M 第23話 離反派の鬼人族
七罪モンスターに案内されるまま、私たちは大森林の中にあるちょっと大きな洞窟の前に降り立った。
結構大きそうな洞窟の入口には、いわゆるアルラウネみたいな植物系の美少女悪魔が血塗れの姿で立っていた。そして、口から血と一緒に太い植物を生やして死んでいる鬼人族の美男美女の姿もあった。
「っ! エイナさん……リシュルさん……」
あー、クラリネットちゃんの知り合いっぽい。これはやってしまった。
犯人は間違いなくこのアルラウネみたいな悪魔――七罪モンスター色欲のアルーシャンね。状況を見る限り、先に鬼人族が仕掛けてきたからやむなく殺してしまったってところかな。
正当防衛の範疇だとは思うけど……それでもやっぱり申し訳なく思っちゃう。
「お待ちしていましたわメープル様!」
「エキドナは中に?」
「はい。鬼人族と共にメープル様をお待ちです」
「分かった。……一応聞くけど、この人たち以外に鬼人族を殺しちゃいないよね?」
「あー、エキドナ様の命令で他に何人か……」
「せめてバインド系の技で拘束するに留めてほしかったな~」
現時点でこの鬼人族が現状維持派か離反派かは分からないうちはさ。現状維持の連中は殺しても問題ないと思うけど、クラリネットちゃんの味方をしている離反派はほいほいと殺すわけにはいかないからね。
で、クラリネットちゃんの反応から察するにこの死んでいる人たちは離反派だと思う。本当に余計なことをしてくれた。
「じゃあ、私たちは行くよ。アルーシャンは引き続きここで警戒監視。念のため伝えておくと、鬼人族は私が生殺与奪の判断をするから見つけても【ソーンバインド】とかで拘束するに留めておくこと。いい?」
「お任せください!」
というわけで、入口はアルーシャンに任せ、私たちは洞窟の中に入っていく。
「ごめんねクラリネットちゃん」
「え?」
「あの人たちのこと。部下が勝手に殺しちゃったから、その、色々と思うところがあるんじゃないかって」
「……メープル様って、魔王を名乗る割に優しいですよね」
え、私のどこを見てそんな感想が?
これで結構極悪非道なプレイをしてきたつもりなんだけど、それでまだ優しいってこの世界の倫理観はどうなっているんだろうか。
「エイナさんにもリシュルさんにもお世話になりました。恨みはないと言えば嘘になりますけど……弱いのにメープル様の魔王軍に挑んだ私たちが愚かなんです。仕方のないことだと割り切っています」
『我が口を挟むのもおかしな話ですが、力ある者こそがすべてなのです。弱き者が命を奪われることに、この世界の頂点たるメープル様が気になさることは何一つないかと』
クラリネットちゃんもデインズも根っこは似通った考え方をしているみたい。
この世界では力ある者がすべて、か。その考えにどこか染まり切れていない私もいたのは事実だから、早く慣れていかないと。
なんて、思っていたら洞窟の奥に辿り着いた。
そこには、身を寄せ合って震えている何十人もの鬼人族の姿と、その人たちを守るように毅然と立ちあがっている勇猛な男性、そして鬼人族を威嚇している残りの七罪モンスターとエキドナの姿があった。
「お兄様!」
「クラリネットか!? 本当に保護されて無事だったのか!」
やっぱり、あの毅然とした人が鬼人族の現族長で、クラリネットちゃんのお兄さんだったか。あんな人が上に立っていたら、後ろで震えているあの人たちも恐くても頑張ろうってなるよね。
さて。クラリネットちゃんとお兄さんが感動の再会を果たしているうちに、こっちはこっちで状況の確認だね。
「お待ちしていましたメープル様」
「エキドナご苦労様。早速で悪いけど、状況と私への話について教えてくれる?」
私がそう言うと、エキドナが深く頷いて腕で鬼人族を示す。
「聡明なメープル様であれば今の様子である程度は察せられたかもしれませんが、改めて報告させてもらいます。先刻、鬼人族の集落への移動途中にこの者らが武装した鬼人族によってどこかへ連れて行かれているのを発見しました。クラリネットの話から武装した鬼人族は現状維持派の連中と判断し、奴らを皆殺しにして彼らを保護しました」
「さっすがエキドナ。いい判断だと思うよ」
「ありがとうございます。……それでですね、クラリネットの話をこの族長であるユイシンと名乗る男にしたところ、まずはクラリネットと会わせてほしいと。鬼人族がこれからどうするかはそれ次第で返事をすると言ったため、メープル様にご足労願えないかと思ったのです」
エキドナからそんな感じの説明を受けていたら、クラリネットちゃんとお兄さん――ユイシン、だっけ? その二人が私の前に歩いてきて膝を折り、服従するかのような姿勢になった。
二人の動きに合わせて後ろの鬼人族たちも同じように私に忠誠を誓うような動きを見せる。
「エキドナ殿。先ほどは大変失礼なことを言った。許していただきたい。そしてメープル様。クラリネットから話は聞きました。どうか、我ら鬼人族をメープル様の配下として、そしてメープル様が作る国の民として迎えていただけないだろうか」
おっ、いい感じにすんなりと話が進みそうだ。私としては大助かりかな。
「いいよ。ただ、この後集落を襲撃して現状維持派の連中は皆殺しにするけど、それはいいの?」
「仕方のないことです。我らが仕えるべきは魔王メープル様、貴女様だけだとクラリネットの話で確信しました。貴女様の崇高さを理解しない者が命を落とすのは自然な流れなのです」
隣でエキドナがうんうんと頷いている。七罪モンスターたちもよく言ったと言わんばかりに優しい目を向けているのなんかウケるんですけど。
「分かった。じゃあ、これからよろしくね。あなたたちにはしばらくデインズと一緒にこの森の分割統治を任せる予定だから、そのつもりで私のために働きなさい」
「ははっ!」
ユイシンが深々と頭を下げる。
さて、これで鬼人族の離反派は私の支配下に取り込めた。ならば、残りは用無しかな。
「じゃあ始めるよエキドナ。鬼人族の集落を攻撃して私の敵を殲滅しなさい」
「はっ!」
エキドナのお手並み拝見といきましょう。
これから森に血の雨が降ることになりそうね。
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