第6話
― あたたかい指先 ―
⸻
冬の放課後は、あっという間に暗くなる。
街灯が灯る頃には、白い息がしっかり目に見えるほど冷えていて、
制服のポケットに手を突っ込んでも、あんまり意味がなかった。
「……寒いね」
「うん、めっちゃ寒い」
私と奏は、並んで坂道を歩いていた。
もうすぐ冬休み。今日は終業式だった。
年明けにまた会えるってわかっていても、
なぜか少しだけ、さびしくて。
冬の風が、頬をかすめていく。
横を歩く奏の肩に、少しだけ寄りかかった。
「……ねえ、手、つないでいい?」
私がそう言うと、奏がちょっと驚いた顔をした。
「手袋してるけど、いいの?」
「むしろ、それでもつなぎたい」
奏は照れたように笑って、私の手をそっと握ってくれた。
お互い手袋をしたままだから、手のぬくもりは伝わりにくいはずなのに、
それでもちゃんと“つながってる”って感じた。
「ねえ奏、私、冬がいちばん好きかも」
「なんで?」
「人恋しい季節に、大好きな人がそばにいるって、あったかいじゃん」
言ったあとで、ちょっと恥ずかしくなったけど、
奏は黙って、私の手をきゅっと強く握り返してくれた。
坂道の途中、木の葉はすっかり落ちていて、
冬の星が、ぽつりぽつりと浮かび始めていた。
「お正月、どっか行くの?」
「家族でちょっとだけ旅行。2日から」
「そっか……じゃあ年内にもう一回、会いたいな」
「うん。……会いたい」
付き合い始めた頃は、
こんな風に素直に「会いたい」とか言えなかった。
でも今は、恥ずかしさよりも、
ちゃんと“気持ちを伝えたい”って思う。
「……あ、見て」
私が空を指さすと、奏も顔を上げた。
「うわ……星、めっちゃきれい」
「ね。冬って空気が澄んでるから、星もよく見えるんだって」
「……凛、物知り」
「へへ、ちょっとだけね」
しばらく、ふたりで空を見上げたまま歩く。
手袋ごしの手は、少しずつあたたかくなっていた。
「なあ、凛」
「なに?」
「この手袋の下の手……まだちゃんと握れてない気がする」
私は立ち止まって、くすっと笑った。
「じゃあさ」
手袋を、そっと外す。
「こっちで、つなご?」
裸の指先が、ひやっと冷たくて。
でも、奏の手と重なった瞬間――ふわっと、心の底から温まった。
「……あったか」
奏がそうつぶやいた。
「うん。……こっちの方が、好き」
「俺も」
言葉よりも、握る強さで気持ちが伝わる。
そんな気がした。
坂の上、誰もいない夜道をふたりで歩く。
寒さも忘れるくらい、ぬくもりが心にしみていった。
冬の夜。
言葉少なでも、ちゃんと愛しさが満ちている。
またひとつ、大事な思い出ができた。
こんなふうに、ささやかな時間を積み重ねていけたら――
それだけで、十分に幸せだと思った。
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