第2話 入学試験

高校を卒業した俺は、迷うことなく探索者養成学校の門を叩いた。


当然、両親はこの選択に猛反対したが、完全無視して受験を申し込んだ。


ここで3年間の厳しい訓練を受けた後、国家試験に合格できれば、初めてダンジョンに入ることができるようになる。そこで魔物を一匹倒すことで、初めて「ステータス」を得られるという訳だ。


入学するには探索者適性試験、体力試験、筆記試験、面接の4つをクリアする必要がある。受験倍率は4倍近くと、結構高めだ。


最初の適性試験では、視力検査や聴力検査、色彩識別能力検査などが行われた。


これは全く問題なくパスできた。

しかし、体力試験はそうはいかなかった。


腕立て伏せを2分間で50回以内、腹筋を2分間で50回以内、3㎞走13分半以内

と、かなり厳しめに基準が設定されている。


試験のために、3か月前から鍛えていた俺でも結構ギリギリだった。


どうやらこの試験、女性も同じ基準で受けないといけないらしい。

道理で女性の受験者がいないわけだ。


「基礎的な体力はダンジョン攻略でそれだけ重要だってことか」


男だらけのむさ苦しい寮生活を想像して、少し憂鬱な気分になったが、嘆いても仕方がないと割り切る。


筆記試験は、国数英理社の基本問題が満遍なく出る方式で、俺にとってはそこまで難しいものではなかった。


「よし、完璧」


確かな手ごたえを感じ、俺は安堵の息を吐く。

あとは面接だけだ。


面接は広い部屋で行われた。中央に置かれた大きな机を挟んで、厳しい表情の面接官が三人座っている。断は、姿勢を正して椅子に座った。


「毛利断君、ですね。書類は拝見しました」


中央の初老の男性面接官が、分厚いファイルを覗きながら言った。


「高校の成績は極めて優秀。特に座学は、当校の基準を遥かに上回るレベルです。なぜ、これほどの学力がありながら、一般的な大学ではなく、この探索者養成学校を選んだのか、聞かせてもらえますか?」


その問いは、断が高校時代から何度も向けられてきたものだった。親も教師も、そして友人さえもが、彼の進路選択を理解できなかった。だが、断の答えは揺るがなかった。


「はい。大学に進学する、というのは、私にとって『普通』すぎました。それに、あの環境では、どうやっても『退屈』から逃れられないと思ったからです」


断の言葉に、面接官たちの表情は微かに変わった。彼らは、これまで数多の志願者を見てきただろうが、このような返答は初めてだったのかもしれない。


「退屈、ですか。この過酷な道を選んだ理由が、それだと言うのですね?」


一人の女性面接官が、やや皮肉めいた口調で問いかけた。


「ええ、そうです。幼い頃から、私は常に新しい刺激を求めていました。決まったルールの中で得られる知識や経験は、私の目には魅力的に映りません」


断は真っ直ぐに面接官の目を見て続けた。


「ですが、探索者は違います。ダンジョンという未知の領域、いつ何が起こるか分からない危険。すべてが僕にとって『面白そう』だと感じたんです。常に死と隣り合わせの状況で、自分の五感を研ぎ澄まし、未知を切り拓く。これこそが、僕が本当に求めていたものです」


彼の言葉に、面接官たちの間に沈黙が流れた。彼らは互いに視線を交わし、何かを評価しているようだった。


やがて、初老の面接官が小さく頷いた。


「なるほど。優秀な成績と、それを上回る好奇心、そして、ある種の狂気……。面白い。君の動機は理解しました。しかし、探索者の道は生半可なものではありません。危険は常に付きまとい、命を落とすことも珍しくない。それでも、君は進む覚悟がありますか?」


「はい。退屈な人生を送るくらいなら、僕は危険を選びます。それが、僕にとっての『生きる意味』だと、そう思っていますから」


断の返答に、面接官たちは初めて笑みを浮かべた。その表情は、彼の並外れた決意を認め、歓迎しているかのようだった。面接は終わりを告げ、断は静かに部屋を後にした。彼の心には、これまでになく明確な、未来への期待が満ちていた。







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