猫又娘の大冒険 20
20
お城は朝から賑やかでした。トンテンカンテンと
昨日は色々なことがあってなかなか寝付けなかったまのでしたが、いつの間にか眠っていたようです。
「んん〜。何の音?」
ベッドから起き上がり、窓から外の様子を伺います。眩い光がまのの視界を一瞬、奪います。かつては暗くどんよりとしていたお城も、今では輝きを取り戻しつつあるようです。
「わあ!」
窓の外の景色は、とても見晴らしがいいものでした。それもそのはず、まのは結局、女王様の部屋で眠っていたのです。
「これが、女王様の見る景色なんだ」
お城の最上階にある女王様の部屋からの景色は遠くまで見渡せるようになっており、その眺望は見事の一言に尽きました。
「綺麗」
遠くに緑の森が見えます。恐らくユキミの家がある宝石の森でしょう。そのもう少し向こうに、自分が目覚めた花畑があるのかしら、などとまのは考えてしまいます。
少し視線を戻すと、お茶会が開かれた岩場が見えます。岩場にも少し変化があったようで、まだ赤茶けた岩肌が見え隠れしていますが、以前のような陰気な印象は受けません。天候のせいもあるでしょうが、きっと岩場ももう少しすれば草花が無骨な岩を覆い隠すでしょう。
青空には雲が流れ、自由に形を変えながら流れて行きます。
「あ、そうだ。何の音だったんだろう?」
当初の目的を思い出し、音のする方向──真下を見ようとしますが、どうも死角になっているようで見えません。何かを設営しているとは掛け声から察せられるのですが、はっきりとどういったものを準備しているのかが分かりません。
「ん〜、何をやってるのかしら?」
女王様がいれば訊ねることも出来たのですが、まのが起きた時にはお姿が見えませんでした。もしかしたら寝室は別にあるのかもしれません。
それならば、とまのは現場に行ってみようと思い部屋から出ようとしたところに、ユキミがやってきました。
勢いよく開いたドアにぶつかりそうになって、倒れそうになるのを、まのが支えます。
「あ、ユキちゃん、ごめん!」
「もう、びっくりさせないでよ」
ユキミは両手で大きな籠を抱えており、そのせいで前が見づらそうでした。
一旦その籠を置くと、
「起きてたのなら、ちょうど良かったわ。さ、その籠に着替えが入っているから、お風呂に入ったらそれに着替えてね」
「お風呂? 着替え?」
朝風呂に入れ、と言うことでしょうか。まのは説明を求めましたが、
「時間がないから急いで!」
とユキミに突っぱねられ、部屋から追い出されました。
「部屋の片付けはやっておくから、早く行って!」
ユキミはお浴場への地図を渡し──まのの方向音痴はそれほどのものなのです──部屋から追い出してしまいました。
ユキミが何を急いでいるのか分かりませんが、廊下で突っ立っていても仕方がありませんので、訳が分からないままながらも、まのは浴場に向かいました。
浴場は誰もおらず、貸切でした。お城の浴場なので一人で入るには広すぎました。
浴槽のお湯は少しぬるめでしたが、天窓から差し込む陽気と相まってちょうど良い湯加減でしたが、猫又であるまのはあまりお風呂が好きではなかったので、体を洗うとさっさと湯船から上がってしまいました。
「急げって言ってたから、これでいいわよね、うん」
少し弁解じみてみます。それに髪を乾かすのに時間がかかるので、あまり長風呂もできないのだから、とも付け足します。
「あー、もう上がってる!」
いきなりの声にまのはびっくりしました。声の主はユキミでした。水着でしょうか、濡れても良い格好に着替えてやってきたところを見ると、まのの背中でも流しにきたのでしょう。
「い、急げって言ったから」
弁解を用意しておいて良かったとまのは思いました。
「……うーん、まあ仕方ないか」
ユキミはそういうとトコトコとまのに近づき、わしゃわしゃとまのの銀髪をタオルで拭き始めました。
「ちょっと、ユキちゃん!」
「ん〜、届かないのだなあ」
「じゃあ、椅子か何かを台にしてちょうだい。せっかく昨日、女王様がブラッシングしてくれたのに……」
「ええっ!」
まのの発言にユキミはとても驚きました。まのが女王様の髪を梳くことはあっても、その逆は考えられなかったのです。
「そ、それはごめん」
打って変わってユキミは丁寧にまのの髪を拭き始めました。届かないところは椅子を台代わりにして、優しく髪を包むようにして乾かして行きます。
「ねえ、外では何をやってるの?」
「じきに分かるわよ」
これは秘密なのかな、とまのは思いました。なら、これ以上は聞かないでおこう、と。
「綺麗な髪ね、羨ましい」
「えへへ、そうでしょう? 女王様にも褒めてもらったのよ」
昨日のことを思い出し、まのは少し表情を曇らせます。
「いいなあ、あたしは黒髪だからなあ」
「あら、ユキちゃんの黒髪も素敵よ。あっ、そうそう。この国の人も猫又になるのかしら?」
「さあ、どうなのかなあ?」
ユキミは猫っぽい小人なので、猫とはまた違います。どちらかと言うと、もう半分は猫又寄りのようなものです。
不意にぽすんと、まのの背中に柔らかなものが当たりました。
「ユキちゃん?」
「……ちょっとだけ……だから」
腰に回されたユキミの丸い手を握り、まのはその感触を忘れないよう握りしめました。
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