(ジェイ×ミチル)「プリマステラ」

 おてーてー、つーないでー

 ……などと暢気に歌える余裕はすでにミチルにはない。


 日中は野山をジェイと散歩して、ピクニックデートみたい♡なんて浮かれていた。

 だが、辺りはすっかり薄暗くなってしまっている。それでもジェイの歩みは止まらない。

 

 手を引いてゆっくり登ってくれるから疲れはないけれど。

 ジェイといるから不安とかもないけれど。

 それでも……


「ねえ、ジェイ。まだ着かないのお?」


 ついつい、ちょっと不満が口をつく。

 黙々と歩かされて、ミチルは正直飽きてきたのだ。


「む、すまないミチル。もう少しだ」


 ジェイの手は温かくて頼りになる。だから周りが少しずつ暗くなっても、ミチルに焦燥感はない。

 絶対の信頼をしているし、ジェイがそれを裏切る事は絶対にない。


 だけども……


「もう暗くて景色もわかんなくなりそうだよぉ……」


 目的もわからずに歩き続ける、いや、山道を登り続けるのは結構苦痛。

 どうせぽんこつの事だ、ジェイだけの思考で手一杯なのだろう。

 だから文句もちょっと出ちゃう。仕方ないじゃない。




「ああ、ミチル。着いた」


「ほへえ……」


 だが苦痛は突然終わる。

 陽が暮れてあまりよく分からないが、開けた場所に出た。

 ミチルのいた日本なら、小さい山の中腹にある展望台のような場所だった。


「ミチル、あれだ」


 ジェイはいつになく声を弾ませて、空の向こうを指差した。

 そこにはたった一つ、輝く星が昇っている。


「おおー、一番星かな?」


 小高い丘のような風情のこの場所は、清らかで爽やかな空気を感じる。

 凛と透き通って、少し冷たい風がミチルの蒸気した頬を冷ました。


 そんな清廉な空間に、瞬く星。それは、吹く風の冷たさからか高潔さも感じた。

 何ものにも侵されない、はっきりとした輝きがミチルに存在を示す。

 その星を見ていると、自分の心が前向きに定まっていくように思えた。


「プリマステラだ」


 短く言ったジェイの言葉の意味はミチルにはよくわからない。

 だけどその響きは気に入った。


「あの星の名前?」


「うむ」


「ほええ……なんか、いいねえ」


 ミチルが星を見ながら頷くと、ジェイは顔を綻ばせる。


「良かった。この星をミチルに見せたくて。ここからが一番良く見えるから」


「そうなんだあ、キレイだねえ……」


「ミチル」


 星に見惚れていたミチルは、ジェイに呼ばれて意識を戻す。

 見上げたジェイの顔は、薄暗い中なのに、星のようにキラキラ輝いて見えた。



 

「ミチルはプリマステラのようだ」


「うん?」


「最初に昇る星。一番の指標になる存在だ。ミチルは私の中に最初に光ったプリマステラ……」


「ふええっ!」


 ちょっと、急にどうした?

 ぽんこつナイトがポエミィに口説き出したぞ?


「ミチルは私の中で、何よりも尊く輝いて私の心を奮わせる」


 ちょっと、本当にどうした?

 夜空マジックか?


 ミチルは迫るぽんこつナイト(キザモード)の迫力に、うっかりラブが溢れそう。



 

「ああ、ミチル。君は私の、私だけのステラ……」


 迫る唇。温かい吐息。

 ミチルの体はあっという間にラブで砕け散る。


「はう……」


 冷たい夜風を、ジェイの温もりがミチルを温めた。

 どんなに暗くても。

 これからもっと寒くなるとしても。

 ジェイが側にいてくれたら、凍えない。安心して夜明けを待てる。


 ああ、ジェイもまた……


「ジェイだって、オレのお星様だよぉ……♡」


 すると、最上の愛に溢れた笑顔が返る。


「そうか。良かった……」


 力強い腕が、ミチルを包み込む。

 ジェイの胸から心音が聞こえる。嬉しさにトクンと跳ねている音が。


「あったかあい……」


 ミチルはその胸に頬を寄せて目を閉じた。

 全てを委ねると抱きしめてくれる、ジェイの温もりが心地良い。


「ミチルも、あたたかい……」


 柔らかな髪に、顔を埋めてジェイもまた目を閉じた。




 君だけが、心を照らすステラ

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