第28話 黄金世代
その
「
放つオーラは、明らかにそれまでの2軍選手とは訳が違う。
吾妻のそれが洗練されたものなら、四宝院のそれは……自由奔放。
「タイム」
その時、
大和ナインは目を丸くしつつ、マウンドに集まる。
どこか、重苦しい空気が漂う中、
「さて、スーパースターのおでましだな」
と、笹本が
「サインでももらいに行くか?」
と、
「正直なことを言っても良いですか?」
2人の発言を半ばスルーするかのように、祐一が声を発した。
「どうした、
笹本が問いかける。
「このバッター、四宝院さんですけど……」
「ああ、さすがの阿部きゅんでもビビっちゃう?」
と、
「いや、むしろ、やりやすいなって」
「「「「…………はっ?」」」」
内野陣がキョトンとした。
「よく分からない、モブみたいな人たちよりも、特徴が分かっているこの人の方が、やりやすいです」
「「「「お、おう…………」」」」
「とりあえず、内野は定位置で構いません」
「外野は……?」
「この後、指示を出します」
祐一は淡々とした表情で言う。
内野陣は何だか冷や汗が出て来た。
一方で、
「では、よろしくお願いします」
祐一はそう言って、キャッチャーボックスに戻る。
内野陣はポカンとしながらも、それぞれの定位置に戻った。
「ごめんねぇ〜、僕ちゃん。お前、1年だろ?」
四宝院が、祐一に問いかける。
「ええ」
「まあ、天才のオレ様が出て来ちゃったのは、ほんの交通事故みたいなものだと思って、あきらめな」
「交通事故……ですか。それは嫌ですね」
祐一は淡々と受け答えしながら、クルッと振り向く。
「えーと……外野の人たちぃ〜」
間延びした声を響かせた。
センターの
「おうおう、そうそう。きちんとバックさせないとな。もう、フェンスにつくぐらいに……」
「前へ」
「「「「「「…………はっ?」」」」」」
誰しもが、耳を疑った。
指示された外野陣も、ポカンと立ち尽くしている。
「あれ? 聞こえていない? ダルッ」
と、祐一が毒づくと、
「外野前進だってよおおおおおおおおおおぉ!」
洋介が大声を響かせた。
ハッとした外野陣は、戸惑いつつも、前へやって来る。
「…………ん〜? 何かの聞き間違いかな?」
四宝院が、ニッコリ笑顔で言う。
「何か、ゴミ虫どもが、前に来てね?」
「ゴミ虫ではないですね。特に、センターの彼は」
「あ?」
四宝院が祐一を睨む。
しかし、彼は動じない。
「これでも一応、俺は真剣ですから。あなたを打ち取るために、最善を尽くしています」
「…………ほぉ〜ん?」
四宝院はこめかみをヒクつかせつつ、バットを構えた。
「…………コロすぞ、クソガキ」
恐らく、常人ならブルってしまうほどの威圧感。
けれども、祐一はブレない。
「とりあえず、そのバットで殴らないで下さいね」
「…………」
四宝院が正に相手をキルするような目を向けつつ、構えを取った。
「プレイ!」
異様にざわつく空気の中、
(……ほら、お待ちかねだぞ)
祐一がサインを送ると、洋介は目をパチクリとし、二カッと笑った。
祐一は、洋介が嬉しさのあまり、振りかぶって投げないか不安になったが、さすがにそこまでバカではなかった。
セットポジションから投じたボールは――
ズドオオオオオオオオオオオオオオォン!
重い残響を鳴らす。
「ストライク!」
(……ド真ん中とか、本当にアホだな、このゴリラ)
祐一は呆れる。
「あいつ、手を抜いてやがったのか?」
「本気出すと、やっぱはえーな」
「まあ、でも、四宝院が相手じゃ……」
打席に立つこの男は、
「……ふぅ〜ん?」
涼しい顔のまま。
「まあ、吾妻さんの10分の1くらいだな」
クルッとバットを回す。
「じゃあ、次でコロすぞ」
ニヤッと口元が笑った。
「四宝院相手にはもう、低めを丁寧につくしかない」
「ああ、そうやって、何とかホームランは避ける方向で」
「というか、満塁でも敬遠すべきだ」
そう、それが、常識的な対応。
しかし……
スッと。
祐一は、高めにミットを構えた。
「……外野前進で、ボールは高めを要求?」
「おい、あのキャッチャー、何がしたいんだ?」
「何かやる気なさそうだし、おふざけでもしてんのか?」
と、真剣な野球関係者はみな、怒った表情を見せる。
大和ナインは、みんな心がソワソワしていた。
けれども、祐一はどこ吹く風。
そして、洋介も……
「うおおおおおおおおおおおおぉ!」
雄叫びと共に、全力ストレートを放つ。
要求通り、高めに。
「……あぁ、クソうぜぇ」
四宝院は、低く声を発した。
バットが動く。
細身の身体から放つスイングは、そこまで力強い訳ではない。
スイングスピードが超速な訳でもない。
ただ、ドンピシャリ、と。
常人からすれば剛速球を、あっさり捉え、弾き返す。
カキイイイイイイイイイイイイイイイィン!
