入学式

今日は入学式。

登校2回目とはいえ、やっぱり入学式を迎えてこそ高校生になったと実感出来る。

日曜日なので式にはお母さんだけでなく、仕事が休みのお父さんも参列してくれる。

入学式の看板の前で記念写真を撮った後、会場の体育館へ。

保護者席に座る両親と別れ、新入生席へ向かった。


入学式はよくある入場行進のようなセレモニーはなく直接新入生席に座るようになっている。

席順表を見ると生徒番号順で、私の右隣は大谷星海さんだった。つまり一番違いというわけで、やっぱり縁があるのかしら?

その大谷さんはまだ来ていなかった。

左隣には、明らかに私よりも年上の女性が座っていた。服装も私や同年代の子たちのような制服風ではなくスーツを着ている。入学式というより入社式?なんて相手に失礼なことを思ってしまった。

でもそういう人も同級生になるのがいかにも通信制高校だなと感じた。


隣の席の女性(やっぱりハタチ過ぎの年上の方だった)と挨拶がてら少し話したり、配布された式次第などの資料を見て時間をつぶしていると、ふいにざわめきのようなものが起こった。

ん……?

こんなこと一昨日もあったような……

見ると、新入生席に向かってひとりの女の子が歩いてきた。

大谷さんだ。

長い髪を揺らしながら背筋を伸ばして姿勢良く歩く姿は、まるでランウェイを歩くモデルのよう。

国宝級の整った容姿の、光輝くような美少女のご登場に、周囲がざわめくのも無理はない。

彼女が隣へやってきた。私に気づいて笑顔を向けてくれる。

「「おはようございます」」

2人で挨拶を交わした。

大谷さんの今日の服装、紺ブレに胸元は赤いレジメ柄リボン、スカートはチェック柄という当世風の制服コーデ。

私は先日と同じ上下紺色のブレザーとスカート、式典を意識してネクタイにしただけ。

さすがに偶然は二度も続かないか。残念。


大谷さんが席に着いたのを見て、私は彼女のために用意したある物をブレザーのポケットから取り出した。

「大谷さんに、これをあげます」

「これは……?」

彼女に差し出したのは、私の作った折り鶴だった。

「おまじないです。左手に持っていると、緊張しなくなるそうです。あくまでもおまじないですが……」

彼女のあがり症克服のため、何か具体的にしてあげられることはないかとネットで調べた。結局、あがり症の克服や緊張の緩和は本人の気持ちの問題で他人がしてあげられることはなかった。

それでも口だけではない応援の形として見つけたのが、この折り鶴だった。

折り紙に「大丈夫」と書いて折り鶴にして、左手に持つと緊張しなくなるという。

これも本来は自分で作るおまじないだけど、今回はどうしても目に見える応援がしたくて私が作った。

「ありがとうございます。嬉しい……」

大谷さんは受け取った折り鶴を両手で愛おしそうに持った。

「手で持つと挨拶の時に原稿を持てなくなるから、ポケットに入れておいてください」

「はい……一昨日もらった勇気とこの折り鶴で、しっかりと代表を務められます。あとで校長先生に挨拶してきますね」

先日の私のグダグダな励ましの言葉を受けて、お隣さんに挨拶しにいくような気楽さで言った大谷さんはいたずらっぽく笑った。

可愛い……可愛すぎます。

周囲に座っている同級生たちもチラチラと見ている気持ちは分かる。

うん、このくらいの余裕があれば大丈夫なのかな。

それから、大谷さんが挨拶の原稿を見てイメージトレーニングを始めたので、私は邪魔をしないように配布された資料を見たりしながら、式の始まりを待った。

 

いよいよ開始の時刻となり、司会を務める先生が舞台下に置かれたマイクのそばに立ち、入学式が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る