第28話: 地下アジトの教官・ケンプファー
結社の戦闘員たちの第一波を辛うじて退け、アジトのさらに深部へと進んだクロエたちは、やがて広大な地下ドームへと辿り着いた。
そこは明らかに武器庫と、そしてより高度な戦闘訓練を行うための施設として機能しているようだった。
壁際には、おびただしい数の剣や槍、そして見たこともないような形状の古代魔道具らしきものが整然と並べられ、ドームの中央には、巨大な戦闘訓練用のゴーレム(幸い、今は停止しているようだ)が設置されている。
そしてそのドームの最奥、一段高くなった場所に、一人の男が腕を組んで仁王立ちでクロエたちを待ち構えていた。
歳の頃は四十代半ばだろうか。筋骨隆々とした、歴戦の戦士であることを伺わせる屈強な体躯。顔にはいくつもの古い傷跡が走り、その鋭い眼光はまるで獲物を狙う猛禽類のように、クロエたちを射抜いている。
彼が纏うオーラは、これまでに遭遇した結社員たちとは比較にならないほど強力で、そして禍々しい。
「…ようやくここまで辿り着いたか、
招かれざるネズミどもめ。
我が名はケンプファー。
この『聖なる鍛錬場』の教官であり、
ヴァロワール様の大いなる理想に仕える、
忠実なる
ケンプファーと名乗ったその男は、地響きのような低い声で、ゆっくりと名乗りを上げた。
「貴様らが、我が手塩にかけて育て上げた、
未来の『新世界の戦士』たちを、
いたぶってくれたそうだな。
その罪、万死に値する。
ヴァロワール様のお手を煩わせるまでもない。
この俺が、ここで貴様らを一片残らず『剪定』し、
その汚れた魂を浄化してくれようぞ!」
ケンプファーはそう言い放つと、背中に背負っていた、身の丈ほどもある巨大な
戦斧の刃は、不気味な暗黒の魔力を帯び、空間を歪ませるほどのプレッシャーを放っている。
「……中ボスの登場——といったところですか。
予想通り、
このアジトには責任者クラスの
強力な個体が配置されていましたね。
アナリティカル・レンズの初期スキャンによれば、
彼の身体能力は古代魔法による
ドーピングで大幅に強化されている模様。
さらにあの戦斧は、
対象の魔力防御を減衰させる
特殊なエンチャントが施されている可能性が高い。
これまた——厄介な相手です」
クロエは冷静に分析しながらも、内心では強い警戒感を抱いていた。このケンプファーという男は、これまでの敵とは次元が違う。
ケンプファーは次の瞬間、その巨体に似合わぬ驚異的な速度でクロエたちに襲いかかってきた。
「まずは、一番すばしっこそうな、
そこの騎士崩れの男からだ!」
最初のターゲットはアランだった。ケンプファーの戦斧が、轟音と共にアランに振り下ろされる。アランは辛うじてそれを短剣で受け止めるが、そのあまりの威力に体勢を崩し、大きく後方へ吹き飛ばされてしまう。
「アランさん!」
クロエが叫ぶ。
「次は、そこの脳筋魔術師だ!
お前のその派手な魔法、どこまで通用するかな!」
(((脳筋魔術師——)))
当の本人以外の全員が心の中でそうつぶやいた気もするが、そんなことはさておきケンプファーは、休む間もなくバーンズへと矛先を変えた。
バーンズは「なめるな!」と爆裂魔法を放つが、ケンプファーはそれを戦斧の一振りで、まるで煙でも払うかのように
「ぐっ……はぁっ……!」バーンズもまた、一撃で戦闘不能に近いダメージを受けてしまう。
シオンは、その圧倒的なパワーを目の当たりにして
「これは……思った以上に厄介な相手だねぇ。
正面からぶつかるのは得策じゃない」
と呟いて距離を取りながら、古代魔法によるトリッキーな牽制攻撃を仕掛けるが、ケンプファーはそれらを老獪な戦闘勘で巧みにかわし、あるいは力ずくで弾き飛ばしてしまう。
彼の動きには一切の無駄がなく、長年の戦闘経験に裏打ちされた、洗練された殺意が込められていた。
——彼は、かつて王国騎士団に所属し、その勇猛さで名を馳せたが、ある事件をきっかけに騎士団を追われ、その後ヴァロワールの思想に共鳴し、結社に身を投じたという過去を持つ、いわば闇に堕ちた英雄だった。
「残るは貴様か、小娘。
その小賢しい魔法で、どこまで
この俺を楽しませてくれるかな?」
ケンプファーの血走った目が、クロエを捉えた。絶体絶命のピンチ。仲間たちは次々と倒され、残されたのはクロエ一人。
しかしクロエの表情には、一切の焦りも恐怖もなかった。彼女は、この絶望的な状況下でさえ、冷静にケンプファーの戦闘パターンを分析し、その弱点を探っていたのだ。
(彼のパワーとスピードは驚異的。
長年の戦闘経験からくる勘も鋭い。
だが魔法への対応は、
やや力押しで単調な傾向がある。
そして何よりも……あの左膝。
僅かだが庇うような動きを見せている。
おそらく過去の戦いで負った古傷が、
完治していないか、
——あるいは弱点となっている。
そこを突けば……勝機は、ある!)
クロエは反撃の糸口を見出していた。そして、そのための最適化された連携プランを瞬時に脳内で構築し始めていた。
「……確かにあなたは強い。ですが、
その強さも
非効率な怒りと憎しみに囚われている限り、
真の力とはなり得ません。
見せてあげましょう。
私の——最適化された戦い方というものを」
クロエは、オプティマイザー・ロッドを静かに構え、ケンプファーの次の攻撃を待った。
彼女の翠色の瞳の奥には、揺るぎない自信と、勝利への確信が灯っていた。
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