第16話:演説!and逃亡!
真っ暗なホールには、学院の生徒がズラリと座っている。
そして舞台には、天井から差し込む光が照明のように注がれていた。
壇上に立つのは司会の生徒のみ。だが、彼女は主役じゃない。
俺たちはというと、
「そろそろアトラちゃんの番……!?」
「たっ、楽しみだねっ」
舞台袖、照明が当たらない、最も暗い場所。
そこに、いつもの面々が集結していた。
「僕らの出番はかなり後のようだね」
「私は未だにこういった式典には慣れません。気楽な殿下が羨ましいです」
「ふん……」
一人、演説の台本を暗唱する俺をよそに、皆は小声で楽しそうに会話していた。
一方、客席の生徒たちからは話し声が聞こえてこない。
あっちを見習えお前ら。仲が良いのは素晴らしいことだけど。
「うふふっ。聖女ちゃんったら、緊張してるの? お姉さんが肩でも揉んであげようかしら?」
「また脇に手を入れられて持ち上げられそうなので遠慮させていただきます」
「聖女ちゃんったら、つれないわねぇ」
プレゼンというものは、何回経験しても緊張するものだ。
一度始まってしまえば脳が冴えていくんだが、それまでずっと緊張が続く。
胃腸がそれほど強くなかった俺は、プレゼンまでの時間が長ければ長いほど腹を痛めるタイプだったので、順番が後の方だと苦しくて仕方なかった。
「それでは、新生徒会長のお言葉です」
腹を軽くさすりながら、表情を取り繕って席を立つ。
そして——光の差す世界へ足を踏み入れる。
「わぁ……!」
「まるで天使……!」
万雷の如き拍手に包まれ、俺は淡い光を放ちながら姿を現す。
その歩みは優雅に。己こそが聖女であると体現するように。
その笑顔は柔和に。癒やしを司る存在だと誇示するように。
舞台の中心、演説台の上には、風魔法を応用して作られたマイクが置かれていた。
「皆様、本日は生徒総会にお集まり頂きありがとうございます。この度、学院長の選任により生徒会長を務めることになりました、アトラ・ルミディーナです」
風に乗り、声はホールの奥まで響く。
だからか、ほんの少し、生徒たちの髪が揺れたように見えた。
「私は、生徒会の役員を会長の権限で既に指名しています」
ちらりと右側に目配せをすれば、2つの影が動くのが見えた。
タイミングを合わせ、息を吸って、その名を呼ぶ。
「副会長、レキ・エクリーアル。会計、ミリア・フェイリス」
笑顔で手を振りながら——さながらアイドルだ——登場したレキと、ガチガチに緊張しているのが手に取るように分かるミリア。
ミリアに関しては、「彼女が慕うバーレイグが見ている」というのも緊張を増幅させる要因な気がしている。
早めに治さないと、いずれ大きな面倒事になりそうで怖い。
「そして——会計、ノエル・ソラノート」
俺たちとは反対側の舞台袖から、夜空を纏う少女が姿を見せた。
空色の瞳は、凛と俺を見続けている。
そこに、怒りはない。
晴れ渡る空のように、スッキリした様子で微笑を浮かべていた。
「以上の4名にて、今年度の生徒会を運営していきます。皆さま、異議がなければ、どうぞ拍手で賛成の意をお示しください」
——そうして、演説は再びの拍手喝采で幕を閉じた。
その勢いが、熱量が、先程よりも増幅されていることに気がついた者が果たして何人いただろうか。
たぶん、もういない。
◇
「あうあうあああああ……!!!」
「ミリアちゃん!!!!! 気を確かに!!!!!」
場所は変わり、生徒会室。
構造的には学院長の部屋と大差はなく、装飾が色々違うくらいだ。
当然、受ける印象は全く異なる。
そんな中……ミリアは、泡を吹いていた。
その両肩を掴み、レキは迫真の表情でミリアの身体を揺さぶっている。
「……あの、変態——間違えました、殿下。この状況をどうにか出来ませんか?」
「アトラ様、僕のこと今なんて——」
「殿下……?」
上目遣い、胸の前で手を合わせ、お願いポーズ。
コテン、と首を傾げれば可愛さ倍増。
「っ……分かった」
「殿下……」
「バーレイグ。聖女には甘いんだな」
ふっ、チョロいな。
しかもノルナとアラヴァルナにも言われてるし。
「えっと……ミリアさん。僕の目を見てくれ」
「あうぅ……?」
幼児退行したような声で返事をしたミリアは、驚くほど素直に指示に従った。
