるとは思わぬ誤算である。


 めちゃくちゃ楽しんでいる研究員A達。


 そんな彼らをよそに、日傘をさしてやって来た研究員Bは私が用意した女性服姿で、全く泳ぐ気がないみたいだった。


「君は泳がないのかね?」


「泳ぎません。肌を人前でさらすなんてはしたないです」


「そう言うものかね? 元の世界では女性も嬉々として泳いでいた物だが……まぁそう言うものかもしれないね。私もこういう休み方はむいていないようだ」


 残念ながら諦めた私はひょいっと椅子から飛び降りて背筋を伸ばした。


「自分に合ったバカンス探しというのも難しいものだ。そう言えば、もう少し休憩したら、君達に聞きたいことがあるんだ。この周辺の敵について詳しい話を聞かせてくれないかな?」


 伸びをした私はあくび交じりにそう言った。

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