第4話 四字熟語
ベットの上を占領していた荷物を片付けた本城は、今度は自分の荷物を備え付けられたタンスに綺麗に入れていく。学校用、私服、野球用と分けて。
「あ、そうそう。風呂の時間は俺ら1年が最後だから、21時な」
「おー。それより明日練習って言われたけど何やんだよ」
自分の持ってきたタブレットで野球BouTubeを見ながら早乙女は答える。
「何って、1年の自己紹介から始める」
「は? 1年はもう練習参加してんじゃねぇの?」
「いいや、前乗り組以外は昨日、今日に入寮。ちなみに前乗り組は特待組。まぁ、そこにお前も含まれてるけど、帰国の関係で今日になったってこと」
その理由は本城自身知っていた。知らなかった内容と言えば、1年が全員今日に入寮を完了すること、監督が変わったことぐらいだ。
自分の荷物の整理も終えると本城は袋状のグローブケースから使い古された薄いブラウン色の投手用グローブを取りだすと、早乙女の横に座る。
テーブルに置かれたタブレットを覗き込みながら、グローブの中にいられた刺繍の文字を手でなぞる。
「お前まだ続けてんの? 他チームの試合見て球種書き込む面倒な事」
グローブに刺繍された勇往邁進という四字熟語から目を離さず本城は他校の公式試合を見ながら、スコアブックを書き込んでいく早乙女に聞いた。
一通り書き終わったのか、早乙女は動画を止めると本城の触っているグローブを視界に入れ即答する。
「一応ねー。これ書いてると自然と頭に試合内容とか選手のクセが入ってくるからさ。ただ見るより俺はこっちがいいかなぁって」
本城は気の抜けた風船のような返事をして、人のグローブを物珍しいような目で見つめる、早乙女の頭を小突く。
「いで……てかそのグローブ、宏のだろ?」
使い古されたグローブに指をはめ、本城は少し寂しそうな顔で答える。
「貸してもらった。俺が甲子園行くついでにお前にもその光景見せてやるって言って」
「甲子園ねぇ……楽な道もあるけど、本当にここでいいのか将也。茨の道だぞここは」
「そっくりそのまま返すよ。お前はどうなんだよ」
真新しいボールを腕の上で器用に転がしたり、
「宏が憧れてた高校だからな龍咲は。別に高校なんてどこでも良かったから、どうせなら宏の代わりに甲子園行ってやろうってよ……一緒だな理由は」
真上に投げたボールを右手で捕ると、本城は立ち上がり早乙女に向かって、久々に俺の球受けね? と少し元気そうに本城は呟いた。
早乙女は、静かに笑った。
「いいね。ちょっと怖いけど……あの頃に戻れそうな気がする」
そう言って彼は、グローブを手に取った。
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