(ジン×ミチル)「オシャレマスク!?」

「るんるーん」


 ミチルがスキップして後ろを歩いている。

 毒舌師範たるジンがそれに気づくのに一秒もかからない。


「どうしたシウレン、ご機嫌ではないか──」


 何か良いことがあったのなら、可愛いスマイルが見れるはず。なんなら機嫌が良ければお尻くらい触れるかもしれない。

 そんな無謀な希望を抱いてジンは振り向いて絶句した。



 

「えへへ、先生どう? 似合う?」


 ジンのショックとは真逆の態度でミチルはニコニコしていた。尤も、その口元は黒いマスクをかぶってしまっていて見えないが。


「ど、どうしたシウレン? 風邪でも引いたのか?」


 具合が悪いのにニコニコしている、という不可解な行動をとるミチルの姿にジンはすっかり混乱している。

 しかし、ミチル的には不可解でもなんでもない。ご機嫌なまま首を振って答えた。


「違うよー。これは、お・シャ・レ! 黒いマスクってカッコいいでしょ? ストリート系に見えない?」


「……?」


 今のミチルの言葉の何ひとつ、異世界かつオジサンのジンには理解が出来なかった。


「先生?」


「……わからん」


「ええー」


 しきりに首を捻るジンに、ミチルは不満そうな声を漏らしていた。

 そしてジンは更にミチルに素直な疑問をぶつける。


「シウレンよ、何故わざわざ顔の半分を隠す? お前のかわゆい♡笑顔が見れないではないか」


「にゃ……っ、自然にかわゆいとか言わないでよ! いいじゃん、たまには」


 ミチルは少し頬を染めながら反論を試みた。だが、毒舌師範の前でそれは無謀な挑戦である。




「ではシウレンよ、儂が風邪でもないのにマスクをしていたらどう思う?」


「ええっ? なんでそんな勿体無いことすんの? イケメンを見せないなんてサービスが悪すぎるよぉ!」


 そう答えた時点でミチルの敗北は決定する。

 が、ミチルはまだそれに気づいていなかった。


「そら見なさい、今の儂はそれと同じ気持ちだ。風邪でもないのにマスクなど、お前のかわゆい♡顔をいつでも見ていたい儂になんという仕打ち!」


「先生とオレじゃあ、素材の良さが違うでしょーよ!」


「バカモノぉ! シウレンの方が何億倍もかわゆい♡に決まっているだろーがァア!」


 怒号とともに、音速を超えるジンの手刀がミチルの顔から黒いマスクを剥ぎ取った。


「あっ!」


 いつものミチルの顔が全開。ちょっと染まったほっぺがキュート!



 

「儂からそのかわゆい♡顔を隠した罰だぁ!」


 頬擦りすりすり、むっちゅっちゅー!


「にゃぁーん!」




 その晩、ミチルはあらゆる所をかわゆく♡されてしまったという……

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