第8話 シャンデリア事件(3)

「ニフェル様、こちら、トラフィズ領名物、スターフルーツのタルトレットでございます。爽やかな甘みが特徴でして、ご覧のように一口サイズの菓子でございますので、貴婦人たちにとても人気の逸品となっています。」


「どうもありがとう。では、いただきますね。」


「ニフェル様、ご覧くださいこちらの花!我がトラフィズ領でしか採取不可能なブーゲンビ

リアという花を髪飾りに加工したものです!はぁぁぁ!ニファ様の髪にとてもよくお似合いです!!」


「とても鮮やかなお花ですね。ありがとうございます。」


「「「「「「ニファ様!」」」」」


「えぇっと…順番にお願いします…!」


 はぁぁ、私、ここに何しに来たんでしたっけ…


 皆に転けそうになったところを見られそうになって、恥ずかしくなってトラフィズ家に1人で入ったら、トラフィズ家の使用人たちが、『ウィジー様の未来の花嫁』だとかなんとか言って、あれよあれよという間に、応接間に連れて行かれ、かれこれ1時間使用人たちのトラフィズ領自慢を聞いている…



 流石にそろそろ解放してほしい…と思っていると、

「お嬢様、遅くなり、申し訳ございません。お加減は大丈夫でしょうか?」

 この落ち着いた中低音はっ!救世主レイヴン!!一瞬嬉しさのあまり、満面の笑みで、淑

女であることも忘れて、後ろをばっと振り向いてしまった。



「…っ!♡、お、お嬢様、長時間の馬車旅でお疲れでしょう、先程お嬢様がお泊まりになられう部屋を聞きましたので、そちらでどうか、お休みになってください。」

「えぇ…!そうね!ありがとう、レイヴン!」

 私は、解放されたことへの喜びで、飛び跳ねてしまいそうだったが、淑女であるから、それは我慢した。


「では、失礼致します。興味深いお話、本当にありがとうございました…!」

 去り際に、申し訳程度に微笑んで私は客室を後にした。




 ――「っぷはぁ!!あー!びっくりした!何!あの美貌!あまりにも可愛らしすぎて、息をするのを忘れていたわ…!何!?あの美しさは…?!」

「本当にな!なんだ、俺、あんな5歳見たことねぇよ!なぁ?執事長!」

 ニフェル嬢が去った後、応接間では使用人たちが皆、ニフェル嬢の美しさに思わず見惚れていた。私もその1人であった。


 しかし、彼女を見送る時、ふと殺気を感じ、側仕えであるとかいう、レイヴンとかいう男の方をチラとみると、この世のものとは思えない顔をしていた…

ニフェル嬢を見たもの全員の目をつぶしてしまおうか、と言わんばかりの殺気に、そこに含まれているのは、憎悪、軽蔑…そして独占欲。


私はすっかり怖気付いてしまっていた。

「お、お前達、自分の命が可愛いなら、ニフェル嬢に無礼だけはしない方がいい。あれは…正気じゃない。」



 トラフィズ家執事長・ノルク。トラフィズ家で働く以前は、数々の戦場で勝ち星を上げてきた、エルダリー帝国の英雄的存在。

 引退後10年経っても、彼の実力はほとんど衰えていなかった。しかし、そんな男さえも、あの側仕えにかかれば、一瞬で殺されると直感でわかってしまうほど、彼の殺気は凄まじいものであった。――





 ――あの気色の悪いゴミ人間達が、お嬢様の半径1メートル以内に入っていた…あぁ、憎らしい。あの鳥畜生が、俺にあのようなことをしなければ、お嬢様はあんな場所に1時間も拘束されなかったのかもしれないというのに…!あぁ!面目がつかない!

…それにしても今日のお嬢様も、本当にお美しい。


 私が、あの空間に入った瞬間に、見せてくださった、あの屈託のない微笑みは本当に天使かと思った……!

しかも、あの空間から出た瞬間お嬢様は気づいていないだろうが、少しスキップをしながら歩いていらっしゃるっっ……!か、可愛らしすぎる…!!



「…!!…が!お前のような…!!!」


…右ななめ前方から、叫び声…なんだ?

「お嬢様、お下がりくださ…」


「ふむ、あの叫んでいる声の主は、おそらくトラフィズ侯爵よ。ちょうどよかった。私、あの方に確認したいことがあるの。行きましょう。」


ぐっっっっっっ!

 あのような小さなお体で、あの獣のような叫び声に臆しもせず、進まれようとするお姿、お美しい…!

「は。了解しました。」


 声のする方向へ、近づいていくと、一つの部屋から一筋の光がこぼれていた。

 叫び声も鮮明になっていく。――――

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