身長の高いバーレイグと目を合わせると、必然的にミリアは上目遣いになる。だが、バーレイグは何一つ動じなかった。天然系美少女なミリアでは、照れされるほどの効果がないらしい。
「君の目には何が見える?」
「赤い……宝石……」
確かにバーレイグの瞳は赤い。それこそ、炎のような色だ。
しかし、それを宝石と呼ぶとはなんともロマンチック。
「そのまま深呼吸して。素早く吸って、半分の速度でゆっくりと吐く」
「すぅ、はぁ……あ、あれ? わたし何を……」
良かった。
きちんと正気を取り戻してくれたようだ。
これから慣れてくれないと困るからな、ひとまず安心できる。
「ミリアちゃんも治ったので、今から仕事の割り振りをします」
「あたしは何をやればいいの!?」
「僕も気になっていたよ。王子である僕すら呼んでどうする気なのかなって」
皆の疑問は当たり前のもの。
それに対する返答くらい、社会人ならばもちろん用意している。
「まず、殿下とノルナさんには監督役をお願いしたいです。お二人とも、書類にはお強いでしょう?」
「そうだね。王家直轄領の管理とかもしてるし、慣れてるよ」
「私は騎士ではありますが、団長は書類仕事も多いもので……」
互いに愚痴っぽいニュアンスで語っていた。
それを見ると、書類仕事とは無縁の聖女に転生したのはラッキーとしか言えない。お労しや……
「次に、ノエルさん。仕事はどの程度溜まっていますか?」
「会計は……学院修復の費用が、まだ帳簿にない、ので、それの記載、ですね……。書記は、教会本部への報告と、です……。会長や副会長は、それの手伝いが多い、です……」
内気な性格は変わっていないのか、途切れ途切れの言葉だった。
けど、自信がないわけではなさそう。少し照れているような、可愛らしいの範囲に収まるくらいのものだ。
「私は、学院の外で生徒たちの見回りをします。レキちゃんに買ってきてもらったローブを着ますから、皆にバレる心配はありません」
レキを副会長に誘った後、彼女にはお使いを頼んでいた。
それがこの白いローブだ。
別に色は指定していないが、聖女らしく清楚な印象を与える。
それでいてフードが深く、顔はしっかりと隠せそう。
こういう時は、何故かレキがまともに働くんだよなぁ……
「そのローブ、ここで使うんだ……! えへへ、アトラちゃんってばさすが!」
と、その時。
俺の後ろに人が立っていることに気がついた。
背中を取られた——! なんて思って振り返ると、それは黒髪の青年、アラヴァルナだった。
「俺も聖女に同行する。いいか?」
「その理由をお聞きしても?」
「聖女一人では危ない。護衛は必要だ」
数秒間、彼について考える。
今までの行動や、彼の性格を鑑みて、俺が今からすることに同行させても良いか判断したかったのだ。
「……確かに、そうですね。許可しましょう」
「感謝する」
「さて、これで全員に仕事を割り振りましたね。では——始めましょう!」
「「「はいっ!」」」
◇
それから数分。
俺とアラヴァルナは、学院の門の前まで来ていた。
黒く大きな門の向こうには、長い道が続いている。
目を凝らせば、遠くに、小さく街道が見えたような気がした。
「開けましょうか」
「あぁ」
ゆっくり、ギィと音を立てて門が開く。
爽やかな風が吹き、頬を撫でる。
同時に、胸の奥が震えた。
門を越え、学院から足を踏み出す。
全身が境界線を越える。
「……ここまで来るのに、些か時間がかかりすぎました」
次第に街に近づくと、学院の騒がしさとはまた違う喧騒が聞こえてきた。
より生活らしさが滲むような、無頓着な声だ。
煉瓦や木材の建築が並ぶ、西洋の街並み。
どこからか漂う、屋台の匂い。
目の前を馬車が通り過ぎると、石畳に伝わった振動が身体を揺らす。
「ここが……レイリアの街……!」
俺の視界には、間違いなく「ノクス・デラージュ」の街——レイリアが広がっていた。
=====
星100ありがとうございます!!!
なんですが……あの、今まで♡を押してくださった人たちがいなくなってめっちゃ寂しいです
読者様の名前が見えるの、♡かフォローか星だけなので、そういう面でもここらへんを押してくださると嬉しいです
数字じゃない「人」を感じれるので
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます