星屑サファイアは夜を駆ける ~私、実は超才能の塊らしいけど、魔法は壊滅的に下手!? だけど、仲間とならこの日常を守れます!~

さんてら

プロローグ

 かつて賑わいを見せたショッピングモールは、見る影もなく荒廃していた。

 黒い煤が壁や床を覆い尽くし、そこかしこに血痕が飛び散っている。

 誰もいないはずの空間に、ただ静寂だけが横たわっていた。


 そんな中に響くのは、幼い少女の悲痛な叫び声。


 「ママ……? パパ……? どこに行っちゃったの……?」


  煙が視界を遮り、瓦礫の山に囲まれた少女に、逃げ場はなかった。もはやこれまでか、と覚悟したその時、濛々と立ち込める煙の向こうに、ぼんやりと人影が浮かび上がる。

 助けが来た! 少女の胸に一筋の希望が差し込み、彼女はかすれた声で叫んだ。


「はやく……助けて……!」


 しかし、現れたのは、少女の希望を打ち砕く存在だった。炎が蠢く異形の人型、それが怪物の姿だった。


 熱波を伴い、見る者を怯ませるその姿は、まさしく破壊の権化。怪人は、少女の恐怖に歪む顔を愉しむかのように、おぞましい笑みを浮かべていた。

 燃え盛る炎の中、童心に帰ったかのように少女を捕らえようとするその姿は、人ならざる狂気をはらんでいた。


 「フフフ、どうしたんだい、お嬢ちゃん? 逃げ遅れちゃったのかい? 助けが欲しいのかい?」


 そして、悪意に満ちた言葉を放つ。


 「だが、残念だったな、ここにいるのはこの建物をぶっ壊して、燃やし尽くし、おそらく君のパパとママを、この手にかけてしまったであろう“おじちゃん”なんだよね。……クク、さて、きみもおかあさんのところに送ってあげようね…!」


 少女が絶望に顔を歪ませ、怪物がその汚れた手を伸ばそうとした、まさにその刹那――


 一筋の青い閃光が、怪人の間を割って飛び込んだ。


 「この子には手を出させない…!」


 深みと星の輝きを秘めた青色のコスチュームを纏った魔法少女が、怪人の目前に颯爽と立つ。腰回りの控えめなフリルが軽やかに揺れ、純白のニーソックスと手袋が、その鮮やかな青を一層引き立てていた。


 彼女の瞳は澄んだサファイアの輝きを宿し、力強く怪人を睨みつけていた。彼女が立つだけで、周囲の重苦しい空気が一変し、希望の光が差し込んだかのように感じられた。


 その魔法少女は、怪人に迷いのない一撃を放つ。精緻に計算され、威力を一点に集中させた、まばゆい光の奔流。怪人は、まるで紙屑のように吹き飛ばされ、瓦礫の山へと叩きつけられた。


 「グオオオオォォォッ!クッソ、魔法少女がこんなに早く来るなんて…」


 怪人が唸りながら、瓦礫の中から再び蠢きだす。


 「俺は、俺はこんなはずじゃ……俺の力はこんなものじゃ……!」


 は、ふっと振り返り、怯える少女に優しい笑みを向ける。

 

「大丈夫、もう大丈夫だからね」

 

 その声は、確かな安心感を与える穏やかな響きを持っていた。


 その時、彼女の耳元のデバイスから、聞き慣れた声が聞こえてくる。


 「ギリギリセーフ…みたいだね、瑠璃ちゃん。今回の怪人、どうやら都内で発生した一連の事案で確認されている変異体ヴァリアントのようね。違法な流通経路からのドライブ使用が濃厚よ。油断はしないでね」


 「ん~。どうやら、この変異体ヴァリアントも炎のコントロールがへたくそみたいだね~。るりっち、やっちまいな~」


 さらに別の声が聞こえる。のんびりとした、どこか眠たげな口調だが、その言葉には深い洞察力が感じられる。返事をする魔法少女の表情には、信頼と余裕が浮かんでいた。


 「わかってるよ、結衣先輩! ましろんもサポートお願いしますね!」


 怪人が瓦礫の中から呻き声を上げながら、不気味な炎を纏い再び立ち上がろうとする。その場にたった一人の魔法少女は、その姿をまっすぐに見据え、確かな声で告げた。


 「あなたが何に恨みを持っているのか知らないし、何を失ったのかは知らない。けれど、その力で他人のことを傷つけることは許されない。そんなことは、誰にも認めさせない!」


 そして、怪人に向かって力強く言い放つ。

 

 「私は魔法少女、スターライトサファイア! これよりあなたを無力化します!」


 彼女の言葉に、怪人は怯んだように一歩後ずさった。

 

 この世界には、魔法少女がいる。

 人々を守る、希望の光である。

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