高らかな金属音を響かせ、白球は高々と舞い上がる。
「「「「「「うわぁ! 行ったああああああぁ!」」」」」」
誰しもが、悲鳴に近い叫び声を上げた。
ほら、言わんこっちゃない、と。
「これはもう、ホームラン確実……んっ?」
いや、待てよ、と。
高々と舞い上がった白球は、しかし、思ったよりは伸びない。
フェンス直撃コースか……
「…………んっ?」
「おい、あのセンター、めっちゃ追いかけている」
「てか、メッチャ速い!」
「そうだ、あいつ、あの……超特急くん!」
俊太郎は駆けていた。
白球が舞い上がった、その瞬間から。
彼の采配の意図を把握した訳ではない。
ただ、自分を信じて、頼ってくれたことは分かったから。
スパイクで、強く地面を蹴る。
「も、もう打球に追いつきそうだぞ!」
たぶん、フェンス直撃コース。
下手をすれば、大ケガをする。
それは怖い。
ひと一倍、臆病な自分は特に。
けれども、不思議と、脚のスピードは緩まなかった。
「うあああああああああああああああぁ!」
超速のまま、フェンスにぶつかる……のではなく。
飛び上がり、強く蹴って、さらに飛翔した。
そして、伸ばしたグラブに……
バシィン!
と、確かな手応えを感じた。
そのまま、何とか着地した。
少しばかり、足元がフラつくけど。
「ア、アウト!」
球審がコールした後も、球場内は水を打ったように静まり返っていた。
しかし……
「
マウンドから、洋介が駆け出す。
センターに向かって。
他のメンバーも、止めるかと思いきや、一斉に俊太郎の方に目がけて。
「へっ?」
キョトンとする俊太郎の下に、大和ナインが駆け寄った。
「またやってくれたなぁ! 早川ぁ!」
洋介が俊太郎を抱きしめた。
「うわわ! か、
洋介を中心に、俊太郎はもみくちゃにされる。
その様子を、周りは黙って見ていた。
「し、四宝院が……打ち取られた? というか、あのセンター……」
「……『
と、
「監督……?」
「『
「……あれは、伝説でしたね。監督自身も……いえ」
「そして、今度は……『剛速球』、『強要求』、『超特急』……か」
険しい顔立ちだった千石は、ふっと口元で微笑む。
「
千石は、大和ベンチの彼を見据えて言う。
一方で……
「バッター、戻りなさい」
右打席で固まっていた四宝院。
「おい、バッター……」
「……うるせえな」
「えっ?」
「いま戻るよ」
自分よりもずっと年上の主審に対しても、傲慢な物言い。
彼はバットを垂れ下げたまま、ベンチの帰って来た。
ドカッとベンチに座る。
誰も、声をかけられないほどに、重苦しい空気。
しかし……
「…………やられたな、四宝院」
と、吾妻が声を発した。
「…………えっ?」
四宝院が、ギロッと吾妻を見る。
「今のお前の打席、力みがあった」
「…………」
「自分よりもずっと格下と思っている相手に舐められていると思い、明らかに力みが入った。違うか?」
「…………」
「そして、お前の性格上、絶対にホームラン狙い。センターバックスクリーンへ」
四宝院をはじめ、明陵ナインは、試合前の笹本と四宝院のホームラン対決を思い出す。
そして、得心したように、頷いた。
「恐らく、あの1年キャッチャーだな。すべて、あいつの指示で、思惑通りだろう」
吾妻はそこで改めて、四宝院を見据えた。
「四宝院」
まっすぐに、捉えて離す目で。
「お前もまだまだ、修行が足りない」
瞬間、四宝院は、ぐわんと脳が揺れるように、揺らいだ。
そして、吾妻を睨みつけていたが……
「…………さーせん」
それだけ言って、うなだれた。
一瞬、一触触発のムードだっただけに、明陵ナインはホッと胸を撫で下ろす。
「さて、チェンジだ。行こうか」
吾妻はサッとグラブをはめて、立ち上がる。
そのまま、うなだれる四宝院の脇を通り過ぎて、マウンドへと向かった。
「四宝院」
今度は、千石が呼ぶ。
「もうやる気がないなら、帰って良いぞ。ヒッチハイクで」
「…………いや、行きますわ」
重い腰を上げた四宝院は、ファーストミットを持ってベンチを出た。
合同合宿 練習試合
大和高校 VS 明陵学園
大 9
明 4
5回表 大和高校の攻撃
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