M 第8話 世界征服の第一歩

 さてさてさーて。世界征服すると決めたわけだけど、実際何から手を付けたらいいんだろう。

 やっぱり支配領域の拡大辺りが無難かな? 今のところ、私が支配している領域っていうのはこの【崩天の暗黒魔城】くらいなものだからね。


「ねぇエキドナ。世界征服ってやっぱり支配を広げるところから始めるべきかな?」


 乗りで口走った私に具体的な計画案などあるはずがない。

 やっぱりここはエキドナの意見を参考にさせてもらおう。


「それがよろしいかと。広大な支配領域を持っていると何かと便利ですので、まずは世界征服の第一歩として眼下に広がる大森林の支配を進言します」

「確かにそれいいかも!」


 これだけ広い森を持っていたら何かと便利だろうしね。

 偽装拠点を作るもよしだし、どっかのアニメで見た他種族が共存する村を作るもよしだしね。これだけの大きさがあるなら思いきって伐採して村みたいな小さなものじゃなく町とか作ってもいいんじゃないだろうか。将来のメープル魔王国の王都! みたいな位置づけにもできそう。

 そうだこれがいい! さすがはエキドナだね!


「じゃっ、早速森の支配に動きますか」

「お待ちください。可能性は限りなくゼロに近いですが、脅威となる存在がいた場合に備えて明日、メルダが完全な報告を上げてきてからの行動開始というのはいかがでしょうか?」

「あー、そうしようかな。じゃあユリーシャ。今夜は遅いし一緒に寝室に行く?」

「ご一緒します!」


 世界征服は明日からにしよう。

 今日はユリーシャと一緒にベッドで甘々な時間を過ごすんだ。


◆◆◆◆◆


 そして、次の日の午後。


 お昼ご飯を味のうっすいリンゴで済ませた私は、ミゼルを従えて【崩天の暗黒魔城】正面門前にあるワイバーンライダーの発着場に立っていた。

 私とミゼルの後ろには、無数の魔神兵が待機している。呪言と戦槌だけじゃなく、剛力や双剣などといった他の種も含めた全種類の魔神兵を揃えてみました。こいつらの召喚にめっちゃ魔力使っちゃった~。

 かなりの軍勢になっていて、一部はまだ城内で待機を命じられている状態だ。邪魔してごめんねアトロヘル。


「メープルお姉ちゃん。魔王軍の準備、整ったよ」


 笑顔で報告してくれるミゼルの頭を撫でてあげると、彼女はさらに柔らかい笑顔になって私の手に頬ずりをしてくれる。

 細かな性格を設定していないNPCは、大体が見た目に引っ張られる性格や言動になるというのもちょっと前に見つけたことだ。ご覧の通り、ミゼルは年相応の子供っぽい口調になっている。

 まぁ、この口調や距離感が気に入らないってことでユリーシャとアトロヘルがぐちぐち言ってたんだけどね。


「じゃあ、大森林の支配を始めましょうか。……念のために言っておくけど、今回の支配対象は森林の全域ね。いないと思うけど川を越えた先にある人間の村を襲った奴がいたら死刑じゃ済まさないから」


 振り返って魔神兵たちに警告すると、一斉に武器を振り上げて承諾の意を叫びで示してくれる。

 村を滅ぼされて美味しいものが食べれなくなったらマジでソイツのこと一生恨むんだから。まだ味のする料理の秘密は解明できてないんだからね。


 っと。さて、本当に始めようか。


「じゃあ、攻撃開始! 大森林のすべてを私に献上しなさい!」

『『『ガアアァァァァァァッ!』』』


 おー、すごい気迫。

 咆哮と共に魔神兵が一気に闇の翼を展開して降下していく光景は圧巻の一言。この調子だと数日もあれば支配完了ってところかな。

 刃向かうなら死を、従うのなら慈悲を与えてやる方針で作戦展開だ。


「お姉ちゃん。私たちはどうするの?」

「んー? 私たちはね、メルダが報告してきたちょっと厄介そうな連中の対処に行くよ。雑魚は魔神兵で充分だからね」

「厄介そうな連中? 強いの?」

「弱いよ。でも、魔神兵だと手こずりそうだから」

「分かった! じゃあ、行こうお姉ちゃん!」


 私の手を引いて走り出そうとするミゼルは、なんだか妹みたいだ。

 微笑ましい気持ちが芽生えつつ、私もミゼルと一緒に魔王城を飛びだした。


 私たちが狙うのは主に5カ所。


 まず、この森の支配者とでも言うべき2体の強大なモンスターが支配しているそれぞれの領域。

 こいつらは戦槌の魔神兵と痛み分けになったとメルダが報告してきたから、興味があるし仲間にできるならしても面白いかもしれない。まっ、拒否するなら殺すのみだけど。


 次に、あの村を襲撃してきた魚人族の集落。

 あいつら、海と森林が接する場所の近くに拠点を持っていることが分かったんだ。ヴルって奴が気に入らなかったし、こいつらは滅ぼす一択で。


 そして、狼牙族っていう獣人の集落。

 この森には人の言葉を話せる獣人や亜人の部族が4つあるって報告で聞いた。そのうち、魚人族は気に入らないから滅ぼすことは確定で、鬼人族っていう種族は元からこの世界にいた魔王が支配しているみたいだから、私たちとは戦う道を選ぶだろうしこれも滅ぼす。兎人族っていう種族もいたみたいだけど、戦闘向きじゃない上にこの世界の魔王軍と魔神兵たちがうっかり滅ぼしちゃったみたいだから、どうしようもない。となると、誰からも支配されてない狼牙族は支配してみたいじゃん?


 最後に、森に築かれたこの世界の魔王軍の拠点。

 鬼人族との交流や大森林の資源、大森林とのモンスターとの戦闘で戦力強化を図る目的があると思われる拠点を魔神兵が発見していた。私としては無視でいいと思うんだけど、この話を聞いたユリーシャと四天王全員が秒で滅ぼせコールをしてきたから、彼女らの希望通り魔王軍の拠点は灰燼に帰す。


 とまぁ、この5カ所が私とミゼルで叩く、あるいは接触する場所なのだ。


 まずは森の支配者に挨拶に行こう。

 効率のため、一旦ミゼルとは別れて私は森林の南側へと飛んでいく。

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