第4話 雑誌記者の思い。
雑誌記者宮下は、誘われるように細い川べりを上流へ向かって歩いた。
暗いけもの道、滑れは小さな川に落ちかねない。されど、川に流れる点々とした灯籠の淡い光が自分を誘っているように思えた。
今行かなくてはならないと、長年の記者の感が言っている。
彼宮下がこの失踪事件に遭遇したのは25歳の記者の駆け出しの頃であった。
大きな事件に、心弾ませたのは仕方がないことだ。
だが、失踪者の家族に接していく内に違和感を覚える。
愛する我が子を兄弟を失った家族は涙を流すどころか、消え去った生徒のことを最初からいなかったかのようにすっかりと忘れてしまっていたという不思議。
「お兄ちゃん、いたの? 」
「ああ、いた…… 」
ある家族の取材時の会話である。
9歳の女の子が、親に兄がいたのかを聞いている違和感。
事件は2年B組の半数以上が失踪してから、気がつかれたのだ。
ー8月17日(日) 詩埜 千尋(しのはら ちひろ)、原乃 彩詠(はらの あやの)ー
二人の親が、警察に届け出て調査をしていくうちに23人もの少年少女が失踪していることに気がついたのだ。
ー事件発生は7月3日(木) 大空 陽菜(おおぞら ひな) ー
学園に登校してない日が、失踪日と定められた。
その間、親はどうしていたのかと謎をが深まる。多くの取材人が梨能市に訪れ、取材を開始していく。
だが閉鎖的な地域、失踪者の親等に取材をしているうちに
8月21日(木) 蒼城 紗詠(あおき さえ)
8月24日(日) 緒河 真桜(おがわ まお)
8月27日(水) 斎之宮 健誠(さいのみや けんせい)、隼林 大智(はやし だいち)、楯中 大翔(たてなか ひろと)
8月31日(日) 朝霧 陽翔(あさぎり ひなた)、松風 駿磨(まつかぜ しゅんま)
と、取材人をあざ笑うように少年少女が失踪して行った。
それ故に、雑誌記者宮下は真相が知りたかったのだ。その場、事件発生現場にいて7人もの少年少女の失踪を見のがしてしまったことに、今でも胸を掴まれる思いであった。
少年少女達は何故失踪したのかを、何故失踪しなければならなかったのかを。
事件に巻き込まれたのか、自ら失踪したのか。
何故親達は、彼らのことをいなかったようにすっかり忘れられるのか。
なんの証言も得られず、警察も早々とお蔵入りにする始末。
三十年もたち、自分ももう56歳になる。残り少ない最後の仕事として、雑誌記者として、宮下雪也は真相が知りたくて仕方がなかった。
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