第11話 患者のウェルビーイング向上

 前回は、医療従事者が患者のウェルビーイングに貢献できるんじゃないか、と述べた。

 今回は筆者が医師としての経験から学んだ患者のウェルビーイング向上のスキルを語りたい。

 

 筆者の考えるスキルは以下の3つ。

・本気の共感

・手段を示す

・未来を描く

 

 順に語っていこう。

 まずは本気の共感だ。


「患者さんに対しては共感的に接しましょう」

 この事はいつも言われている。

 筆者自身も研修医や看護学生に言ってきた。


 が、本当に共感「的」でいいのだろうか?

 共感してくれているのか、単なる共感的対応なのか。

 患者にはけて見えている。


 だから本気で共感すべきではなかろうか。

 少なくとも「本気で共感されている」と患者に思われるのがプロだ。


 具体例を挙げた方が分かりやすいかと思う。

 ある40歳代の女性、筆者の外来に通院している。

 病名は線維筋痛症せんいきんつうしょうだ。


 知っている人は知っていると思うが、なんせ全身が痛い。

 そして原因が分からない。

 治療法についても五里霧中。

 手探りの対症療法を繰り返すのみ。


 ある日の外来でこの患者が、心窩部痛しんかぶつうを訴えてきた。

 本人は「胃痙攣いけいれん」と表現している。

 胃がキュッと痛くなるのだそうだ。

 持続時間は2~3秒、そいつが連発で何度も起こる。

 典型的な状況だと、その連発が30分ほど続いて止まってしまう。


 そういった事が3日間連続で起こることがある。

 かと思えば、1ヶ月間まったく起こらない。

 この痛みが出現すると、しばらく悩まされる。

 こういう事が線維筋痛症せんいきんつうしょうが発症した3年ほど前からあるそうだ。


 あちこちの医療機関で訴えたが、話をまともに聴いてもらえなかった。

 多いのは「気のせいじゃないか」と言う反応。

「心の問題だろう」と精神科や心療内科受診を勧められた事もある。

 精神科受診に抵抗はないが行っても治らないんじゃないか、と彼女は感じているようだ。


 総診外来でこの話を聴いたとき、筆者にも見当がつかなかった。

 診断も、検査も、治療も。

 そもそも何科の守備範囲になるのか。


 院内コンサルで消化器内科や精神科を受診させる事も出来なくはない。

 でも、それで解決するのだろうか?

 

 胃が痛いから痙攣するから消化器内科?

 いやいや、消化器内科医は癌と戦うのに忙しい。

 腹部CTや内視鏡の後に「異常なし」として終診にされてしまう結末が目に見えている。

 器質的疾患の除外は重要だが、それで胃痙攣が治るわけでもない。

 

 心の問題かもしれないから精神科?

 彼らが戦っている相手は統合失調症や摂食障害だ。

 胃痙攣の診療について、精神科に過大な期待をしてはならない。

 そもそもこの症状、本当に心の問題だろうか。


 筆者なりにあれこれ考えた。

 できるものなら総合診療科で何とかしたい。

 そう思って、彼女の病歴や痛みの状況を根掘り葉掘り尋ねたわけだ。

 でも、この過程が患者に対して「本気で共感してもらっている」と印象を与えた気がする。

 振り返って筆者はそう思う。


 で、総合診療科の外来で何を思ってどう対応したのか。

 それを次回に述べたい。

 

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